人事の仕事とは?これからの人事に求められる役割とスキルについて解説
人事の仕事は、会社の経営資源を構成する4つの要素「人・物・金・情報」のうち、人に関する業務で「人材」を管理をする部門です。管理部門の一部であるものの、経営と密接に関わっているため「会社の顔」とも言われます。
一方で、近年は「人材管理」から「人材マネジメント」へと考え方が移行しています。このような変化に対応していくため、人事担当者は市場を取り巻く現状を把握しておく必要があるでしょう。
この記事では、これからの人事に求められる役割とスキルについて詳しく説明します。会社の将来を担う人事として、どのような考えをもっておくべきかを押さえておきましょう。
人事がおこなう5つの仕事
人事の仕事は幅が広く、企業の規模によっても異なりますが、主に以下の5つに分けられます。
1. 人材採用
人材採用は、経営目標を達成するための重要な役割があります。企業の将来を左右するため、十分な計画のもとに採用活動を進めることが必要です。たとえば「どの部署に何人必要なのか」や「どのようなスキルをもった人材が必要なのか」をまとめ、条件に合った人材を探します。
採用の目的は、単に新しい人材の確保ではありません。採用した人材に活躍してもらうことが最終的な目的です。人材採用は会社の経営に直結するため、とくに重要な役割があります。
2. 人材育成
採用した人材を育成し、活躍できるようにするのも人事の大きな役割です。そのために、研修や教育を通じて、個人の能力を最大限に引き出します。研修方法は、社内研修や外部集合研修への参加、OJTなどが一般的です。
人材育成は入社後だけでなく、定期的に実施する必要があります。たとえば、法改正に関する研修や役職別の研修などです。その時々の情勢や、役割に応じて実施することが一般的とされています。定期的な教育で、社員のスキルアップや能力の底上げをおこなうことが目的です。
3. 人事評価
人事評価は、社員のモチベーションを高めるための重要な役割を果たします。能力を最大限に発揮してもらうためには、適切な評価が必要です。たとえば、自分の頑張りが正しく評価されていると感じられれば、さらに頑張ろうと思えます。
しかし、評価基準が曖昧だったり不公平な評価だったりすると、やる気が落ちてしまうでしょう。人事評価は、明確な基準を設けて公平に実施しなければなりません。また、結果をしっかりと給与や昇進・昇格など、個人の処遇に反映させることも重要です。
4. 人員配置
企業経営においては、誰をどこに配置するかが重要です。個人の能力を最大限に発揮できる部署に配属すれば、業務効率や生産性が上がります。また、本人が希望する部署に配属される制度があれば、モチベーションアップにもつながるでしょう。
人員配置にはバランスが必要です。部署からの要請や本人の適性などを踏まえて、適正な人員配置をおこなう必要があります。
5.人事制度の策定
賃金に関わる制度や、働き方に関する制度などを策定するのも人事の仕事です。どのような制度を導入するかは、企業によって異なります。ただし、社員のモチベーションが保てる制度にすることが不可欠です。
人事制度は社員の就労意欲に直結します。魅力ある制度にしなければ、業務効率の低下や離職につながることがあるため、策定した後も定期的な見直しが必要です。
人事を取り巻く5つの変化
近年、人事を取り巻く環境が大きく変化しており、従来の考え方が通用しなくなってきています。具体的にどのような変化が起こっているのかを見ていきましょう。
採用の変化
近年は、採用手法や戦略が多様化しているため、従来の考え方や採用手法では人材確保が難しくなってきています。たとえば、SNSを活用した採用や、ビジネスマッチングサイトの利用などです。人事はこのような採用トレンドに敏感になり、柔軟に対応することが求められます。
また、世代や求める人材層に応じて手法を変えることも、採用を成功させる秘訣です。
働き方の変化
働き方に関しても新たなニーズが増えています。たとえば、リモートワークの普及やワークシェアリングの広がりなどです。働き方が多様化しているため、従来の考え方にとらわれず、柔軟な働き方や雇用形態を受け入れる必要があります。
働き方のニーズに応えられない企業は、人材の採用や定着が難しくなるでしょう。
考え方の変化
近年は、ウェルビーイング(幸福感や満足度)の考え方が重視されるようになってきました。社員の定着率や企業イメージの向上につながるため、多くの企業でウェルビーイングを高める取り組みがおこなわれています。
ウェルビーイングへの配慮は、企業の社会的責任と言ってもよいでしょう。企業イメージは採用活動にも影響するため、積極的に取り組む必要があります。
労働力の変化
少子高齢化や価値観の多様化などから、労働力にも大きな変化が生じています。近年は、生産人口の減少や労働市場の変化などにより、労働力の確保が難しい傾向です。これらの変化に対応するためには、柔軟な働き方の導入や福利厚生の充実など、魅力的な環境づくりも求められます。
人事評価の変化
雇用形態や働き方の変化とともに、人事評価に対する考え方も変化しています。たとえば、成果主義の高まりや360度評価の導入などです。働き方の多様化により、従来の評価基準の適用が難しくなってきています。
今後、人事評価はさらに変化していくことが予想されます。従来の制度を見直し、現代の働き方に対応した評価制度の導入が必要です。
これからの人事に求められる役割
これまでの人事は「人材の管理」が大きな役割でした。しかし、近年は「人材マネジメント」としての役割へと変化してきています。「人材マネジメント」とは、個々の能力や可能性を最大限に引き出し、組織全体のパフォーマンス向上を目指す考え方です。人材マネジメントには以下の3つの要素があります。
エンゲージメントの向上
エンゲージメントとは、社員の仕事への熱意や愛着を意味します。社員のエンゲージメントが高まれば、自然と企業に貢献してくれるようになるのです。取り組むことで企業、社員どちらにとってもメリットがあります。
エンゲージメントを高める取り組みには、以下のような施策が有効です。
- 社員の意見を徹底的に聞く
- 社員の貢献を評価し、報酬や賞与を与える
- 自主性と裁量権を与える
- 働きやすい組織風土づくり
- ワークライフバランスの支援
エンゲージメントの向上は企業の持続的な成長に欠かせない要素です。そのため、企業において必須の取り組みと言えるでしょう。
個人の能力開発・育成
変化の激しい環境下で企業が生き残るためには、変化に適応できる人材の育成が不可欠です。個人のスキルや知識が向上すれば、組織全体の競争力が高まります。以下は、具体的な育成方法です。
- キャリアに合わせた教育や研修
- ジョブローテーションによる幅広いスキルの習得
- メンター制度の導入
- コーチングによる能力の向上
- 資格取得や起業などのキャリア開発支援
企業と個人の成長を同時に実現するためには、能力開発や育成が欠かせません。社員の希望やキャリアに合わせた能力開発を行うことで、個人はキャリアアップでき、企業は競争力がアップします。
DEIの推進
ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包括性)の頭文字をとった言葉がEDIです。
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DEIとは、従業員の多様性を認め公平に機会を与え、一人ひとりを受け入れて活かす取り組みのことです。従業員一人ひとりの個性や強みを最大限に生かし、活力のある組織をつくることが、企業の成長につながります。
また、DEIの推進には、職場の環境作りも不可欠な要素です。
これからの人事に必要な5つのスキル
これからの人事に求められる役割を果たすためには、これまでのスキルにさらに磨きをかける必要があります。中でも、下記のスキルは特に重要となるでしょう。
コミュニケーションスキル
人事に限らず、ミュニケーション能力は、仕事を円滑に進めるための必須スキルです。
コミュニケーションには「聴く力」と「伝える力」の2つがあります。
- 聴く力:本音を引き出し課題や要望を汲み取る
- 伝える力:伝えたいことを丁寧に説明し、理解と納得を得る
コミュニケーションの基本は、相手の立場に立って理解を深め、信頼関係を構築することです。人事はさまざまな人とのコミュニケーションの機会が多いため、相手に合わせた対話力が求められます。
戦略的思考力
これからの人事には、戦略的思考が求められます。企業の目標や理念に沿った人材を確保するためには、企業の経営戦略を把握する必要があるからです。経営戦略とは、経営目標を定め、その達成に向けて具体的に実行することを指します。
一方、人事戦略は、目標達成のために必要な人材を獲得し育成・活用するための行動です。
このように、採用計画は経営戦略と人材戦略を連動させて考える必要があるため、戦略的に分析する力が求められます。
分析力・データ活用力
人事にはデータを正しく収集・分析するスキルが求められます。さまざまな人事データから人材面の問題点を分析する必要があるからです。たとえば、労働時間データから長時間労働の実態を読み取り、課題を発見するなどが挙げられます。
また、戦略的な人事計画を立てるために、採用市場のトレンドや自社の人材ニーズを予測することも必要です。このように、人事には的確な分析とデータ活用力が求められます。
ITリテラシー
企業のDX化が進み、人事スタッフにもITスキルが求められる時代になっています。勤怠管理などの人事データ管理には、人事情報システムの運用が不可欠です。さらに、採用活動のオンライン化やeラーニングの導入など、急速なデジタル化が進んでいます。これらのシステムやツールを効果的に活用するにはITリテラシーが必須です。
また、人事は個人情報や給与データなど、機密性の高い情報を多く扱います。そのため、アクセス管理やパスワード管理、ウィルス対策などのセキュリティに関する知識も必要です。
柔軟な対応力
今後、労働力が減少していく中で、変化に対応できない企業は人材確保が難しくなります。そのため、経営に必要な人材がいなければ、企業は競争力を失うでしょう。また、人材だけでなく、ニーズの多様化や社会環境への配慮も人事に求められるようになってきました。
このような流れに対し、積極的に対応できる力が今後の人事のカギを握ります。
変化に対応できる人事になろう
現代ビジネスの変化に伴い、人事部門の役割や求められるスキルも変化しています。近年の人事部は「人材マネジメント」の役割をもち、戦略的思考力やデータ分析力などのスキルが重視されるようになりました。
また、働き方や労働力の多様化、IT技術の導入などにより、人事戦略も変化しています。
今後は、多様な働き方やウェルビーイングの考え方、DEIの推進などに応じた戦略へとシフトしていく傾向が予想されるでしょう。
これらの変化を柔軟に受け入れ素早く対応できることが、これからの人事には求められます。人事は企業の持続的な発展を支える鍵と言えるため、この機会に人事に在り方について考えるきっかけになれば幸いです。
コラムを書いたライター紹介
松尾隆弘
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