人手不足倒産とは?過去最多となった背景や原因、企業が取るべき対策を解説


企業の倒産というと、業績不振や赤字経営を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし近年は、必要な人材を確保・維持できないことで事業継続が困難となり、人手不足倒産に至る企業が増加しています。

実際に、帝国データバンクの調査によると、2025年度の人手不足倒産は過去最多を更新し、業種や企業規模を問わず発生しています。人材不足は採用活動だけでなく、企業の持続的な成長や事業継続にも影響を及ぼす経営課題となっています。

そこで本記事では、人手不足倒産の定義や種類を整理した上で、人手不足倒産が増加する背景や社会的要因について解説します。また、人手不足倒産を防ぐために企業が今から取り組むべき施策についても紹介します。

人手不足倒産とは?

人手不足倒産とは、十分な売上や需要があるにもかかわらず、必要な人材を確保・維持できないことで事業継続が困難となり、倒産や廃業に至る事象を指します。

帝国データバンクが実施した「人手不足倒産の動向調査(2025年度)」によると、2025年度の人手不足倒産は前年度比約1.3倍の441件に達し、3年連続で過去最多を更新しました。

引用:帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年度)」

人手不足倒産は企業の成長機会を奪うだけでなく、地域経済の衰退にも繋がりかねません。人口減少が続く日本では、人手不足は今後も避けられない社会課題であり、企業には人が集まる組織づくりと少人数でも事業を継続できる仕組みづくりの両立が求められています。

人手不足倒産の種類

ここでは、人手不足倒産の種類について解説します。

従業員退職型

従業員退職型とは、経営幹部や熟練技術者、中核社員、若手社員など、事業運営に欠かせない人材が退職したことで事業継続が困難になるケースです。
特に、特定のスキルやノウハウを持つ人材が流出すると、その業務が滞り、企業全体の生産性や競争力が低下します。結果として、既存の顧客へのサービス提供に支障が生じたり、新規の受注が困難になったりすることで、最終的に資金繰りが悪化し倒産に至ります。

帝国データバンクの「人手不足倒産の動向調査(2025年度)」によると、従業員や経営幹部などの退職を原因とした従業員退職型の倒産は118件に上り、年度としては初めて100件を超え、4年連続で増加しています。

具体的な事例としては、橋梁工事業者であったライブディック(宮城県、2025年9月破産)が挙げられます。同社は従業員の退職が相次いだことで、例年通りの工事を受注できない状況に陥り、事業継続を断念しました。また、浄化槽の清掃保守・点検を手がけていた日本公害管理センター(東京都、2025年10月破産)も、2025年に入り複数の若手従業員が立て続けに退職したことが影響し、事業停止を余儀なくされています。

各事例からも分かるように、人材は単なる労働力ではなく、企業の競争力を支える重要な経営資源です。特定の人材への依存が大きい企業ほど、一人の退職が事業継続に深刻な影響を及ぼす可能性があります。そのため、業務マニュアルの整備による属人化の解消や技能継承の推進、エンゲージメント向上による離職防止などの取り組みが重要です。

参考:帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年度)」

求人難型

求人難型とは、求人広告を出しても応募者が集まらず、人材不足によって事業継続が難しくなるケースです。
特に中小企業は、大手企業と比較してブランド力や提示できる待遇面で劣る場合が多く、優秀な人材の確保がより一層困難になっている状況です。
求人難が続くと、既存の従業員への業務負担が増大する他、事業拡大の機会を逸したり、必要な業務が滞ることで顧客満足度が低下したりするなど、企業の成長を阻害することもあります。

求人難型の人手不足倒産を防ぐには、採用サイトやSNS、社員紹介制度、ダイレクトリクルーティングなど複数の採用チャネルを組み合わせる、採用ブランディングを通じて自社の魅力を発信するなどの施策が有効です。「待ちの採用」から「能動的な採用」への転換が人材確保の鍵となるでしょう。

後継者難型

後継者難型は、企業の経営者が高齢化や病気などを理由に引退を考える際、事業を引き継ぐ適切な後継者が見つからないために、廃業や倒産を余儀なくされるケースを指します。
後継者が見つからない背景には、親族内での承継が困難になっていること、従業員への承継が経営者の個人保証問題などで進まないこと、そしてM&Aによる第三者への承継が中小企業では難しいといった複合的な要因が考えられます。
また、後継者が存在しても経営ノウハウや顧客との関係性が十分に引き継がれていない場合、事業継続が困難になるケースもあります。

後継者難型の倒産を防ぐには、早い段階から事業承継計画を策定し、後継者育成や権限移譲を計画的に進めることが重要です。

人件費高騰型

人件費高騰型は、人材確保のための競争激化や最低賃金の引き上げ、さらには社会保険料の負担増などにより、人件費が企業の収益を圧迫し、資金繰りが悪化することで発生する倒産を指します。
近年は最低賃金の引き上げや、人材獲得競争の激化に伴う賃金水準の上昇が続いています。こうした変化は従業員の処遇改善につながる一方で、価格転嫁や生産性向上が追いつかない企業では、人件費の負担が経営を圧迫する要因となる場合があります。その結果、売上が維持できていても資金繰りが悪化し、人手不足倒産へ発展するケースが少なくありません。

人件費高騰型による倒産を防ぐには、業務効率化による生産性向上やDX推進による省人化、利益率の高い事業への転換など、付加価値を高める経営改革が不可欠です。

人手不足倒産が増加した社会的要因

人手不足倒産の増加は、日本社会全体の人口構造や働き方に対する価値観の変化など、複数の社会的要因が重なり合っています。そのため、採用活動を強化するだけでは根本的な解決は難しく、中長期的な視点で人材戦略を見直すことが求められています。
本章では、人手不足倒産が増加した社会的要因について解説します。

少子高齢化による労働力人口の減少

人手不足倒産が増加した原因として、少子高齢化による生産年齢人口の減少が挙げられます。

内閣府が公表している「令和4年版高齢社会白書」によると、日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少を続けており、2050年には5,275万人と、2021年と比較して約29.2%減少すると推計されています。
つまり、企業が採用対象とする働き手そのものが年々少なくなっている状況です。

引用:内閣府「令和4年版高齢社会白書」

生産年齢人口の減少を踏まえ、企業は人材確保が従来より難しくなることを前提に経営戦略を考える必要があります。採用強化だけでなく、DXによる生産性向上や人材育成、定着率向上など、多角的な施策を組み合わせることが今後ますます重要になるでしょう。

団塊世代の引退による熟練スキルの喪失

団塊世代の本格的な引退も、人手不足倒産が増加した要因の一つです。1947年から1949年に生まれた団塊世代は2025年に75歳を迎え、後期高齢者となりました。いわゆる「2025年問題」と呼ばれるこのタイミングでは、多くのベテラン社員や経営者が第一線から退くことになりました。

彼らの引退は、単なる労働力の減少に留まらず、企業内に蓄積されてきた貴重な熟練スキルやノウハウの喪失を意味します。特に、製造業の現場や伝統工芸、特定の専門技術を要する分野では、後継者育成が間に合わず、技術伝承が途絶えるリスクが高まっています。
また、団塊世代の引退は、経営面にも影響を及ぼすことがあります。事業を継続できる状況にあっても経営を引き継ぐ人材が見つからず、廃業を選択するケースも少なくありません。

こうした状況を防ぐためには、技能伝承の仕組みを早期に構築することが不可欠です。マニュアル化や動画による技術記録、OJT制度の充実、若手社員への計画的な教育などを進めることで、属人化した知識を組織全体の資産へと変えることができるでしょう。

ワークライフバランスを重視する価値観の変化

従業員の仕事に対する価値観の変化も人手不足倒産を招く要因です。
これまでの日本企業では、長時間働くことや会社への忠誠心が評価される傾向がありました。しかし、現在は働き方改革の浸透やコロナ禍を経て、仕事と私生活の両立を重視する考え方が幅広い世代に定着しています。
特に若年層では、給与だけではなく、リモートワークやフレックスタイム制度、有給休暇の取得しやすさ、副業制度、育児・介護との両立支援など、働きやすい環境を重視する傾向が強まっています。そのため、従来型の長時間労働や休日出勤が前提となる職場では、人材の確保がますます難しくなっています。

人手不足を解消するためには、変化する求職者の価値観を正しく理解し、企業文化や自社の制度を変革していく姿勢や取り組みが不可欠です。

人手不足倒産を回避するための対策

人手不足倒産は、一時的な採用難だけが原因ではありません。採用、育成、定着、業務効率化といった複数の要素が重なり合った結果として発生します。単一の施策だけでは根本的な解決は難しいため、企業全体の人材戦略を見直す必要があります。

本章では、人手不足倒産を防ぐために企業が取り組むべき対策について解説します。

デジタル化・ITツールの導入

人手不足の状況下で業務を効率化し、少ない人数でも事業を回せる体制を構築するためには、デジタル化やITツールの導入が有効です。RPA(Robotic Process Automation)やAI(人工知能)を活用することで、定型業務や反復作業を自動化し、従業員がより付加価値の高い業務に集中できる環境を創出できます。

また、クラウドベースのSaaS(Software as a Service)型ツールを導入することで、情報共有の円滑化、プロジェクト管理の効率化、営業活動の最適化などが図れるでしょう。従業員一人ひとりの生産性が向上し、限られたリソースでより多くの業務をこなせるようになります。
さらに、デジタルツールはリモートワークの推進にも寄与し、地理的な制約を超えた人材確保にも繋がります。

導入に際しては、自社の業務プロセスを詳細に分析し、どの部分にデジタル化の余地があるのかを見極めることが重要です。初期投資は必要となりますが、長期的な視点で見れば、人件費の抑制や生産性向上によるコスト削減効果は大きく、退職による業務停止リスクも最小に留められるでしょう。

待遇・労働環境の改善

待遇と労働環境の改善も、人材の確保と定着を図る上で有効です。
例えば、リモートワークやフレックスタイム制度、有給休暇の取得しやすさなど、従業員のライフスタイルに合わせた多様な働き方を提供することで、育児や介護と仕事の両立を支援し、離職防止に寄与します。また、子育て中の女性や介護中の従業員など、これまで労働市場に参加できなかった層も採用の対象となり、人材プールの拡大にも繋がるでしょう。

加えて、福利厚生の拡充も有効です。健康経営の推進や社員食堂の設置、住宅手当、資格取得支援、社内イベントの実施など、従業員の生活の質を高めるための施策は、企業へのエンゲージメントを高め、定着率向上に繋がります。
さらに近年は「心理的安全性」の高い職場づくりも注目されています。失敗を責める文化ではなく、挑戦を評価する風土がある企業は社員の定着率が高い傾向があります。

待遇改善は短期間で成果が出る施策ではありません。しかし、継続的な取り組みを通じて離職率の低下や採用競争力の向上を図ることができます。採用コストの削減という観点から見ても、既存社員の定着は費用対効果の高い投資といえるでしょう。

採用手法の多様化と人材サービスの活用

人手不足倒産を回避するためには、採用手法を多様化し、外部の人材サービスを戦略的に活用することも不可欠です。

特に転職潜在層へ直接アプローチできるダイレクトリクルーティングは、採用競争が激しい職種でも優秀な人材に直接コンタクトを図ることができます。
また、人材紹介会社を活用すれば、専門性の高い人材や管理職採用を効率的に進められるでしょう。
さらに、副業・フリーランス・業務委託人材を活用するのも有効です。すべてを正社員採用で補おうとするのではなく、必要な業務だけを外部人材へ委託することで、人手不足課題に柔軟に対応できます。

重要なのは、一つの手法や施策だけに依存しないことです。多様な採用チャネルを組み合わせることで、持続的かつ柔軟に人材を確保できるようになるでしょう。

外国人労働者の積極的な採用

国内の労働人口が減少し続ける中、外国人労働者の雇用は今後さらに増えると考えられます。近年は特定技能制度の拡充により、これまで以上に幅広い業種で外国人材を受け入れられるようになりました。
外国人労働者は、単に労働力を補うだけでなく、多様な文化や価値観、スキルを企業にもたらし、組織の活性化や新たなビジネスチャンスの創出にも貢献します。

外国人労働者を採用する際は、彼らが日本で安心して働ける環境を整備することが大切です。日本語教育や生活支援、キャリア形成支援などを充実させることで、外国人労働者の定着率は大きく向上するでしょう。

まとめ

人手不足倒産は、人口減少や高齢化、働き方の価値観の変化など、社会構造そのものが影響している経営課題です。実際に、売上や事業機会があっても必要な人材を確保・維持できず、事業継続を断念する企業は年々増加傾向にあります。

人手不足倒産を防ぐには、単に採用人数を増やすだけではなく、デジタル化による生産性向上や待遇改善、採用チャネルの多様化、外国人材の活用など、複数の施策を並行して推進することが重要です。

今後も労働人口の減少は続くと予測されており、人材確保をめぐる競争は一層激しくなるでしょう。人手不足倒産を将来のリスクとして捉え、早い段階から組織改革や採用戦略の見直しを進めることが、持続的な企業成長を実現します。

コラムを書いたライター紹介

日向妃香

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採用系コンサルタントとして企業の採用サポート・採用戦略構築・採用ノウハウの提供を行いながらライターとしても活動中。
得意分野は新卒採用とダイレクトリクルーティング。

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