労基法改正ニュース▶▶時間外労働の割増賃金率引き上げのポイントと対策
労働基準法の改正により、2023年4月1日から中小企業でも月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が50%に引き上げられます。今回は、この法改正のポイントと対策を、社会保険労務士法人Real&Cloudの松下 将大さんに伺いました。
今回の法改正は、時間外労働についての考え方を改めるチャンス
月60時間を超える時間外労働については、中小企業も割増賃金率が50%に引き上げられます。中小企業に該当するかは、以下の図の①または②を満たすかどうかで企業単位で判断されます。
(参照:000930914.pdf (mhlw.go.jp))
実はこういった法改正を、きちんと理解していない、そもそも法改正があることすら知らないという中小企業の経営者や人事担当者の方は多くいらっしゃいます。皆さん、さまざまな業務を兼務していることが多く、情報収集まで手が回らないという声をよくお聞きします。ただ、こういった法改正を理解しないままでいると、気づかないうちに法令違反になってしまう場合もあるのです。普段から労務関係のニュースや記事をチェックすること、社会保険労務士などの専門家に相談するなど、最新の情報収集ができる体制を整えておくことが重要です。
厚生労働省HP:https://www.mhlw.go.jp/
今回の法改正は、経営者や人事担当者の方からすると、頭を抱える内容かもしれません。実際に「これでまた、人件費が増えてしまう」という声もあります。
しかし、法改正である以上は個別の事情は考慮されず、ルール通り対応するしかありません。
考え方一つですが、単に「超えた分は払う」だけでなく、「そもそも超えないためにどうするか」という方向に転換してはいかがでしょうか。世の中の動きに合わせて「働き方改革」が推進される時代です。
以下で、働き方そのものを見直すためのポイントをお伝えします。
働き方を見直す制度、生産性を上げる方法とは?
長時間労働の対策として、「代替休暇制度」の導入・運用が挙げられます。割増賃金率50%というのは、建物を例にすると25%と25%の2階建てになります。
代替休暇制度は、この2階部分の割増賃金のかわりに、休暇を付与できる制度です。企業としては人件費抑制の効果があり、労働者としてもリフレッシュにつながるため、双方にとってメリットがある制度だといえます。
そもそも、労働者は時間外労働のみで60時間を超えて働いているわけですから、疲労もたまっているはず。体をこわしては元も子もないので、休暇も大切です。
そのほかに、変形労働時間制度の導入・運用も対策の一つです。
これは閑散期と繁忙期があらかじめ予想できる事業であれば、導入しやすい制度だと言えます。
例えば月単位や年単位で労働時間を配分し、閑散期は労働時間を短く、繁忙期は労働時間を長くするなどの対策ができます。「暇な時期は早く帰り、忙しい時期は集中して働く」という働き方は、今の時代にあったものです。
また、新たな機器やソフトウェアを導入することで、生産性を向上するのも良いでしょう。総務・人事部門においては、いまだに労働時間の集計や給与計算をアナログな手法で行っている企業が存在します。生産性向上やペーパーレスの観点からクラウドの勤怠システムや給与計算システムもさまざまなものがありますから、そういったシステムを導入することで、集計を自動化、用紙を封筒に詰める作業がなくなるなどで作業効率がアップします。システムを導入するとなると、当然費用がかかりますが、法をきちんと守り、要件を満たしていれば、雇用関係の助成金を受給することが可能となりますので、実質低予算での導入も可能となる場合があります。
人事担当者へのメッセージ
さまざまなクライアントを担当する中で、とある人事担当者の方からこんなお悩みを聞いたことがあります。
人事・総務担当が企業にとって重要なポジションであることは言うまでもなく、必要不可欠です。
しかし、営業部署のように行った業務が売上に直結しないこともあり、その担当者の方はそう感じておられたのです。
では、どうするのか?
今回の法改正を機に働き方改革に着手することで、生産性が向上し、労働時間が削減されれば、労働者の賃金アップが期待できます。その上で助成金まで支給されたとしたら、会社と労働者の双方の利益になります。働き方が改善され、社員のモチベーションが上がり、さらに利益を生み出す。これを人事・総務担当が実現できればいかがでしょうか。
これまで “守り”のポジションだったものが、“攻め”のポジションへと転換できるのではないでしょうか。
昨今の法改正はどうしてもマイナスのイメージを持ってしまいがちです。しかしそれだけでは何も変わりません。法改正を企業が変わるための一つのきっかけと捉えていただき、事業全体の生産性の向上や、働く社員のモチベーションアップ等につなげていってほしいと考えております。
社会保険労務士法人Real&Cloud
社会保険労務士 松下 将大
大学卒業後、社会保険労務士事務所に勤務。2016年に社会保険労務士資格を取得し、現職に。これまで大企業・中小企業あわせてこれまでに100社以上のクライアントを担当。
「労働や生活といった、私たちが扱う分野は社員の皆さまの日常につながります。そのため、クライアントさんには正しい知識や有益な情報をお伝えすることに注力しています」
コラムを書いたライター紹介
ウマい人事編集部
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