【人事担当者向け】静かな退職とは?早期離職の兆候や面談で使える質問例

近年、ビジネス環境は目まぐるしく変化し、従業員の働き方や仕事に対する価値観も多様化しています。その中で、「静かな退職(Quiet Quitting)」という現象が注目を集めています。
静かな退職とは、実際に会社を辞めるのではなく、雇用契約上の義務は果たすものの報酬以上の努力や貢献をしない状態を指します。特に近年は、リモートワークの定着やキャリア観の多様化が進み、社員がどのような熱量で仕事に向き合っているのかが外側から見えにくくなっています。
そこで本記事では、静かな退職の定義から具体的な兆候について解説するとともに、人事担当者が従業員との面談で活用できる質問例を紹介します。
静かな退職とは?
「静かな退職(Quiet Quitting)」とは、従業員が与えられた職務を最低限の範囲でこなし、それ以上の努力や貢献を自ら進んで行わない状態を指す言葉です。実際に会社を辞める退職とは異なり、あくまでも精神的、あるいは心理的に仕事へのコミットメントを低下させる現象を意味します。
従業員は、与えられた業務をきちんと遂行し、勤務時間も守るため、表面的には問題なく働いているように見えます。しかし、自発的な提案を控えたり、キャリアアップのための学習に意欲を示さなかったりするなど、仕事に対する情熱やエンゲージメントが著しく低下している点が特徴です。
この現象の背景には、過度なストレスや評価への不満、働き方・価値観の変化、企業への帰属意識の低下など、様々な要因が複雑に絡み合っています。従来の「燃え尽き症候群(バーンアウト)」が仕事への過剰な没頭の後に訪れる心身の疲弊であるのに対し、「静かな退職」は、最初から仕事と一定の距離を保ち、精神的な負担を最小限に抑えようとする防衛的な行動とも解釈できます。
企業側から見れば、従業員が必要最低限の業務しか行わないため、組織全体の生産性やイノベーションが停滞し、長期的な成長を阻害するリスクを抱えることになります。
静かな退職の割合
静かな退職は、個人の問題に留まらず、多くの企業が直面している課題であることが、調査からも明らかになっています。株式会社マイナビが実施した「正社員の静かな退職に関する調査2026年(2025年実績)」によると、20~50代の正社員に静かな退職をしているか尋ねたところ、46.7%が「している」と回答しており、前年比で2.2ポイント増加しました。約半数の正社員が仕事に対して最低限の貢献しかしていない現状を示しており、企業にとって看過できない数字と言えるでしょう。
引用:株式会社マイナビ「正社員の静かな退職に関する調査2026年(2025年実績)」
なお、静かな退職をしている割合が最も高かったのは20代(50.5%)であり、若年層の半数以上が静かな退職の実行者となっています。
次いで30代(49.1%)、50代(46.7%)、40代(42.3%)と続きます。
引用:株式会社マイナビ「正社員の静かな退職に関する調査2026年(2025年実績)」
特に若年層では、静かな退職を一定の働き方や自己防衛の手段として捉える傾向が見られます。一方で、全年代で4割を超える従業員が静かな退職を実行しており、特定の世代に限らず、幅広い年代に共通する課題であることが分かりました。
企業は、静かな退職を組織全体で向き合うべき構造的な課題として認識し、具体的な対策を講じる必要があるでしょう。
静かな退職に陥る原因
社員が自ら静かな退職を選択するに至るまでには、必ず何らかの動機や環境の変化が存在します。
本章では、静かな退職に陥る原因を解説します。
過度なストレスやバーンアウト
従業員が静かな退職に陥る原因の一つに、過度なストレスやバーンアウト(燃え尽き症候群)が挙げられます。現代のビジネス環境は、常に高いパフォーマンスと効率性が求められる他、業務量の増加や複雑な人間関係、厳しい納期、そして常に変化する市場への適応など、多岐にわたるプレッシャーに晒されています。このような状況が長期にわたって続くと心身ともに疲弊し、仕事に対する情熱や意欲を失ってしまう場合があります。
特に、自分の努力が正当に評価されないと感じたり、業務の負荷が個人のキャパシティを超えているにもかかわらず改善されない状況が続いたりすると、従業員は自己防衛のために仕事への関与度を意図的に低下させ始めます。
企業は、従業員のストレスレベルを定期的にチェックし、適切なワークロード管理、メンタルヘルスサポート、そしてリフレッシュできる機会を提供するなどして、従業員の心理的負荷の軽減に努める必要があるでしょう。
評価への不満
評価への不満も従業員の仕事への意欲を低下させる要因になり得ます。
具体的には、成果を出しても昇給や昇進に繋がらない、あるいは同僚と比較して不公平な評価を受けていると感じた場合、従業員は「これ以上頑張っても無駄だ」という諦めの感情を抱くことがあります。また、フィードバックが不足している、あるいは一方的なものであり、自身の成長に繋がらないと感じる場合も従業員は仕事への意欲を失い、「最低限の業務をこなす」という状態に陥りやすくなります。
人事担当者は、評価制度が単なるノルマ管理になっていないか、一人ひとりの貢献を正しく捉え、従業員が自身の努力が報われると感じられる環境を整備する必要があります。
リモートワークによる帰属意識の低下
近年普及したリモートワークは、従業員の働き方に柔軟性をもたらした一方で、企業への帰属意識の低下という新たな課題を生み出しました。
オフィスでの偶発的なコミュニケーションや同僚とのランチ、休憩時間の雑談といった日常的な交流は、従業員が組織の一員であるという感覚を育む上で重要な役割を果たしていました。しかし、リモートワークが常態化すると、社員同士の交流機会が減少し、従業員は会社やチームとの繋がりを感じにくくなります。結果として、会社への愛着や忠誠心が希薄になり、帰属意識の低下を招くこともあります。
また、上司が部下の細かな表情の変化や疲弊の兆候に気付けず、適切なタイミングでフォローできないことも問題を深刻化させる一因です。人事担当者は、従業員間の繋がりを強化し、帰属意識を高めるためにも、定期的なオンラインミーティングの実施やバーチャルランチ、オンラインイベントの企画など施策の実施を検討してみましょう。
物理的な距離があっても心理的な距離を縮める努力が静かな退職を防ぐ鍵となります。
静かな退職の兆候
静かな退職は、従業員が最低限の業務をこなしているため、周囲が気付きにくい傾向があります。しかし、仕事への向き合い方や日々の行動には、徐々に変化が現れることも少なくありません。
本章では、静かな退職の代表的な兆候を紹介します。
自発的な提案や会議での発言が減少する
従業員が静かな退職に至るまでの兆候の一つとして、自発的な提案や会議での発言の減少が挙げられます。かつては積極的に意見を述べ、改善策を提案していた従業員が会議中に沈黙を守るようになったり、意見を求められても「特にありません」「進め方に従います」といった当たり障りのない回答に終始したりと、主体的な関与を避けるようになります。
これは、仕事に対する意欲やエンゲージメントが低下し、自身の貢献が組織に与える影響に対して無関心になっている心理状態の表れと言えるでしょう。
管理職や人事担当者は、こうした沈黙や姿勢を合意や順従と捉えるのではなく、熱量が失われた兆候として敏感にキャッチしなければなりません。
従業員の心理的な変化を早期に察知するためには、定期的な1on1ミーティングが有効です。単に発言が少ないという事実だけでなく、その背景にある従業員の心理状態を理解しようと努めることが、問題解決の第一歩となります。
極端な定時退社の徹底が増加する
それまで柔軟に業務に対応していた社員が、ある時期を境に「1分たりとも残業をしない」「定時になった瞬間に連絡が取れなくなる」といった極端な定時退社を徹底し始めた場合は、要注意です。
人事担当者は、単に定時退社が増えたという事実だけでなく、その従業員の業務に対する姿勢や以前との行動の変化を注意深く観察する必要があります。業務量が明らかに多いにもかかわらず定時退社を徹底している、あるいはチームメンバーが困っている状況でも手助けをしないといった行動が見られる場合、エンゲージメントの低下を示唆しているかもしれません。
効率化の努力による定時退社なのか、それとも関心の喪失による定時退社なのかを見極めるには、退社時のコミュニケーションや日中の業務への熱意を観察してみましょう。
研修や面談に消極的になる
自己研鑽やキャリアアップに意欲的だった社員が社内研修への参加を渋ったり、スキルアップのためのフィードバックを求めなくなったりすることも静かな退職の兆候の一つです。
人事担当者は、こうした成長の停止を安定と勘違いせず、成長意欲がどこで阻害されたのかを探る必要があるでしょう。従業員の心境の変化を早期に察知するには、定期的なキャリア面談や従業員が安心して本音を話せるような心理的安全性の高い環境作りが不可欠です。
成長意欲の喪失は、従業員のエンゲージメント低下だけでなく、組織全体の活力低下にも繋がるため、早期の介入が求められます。
業務時間外の活動に一切参加しなくなる
静かな退職の兆候として、飲み会や社内イベントなど、業務時間外の活動に一切参加しなくなるという行動の変化も挙げられます。
静かな退職をしている社員にとって業務時間外の活動は、自身の負担を増やすだけで仕事の成果や評価に直接的に繋がらないと感じており、参加することに価値を見出せなくなっていることも少なくありません。
もちろん、プライベートを優先することは個人の自由ですが、以前は参加していた活動に対して一貫して拒絶反応を示すようになった場合は、組織との情緒的な繋がりを意図的に断ち切ろうとする心理が働いている可能性が考えられます。
人事担当者は、従業員が業務時間外の活動に参加しない理由を丁寧にヒアリングし、その背景にある不満やストレスの要因を突き止めることが大切です。
静かな退職が広まることによる企業側のリスク
本章では、静かな退職が広まることによる企業側のリスクについて解説します。
生産性の低下
例えば、本来であれば積極的に改善提案を行うべき場面で従業員が「自分の仕事ではない」と割り切ってしまうと、業務プロセスの非効率性が放置され、問題解決が遅延します。
また、新しいプロジェクトやイノベーションへの意欲が低下するため、企業全体の成長スピードが鈍化し、競争力の低下を招く恐れがあります。さらに、一部の従業員が静かな退職の状態にあると、その分の業務負荷が意欲のある他の従業員に集中します。最終的に業務負荷を負った従業員のバーンアウトや静かな退職への移行を促すきっかけになることもあるでしょう。
このように、個々の従業員のエンゲージメント低下は、組織全体の生産性低下という形で企業経営に悪影響を及ぼすため、早期の対策が不可欠です。
組織成長の停滞
新しいアイデアや技術の導入、業務プロセスの改善といった組織の成長には、既存の枠組みを超えたアイデアの創出や部門を跨いだ主体的な協力が不可欠です。しかし、静かな退職の状態にある従業員は、そうした活動に積極的に関わろうとしません。組織全体として活気が失われ、成長の機会を逸してしまう危険をはらんでいます。また、従業員間のコミュニケーションが希薄になり、知識やスキルの共有が滞ることで組織としての学習能力も低下してしまうでしょう。
静かな退職は企業の未来を左右する重要な経営課題として捉え、早期に現状の改善を試みる姿勢が必須となります。
優秀な人材の流出
静かな退職が組織内で見過ごされ、放置されると、最終的には優秀な人材の流出という深刻な事態を招きます。
意欲の高い優秀な従業員は、周囲の静かな退職の状態にある同僚を見て、自身の努力が正当に評価されない実態や組織全体の停滞感に不満を感じ始めます。彼らは、自身の成長機会が限られている、貢献意欲が報われないと感じた時点でより自身の能力を発揮できる環境を求めて転職を検討するようになるでしょう。
特に、高いスキルや専門性を持つ人材は、市場価値が高いため、他社からの引き抜きやヘッドハンティングの対象となりやすく、一度流出してしまうとその穴を埋めることは非常に困難です。優秀な人材の流出は、単に労働力の損失に留まらず、企業のノウハウや文化、そして将来のリーダー候補を失うことを意味します。
また、残された従業員のモチベーションにも悪影響を与え、さらなる静かな退職や離職を誘発する可能性もあります。
企業は、優秀な人材の定着を図り、企業の持続的な成長基盤を強化するためにも、静かな退職の兆候を早期に捉え、従業員のエンゲージメントを高めるための施策を講じる必要があるでしょう。
人事担当者が面談で使える質問例
静かな退職の兆候が見られる従業員との面談は、デリケートな対応が求められます。一方的に問い詰めるのではなく、従業員が本音を話しやすい心理的安全性の高い環境を整え、共感と理解を示す姿勢が重要です。
ここでは、人事担当者が面談で活用できる質問例を紹介します。
1. 「最近、仕事で特にやりがいを感じたことや、逆に難しさを感じたことはありますか?」
仕事へのモチベーションやエンゲージメントの現状を探る質問です。
やりがいを感じることが少なかったり、困難さばかりを強調したりする場合、仕事への意欲が低下している可能性があります。どのような点がモチベーションの低下を招いているのか、質疑を重ね慎重に本音を探りましょう。
2. 「現在の業務量や内容について、負担に感じていることはありませんか?もしあれば、どのような点でしょうか?」
過度なストレスやバーンアウトの可能性を探る質問です。
業務負荷が原因で静かな退職に陥っている場合、対話を通じて負担になっている原因を探りましょう。従業員の健康状態やワークライフバランスへの配慮を示しながら、現状の改善を目指すことが大切です。
3. 「ご自身のキャリアプランについて、今後どのようなことを実現していきたいと考えていますか?そのために会社としてサポートできることはありますか?」
従業員の成長意欲や将来への期待を探る質問です。
キャリアプランが不明確であったり、会社での成長に期待を抱いていない様子が見られたりする場合、エンゲージメントが低下していると考えられます。
会社がサポートする姿勢を示し、再び意欲を引き出すきっかけを作りましょう。
4. 「チームや部署内のコミュニケーションについて、何か気になる点や改善してほしい点はありますか?」
帰属意識の低下や人間関係の課題を探る質問です。
リモートワーク環境下でのコミュニケーション不足やチーム内での孤立感が静かな退職の原因となっている場合があります。具体的な改善点を引き出すことで、組織としての対応策を検討できます。
5. 「あなたの貢献が、会社やチームにどのように役立っていると感じますか?また、もっと貢献したいと思うことはありますか?」
仕事の意義や評価への認識を探る質問です。
自身の貢献が正当に評価されていないと感じている場合、この質問に対して具体的な回答が得られなかったり、貢献意欲が低い様子が見られたりする可能性があります。従業員が自身の価値を再認識し、貢献意欲を高められるよう、評価制度の改革や適切なフィードバックに努めましょう。
各質問を通じて、従業員が抱える課題や不満を注意深く聴き取りましょう。そして個々の状況に応じた具体的なサポートや改善策を検討することが、静かな退職を防ぎ、従業員のエンゲージメントを再構築するための第一歩となります。
まとめ
静かな退職は、近年多くの企業が直面する課題であり、その兆候を早期に察知し、適切に対応することが企業の持続的な成長と従業員のエンゲージメント維持に不可欠です。
従業員が仕事に対して最低限のコミットメントしか行わない状態は、生産性の低下や組織成長の停滞、そして優秀な人材の流出という深刻なリスクを企業にもたらします。この現象の背景には、過度なストレス、評価への不満、帰属意識の低下など、多様な要因が複雑に絡み合っています。
静かな退職を単なる個人の問題として片付けるのではなく、組織全体の課題として捉えることが大切です。従業員がモチベーション高く業務に邁進できるよう、個々の本音を引き出し、より仕事へのやりがいや従業員であることへの誇りを感じられる環境の整備・提供に努めましょう。
コラムを書いたライター紹介

日向妃香
得意分野は新卒採用とダイレクトリクルーティング。






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