専門人材の採用日程見直しがもたらす、新卒の採用活動への影響とは?
2022年11月30日に開かれた関係省庁連絡会議で、政府は新卒採用における専門性の高い人材の採用日程を見直す方針を示しました。
本方針の情報について理解を深め切れていない、そもそもそのような発表があったことを知らなかったという企業・人事ご担当者様も多いかと思います。
そこで今回は、採用日程見直しの対象や採用日程見直しが行われる背景をお伝えすると共に、本方針がもたらす採用活動への影響と見直しに向けて準備しておきたいことをお伝えします。
対象になる専門人材とは?
まずは今回、関係省庁連絡会議の議題に上がった専門性の高い人材の採用日程見直しについて、対象となる学生をお伝えします。
採用日程見直しの対象となるのは、人工知能(AI)やデータ分析などを学ぶ学部・学科に属している学生です。具体的にはITや情報技術など、需要が高く成長性が見込まれる分野を学ぶ学生です。
採用日程の見直しが行われた場合、2026年春に入社予定の現大学1年生と大学院に進む学部3年生から適応されます。
採用日程の見直しが行われる背景
日本の新卒採用は時代の流れと共に、都度採用日程の見直しが行われてきました。
今回においては、次の2つの背景をもとに、採用日程の見直しが行われることになったと推察されます。
- 従来の新卒一括採用が時代にそぐわなかたから
- 外資系・経団連などの関連団体に所属しない企業との平等化を図るため
従来の新卒一括採用が時代にそぐわなかったから
人材流動が激化する中途採用に合わせて、適材適所の配置・人材の流出防止の観点から新卒採用も職務の内容を明示し、職務に合わせて人材を配置するジョブ型雇用を導入する企業が増えつつあります。
雇用の在り方が移り変わる中で、「就職活動に一律したルールを設けること自体、時代にそぐわない」という声が挙がるようになりました。
今回の採用日程を見直す方針については、このような時代の変遷をもとに、ジョブ型雇用の対象になり得る人材、つまり採用難易度が高く採用後の流出が懸念される専門性の高い人材に対象を絞り、従来の採用と平行しながら新しい採用軸を展開できるようにしています。
外資系・経団連などの関連団体に所属しない企業との平等化を図るため
また政府が定めた『就活ルール』と距離を置く外資系・経団連などの関連団体に所属さない企業と、採用不公平を生まなくする狙いもあると推測されます。
外資系企業では、新卒採用においても通年採用を適応している企業が多く、時期や期間を問わず優秀な学生の採用に向けて採用活動を行っています。
とりわけ専門性の高い人材は、需要が高く人材獲得競争が激化を極めています。
専門性の高い人材の採用日程が見直されれば、企業側にとっても外資系・経団連などの関連団体に所属さない企業との採用不公平が解消されます。
また学生にとっても、多様な選択肢を得られるようになると期待されています。
採用日程見直しがもたらす採用現場への影響
専門性の高い人材の採用日程見直しが行われることで、採用現場には次のような影響が生じると考えられます。専門性の高い人材の採用に注力する企業は次に紹介する影響を鑑みて、採用戦略や施策そのものを柔軟に変更していく必要があるでしょう。
通年化による季節性影響の低減
就職活動の早期化が更に進むことで、通年化に近い採用が実現します。また大学と企業との連携が増え、大学と連携した採用が叶う期待も高まっています。
就活生にとってはビジネスに触れる機会が増え、選択肢が広がるでしょう。
一方で企業は、専門性の高い人材の採用と今回の見直しに該当しない人材とで採用スケジュール・戦略・施策を区分し、採用活動そのものの進め方を練り直す必要が生じると考えられます。
多様な学生との接触機会が増える
日本経済新聞の記事では、経団連幹部は「新卒でも通年採用を活用することこそが若者に広く門戸を開く有益な方法だ」と強調しています。
専門性の高い人材の採用日程が見直されると、自然と対象となる学生の就活意識にも変化が生じるでしょう。結果として、早くから積極的に就職活動に取り組む学生が増え、企業にとっても多くの学生と接触する機会が増えると予想されます。
しかし採用日程が早期化することで、採用競争が今まで以上に長期化するでしょう。
参考:日本経済新聞『「新卒一括」見直しへ半歩 政府、専門人材の採用柔軟に』
就活ルール改訂に伴い起こり得る採用活動の懸念
企業・人事担当者は、専門性の高い人材の採用日程見直しに伴い、今から想定し得る懸念点を洗い出し、事前に対応を進めていく必要があります。
本項目では、就活ルール改訂に伴い起こり得る懸念点を3つご紹介します。
企業にブランド力があっても学生に選ばれない可能性がある
採用活動が早期化することで、学生はより多くの企業と接点を持てるようになります。
つまり学生にとっては多様な選択肢が生まれ、多くの企業の中から自分にとって魅力的に映る企業を選択できるようになります。
反対に企業にとっては、採用競合が増えることに繋がります。例えブランド力があったしても、学生に自社の魅力を訴求できなければ、採用競合に負けてしまうこともあるでしょう。
今まで以上に『学生に選ばれる企業』になるための採用活動を意識していかなければなりません。
新卒採用にかける工数・予算が増大する
今回、採用日程の見直しが行われる対象は専門性の高い人材のみを想定しています。つまり、専門性の高い人材以外は今まで通りの採用日程が適応されます。
そのため専門性の高い人材と専門人材以外の採用それぞれに対し、採用戦略やスケジュールを定めていかなければなりません。
ターゲットが異なれば、採用戦略や手法も変わってくるでしょう。多様な戦略・手法を用いれば、その分工数や予算もかかります。採用活動の工数・予算が増し、人事への負担も懸念されます。
専門職への理解・専門職専用の採用担当者が必要になる
ポジションや職種に応じて採用が行われる中途採用では、専門職採用において選考の場に現場の先輩や上司が同席するケースも珍しくありません。
一方で新卒採用は、ポテンシャル重視の一括採用が一般的です。そのため専門的ポジションの採用だったとしても、選考の場に現場の人間が登場するケースは多くありません。
専門外の人事担当者では、専門性の高い人材がどのような就職や働き方を望んでいるのか把握が難しく、学生の意向や期待に沿って採用活動を進めることは難しいでしょう。
しかし専門性の高い人材だけが対象となる、今回の採用日程見直しにおいては、採用者の専門職への理解が不可欠です。
採用目標の規模や専門性の高さによっては、人事担当者の専門職への理解や専門職専用の採用担当者が必要になってくるでしょう。
採用日程の見直しに向けて準備しておくべきこと
専門性の高い人材の採用日程の見直しが本決すれば、早々に人事制度や採用戦略の計画見直しに動き出さなければなりません。
最後に採用日程の見直しに向けて、今から企業・人事担当者が準備しておくべきことを紹介します。
自社への影響範囲を鑑みて早めに準備を進めていくことをおすすめします。
ルール変更を想定し自社の採用活動を見直す
先述の通り、本見直しにおける対象学生は『専門性の高い人材』に絞られます。反対に専門性の高い人材以外は従来の就活ルールに従い、採用活動を進めていかなければなりません。
そのため専門人材と専門性の高い人材以外それぞれに採用活動計画の策定が必要になります。
採用予算や人員など、早めにルール変更を想定した自社の採用活動の見直しを進めておきましょう。
自社の専門職社員が採用活動に関わる体制を作る
専門性の高い人材の採用日程の見直しが行われると、専門人材の採用難易度はさらに高まると考えられます。
専門職に関する知見の低い人事担当者だけでは、学生に自社の専門性の魅力を伝えることは困難です。
専門職に属する社員が積極的に採用部署と連携を図り、学生にリアルな魅力を伝えていく場が求められていくでしょう。
中途採用の現場では、専門人材の採用時に専門職社員が採用活動に関わるケースが増えてきました。
一方で新卒採用の採用現場では、専門職社員が採用現場に登場する機会は決して多くはありません。
しかし今回の採用日程見直しに伴い、組織全体で採用に取り組む姿勢が必要視されつつあります。
現段階において現場の専門職社員が採用活動に参加する機会を設けられていないのであれば、カジュアル面談や職場体験のような専門職社員と交流を図れる場を設け、専門職社員が採用活動に関わる体制を作っていく取り組みが必要です。
人事制度の変革を検討する
専門性の高い人材の中には、自分の専門性や学んできたことを活かせる仕事に就きたいと考える学生も少なくありません。そのようなターゲットに対して、日本従来の一括採用は魅力的に映りません。
今回の採用日程の見直しに伴い、人事制度や雇用の在り方そのものの見直しを求められる可能性もあります。専門性を発揮できるジョブ型雇用などの制度の導入も、視野に入れておく必要があるでしょう。
まとめ
就活ルールは、1953年の「就職協定」で初めて制定されました。以降、時代や市場の変化に合わせて幾度も見直しが行われてきています。
しかし今回の見直しにおいては、第一次大戦後の1920年から続いた日本独自の一括採用に大きな変化をもたらす可能性があると考えられます。
人材獲得競争を優位に進めるためにも就活ルール改定に向けて、企業も新しいルールの理解を深め柔軟に対応できる戦略の準備や人事制度の変革を進めておくことを推奨します。
参考:リクルート ワークス研究所『「新卒採用」の潮流と課題(大卒新卒採用の歴史)』
コラムを書いたライター紹介
日向妃香
得意分野は新卒採用とダイレクトリクルーティング。
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