新人教育を任されたらどうすればいい?担当者に必要な考え方と研修の進め方を解説
人事の仕事は、採用だけでなく「一人前に育てる」ことも重要な業務です。そのため、採用担当とは別に「教育担当者」を任命して新人教育を実施する企業も多くあります。
新年度から「新人教育」を任された人もいるのではないでしょうか。初めての新人教育は、新入社員よりも担当者のほうがプレッシャーを感じ「どうしたらよいかわからない」と悩む人は少なくありません。
本記事では、初めて新人教育を任された担当者が、新人研修をどのような考え方で進めればよいかを紹介します。記事を読むことでプレッシャーを和らげ、新人教育を実施する際のポイントが理解できるので、ぜひ最後まで読んで参考にしてみてください。
新人教育で大切な5つの「考え方」
新人教育は「指導力が重要」と思われがちです。もちろん、教える力はとても重要ですが「考え方」も必要となります。
そのため、両方のバランスがとても大切です。新人教育がうまくいかないパターンでは「どちらか一方が欠けている」ケースが多くあります。
まずは、どのような「考え方」が必要なのかを見ていきましょう。
1.新人にはいろんなタイプがいることを心得る
人を指導するにあたって、よくありがちなのが「みんな同じ」だと思うことです。新人はそれぞれに個性があり、考え方も異なります。
重要なのはその違いを認めることです。従って「一人ひとり違った個性がある」ことを理解し、接し方や教え方を変える必要があります。
人は個性を認められることで、自己成長への意欲が高まる傾向があります。自分を尊重してもらえると、やる気や仕事への情熱が向上し、積極的に取り組むようになるのです。
新人教育を円滑に進めるためには、新人の個性と向き合い「みんな同じ」と考えないようにしましょう。
2.最初からうまくいくと考えない
初めて新人教育を担当する人は、「必ず成功させなければならない」とプレッシャーを感じ、意気込む人も多くいます。しかし、実際には最初から成功する人はほとんどいません。
成功させたい気持ちは大切ですが「失敗を気にしない」と思うことも重要です。一番やってはならないのが否定することです。自分や相手、どちらに対しても否定的になるべきではありません。
たとえば、新人の飲み込みが悪い場合「教え方が悪いのかも」と振り返るのは良いことです。しかし「覚えが悪いのは自分のせいだ」と否定的になってしまうと、自信喪失の原因になります。
また、新人が失敗することは当たり前です。うまくできないからといって本人を責めるのはよくありません。
新人は社会人経験が初めてなので、何度も失敗するケースはよくあります。「最初からうまくいかないのは当たり前」と考え、失敗を受け入れ改善させていく姿勢が重要です。
3.「指導する」ではなく「一緒に成長する」と考える
新人を指導するためには、これまでの経験や知識を整理する必要があります。ときには「もっと効率的な方法がないか?」と改善方法を考えることもあるでしょう。
これが自分を客観的に見直し、知識を整理するきっかけになります。つまり、新人教育は指導者としての経験値を積める機会なのです。
初めて新人教育を任されたときは「教えなければ」と意気込んでいるケースが多く見られます。確かに、意気込みは自分に対しての動機付けや、責任感を持つ上で重要です。
しかし「指導する」という気持ちだけでは、一方的な指導やコミュニケーション不足の原因になることがあります。従って「一緒に自分も成長する」ことを意識しましょう。
少し意識を変えるだけで、新人教育に前向きに取り組めるようになり、自分の成長にもつながるのです。
4.自分の経験を絶対視しない
周りから評価の高い人が、新人教育の担当を任されるケースは少なくありません。このような人は、自分の経験を絶対視してしまいがちなので注意が必要です。評価はさまざまな要素が組み合わさった結果なので「自分の経験したことがベスト」だとは限りません。
「自分の経験が役に立った」など、経験談を交えることで理解度や説得力が高まるため、経験は重要です。ただし、自分の経験や考え方が必ずしも正解だとは限りません。逆に、新入社員が新しい視点やアイデアを持っていることもあります。
そのため、自分の経験に固執せず、柔軟な姿勢で新人教育に取り組むことが重要です。教育担当者には、個々の特性や状況に応じて考えを尊重し、共に学び成長する関係を築くことが求められます。
5.失敗しても自分を責めない
「失敗は成長と学びの機会」と捉えましょう。失敗から何を学んだかを考え、それを次回の教育に活かすことで、より効果的な指導方法の発見につながります。
失敗を受け入れ、責任を感じることは重要ですが、自分を責め過ぎるのはよくありません。失敗しても大げさに自分を責めず、建設的な学びの機会と捉える姿勢が大切です。
自己肯定感が高い人は、自分の弱点を受け入れやすい傾向があります。そのため、失敗を自己成長につなげられるのです。
新人教育で必要な5つの「指導法」
新人教育を円滑に進めるには指導の仕方が重要です。指導法とは「人の成長を促進する考え方」を指します。
そのため、技術的なスキルとは異なる要素です。
新人教育には、次のような「指導法」が求められます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.本人に考えさせる
新人教育はマニュアルが準備されていて、講師が説明しながら進めることが多くあります。そのため、見れば全てがわかるように、しっかりとしたマニュアルを作り込んでいる企業もあるのではないでしょうか。
確かに、マニュアルは後から確認できるので、非常によいツールです。しかし、マニュアルを説明するだけの教育では受け身になりがちで、結果として「あとで読めばいいや」となってしまい、定着しにくくなります。ポイントは、本人に考えさせる質問を積極的にすることです。たとえば、マニュアルを説明しながら「次は何が考えられるか」など、自分の考えを説明させることも効果があります。
自らが考え能動的に取り組むことで、モチベーションも向上します。マニュアルを解説するだけの指導は定着率が下がる可能性があるので避けましょう。
2.質問と答え合わせを繰り返す
知識の定着率を上げるために、途中で質問し「自分で考えさせること」は重要ですが、間違った回答をした時の指導方法もポイントです。よくあるNG指導法として、以下のパターンがあります。
- 間違っていることを指摘するだけ
- 頭ごなしに叱る
間違った考え方は正さなければなりませんが「なぜ、間違ったのか」や「その方法だと次はどうなるか」など、意見を促す質問をすることで、本人はまた考えるのです。このように「質問と回答を繰り返す」ことで、自分の理解度や習熟度を確認できます。
正しい回答ができた場合は自信がつき、間違った場合には改善点を見つける機会となり、学習効果を最大限に引き出せます。「答え合わせ」だけの指導は、成長につながりません。
3.感情的にならない
新人教育を担当する人の中には「覚えが悪くてイライラする」と言う人がいます。熱心に教えているからこそ、つい感情がこもってしまいがちですが、感情的に接してはなりません。
感情的になると、新入社員は萎縮してしまい「習得すること」より「叱られないこと」に意識が向くようになり、逆効果です。また、強く言い過ぎると「パワハラ」とみなされるケースもあります。本人が成長するためには、叱ることも大切です。しかし「あなたはダメな人間だ」などと、人格そのものを否定すると自信を失ってしまい、信頼関係も壊れます。
叱るときには、落ち着いた口調で「行動や言動」を端的に指摘するよう心がけてください。「指導する側」と「教わる側」のレベルに違いがあるため、はじめから「パワーバランスは指導する側に偏っている」と認識しましょう。
4.指導に一貫性を持たせる
新入社員は、教えられる内容が頻繁に変わると不安です。「教わった内容は、また変わってしまうのではないか」と疑心暗鬼になると、情報や指導に対して不信感を抱き、教育内容に対して消極的な姿勢になります。
指導に一貫性があれば、教えられた内容を理解しやすく混乱しません。そのため、学習効果を最大限に引き出せるのです。
仕事をする上で、指示や方向性が変わることはあります。しかし、新入社員はまだ変化に慣れていません。
従って、内容に変更がある場合は以下の点に注意し、新入社員が安心して知識を吸収できるようにすることが大切です。
- 経緯を説明する
- 状況が流動的になる場合は事前に状況を共有する
- ケースバイケースの場合は、理解できるように丁寧に説明する
5.指摘する時は必ず理由を伝える
失敗や間違った考え方を指摘する時は、「なぜ間違っているのか」の理由もあわせて説明することが重要です。単に、指摘するだけでは「間違っていることの本質」が理解できないため、同じミスを繰り返してしまいます。
ひとつずつ理由を説明することは、時間もかかり非効率のように思えますが、指導する側も内容を見返すきっかけとなり、結果的に指導力の向上につながります。指摘に限らず、何かを説明する時は本質を理解してもらうことが重要です。
新人研修の進め方
「教えるのがうまい」と言われる人は、以下の5ステップを意識して研修を行っているケースが多くあります。この5ステップは「教え方の基本」となるので、ぜひ身につけましょう。
STEP1.仕事の全体像を伝える(理由付け)
新人は一度に多くの仕事を教えても理解できません。従って「わかりやすい部分」や「ここは必須」といったところから教えていくことになります。
しかし、このような教え方は仕事の全体像が見えにくく「なぜ、これをやらなければならないのか」がわからなくなることがあるのです。
理由がわからないまま取り組み始めると、ただこなすだけになってしまいます。新人教育を始める前に「仕事の全体像」を伝え、必要性を理解してもらうことで、モチベーションも高めやすくなります。
STEP2.具体的に実施する内容を説明する(説明)
全体像を伝えてイメージを持ってもらった後は、仕事のポイントや細かな手順を教えていきます。手順はマニュアルを作っておくとスムーズでしょう。
全てをマニュアル化することはできないので、ミスしやすいポイントや細かいルールなどは事前に整理しておき、詳しく説明することが大切です。
教える側も説明する内容を整理することで、漏れがなくなります。新入社員が理解できているかを確かめながら、丁寧に説明しましょう。
STEP3.実際にやってみせる(実演)
マニュアルや口頭で説明するだけでは、やったことのない新人にとっては、具体的に理解しにくい部分もあります。そのため、全体像を説明した上で、実際に仕事をやってみせることが重要です。
「やっている姿を見る」ことで説明された内容を確認でき、具体的にイメージしやすくなります。ただし「やってみせる」ときも「全体像を教える」ことは大事です。
「この仕事はどんなステップなのか」や「このステップのポイントやゴール」の全体像を教えてから、やってみせることが重要です。
STEP4.本人にやらせてみる(経験)
新入社員は、全体像を理解し実際にやっているのを見ると「できそうなイメージ」が湧いてきます。このタイミングで、本人にやらせてみましょう。ポイントは、一連の流れを自分の力だけで成し遂げさせることです。
つい、口をはさみたくなる場面も出てくるでしょう。しかし、まずは見守り、間違っている場合だけ「なぜ間違っているのか」を考えさせましょう。
重要なのはすぐに正解を教えないことです。自分で考える意欲がそがれてしまう恐れがあるため「教えすぎ」に配慮しながら指導することが重要となります。多少のミスがあっても重大でない限り、本人にやらせて経過を見守る姿勢が大切です。
STEP5.やったことを評価する(評価)
本人に経験させた後は、必ずフィードバックを行いましょう。新人がいきなり完璧にできることはありません。従って、悪いところを指摘するだけのフィードバックは避けてください。
フィードバックは「良い部分」と「悪い部分」の割合が「3:1」であることが理想です。指摘も必要ですが、必ず「できている点」や「良かった点」の評価も必ず行いましょう。
また、伝え方にも注意が必要です。たとえば「あなたは、ここで間違った」ではなく「ここは間違いやすいから注意しよう」といった伝え方にすることを心がけてください。
指摘する場合は、改善すると良くなると思われる点を「ポジティブな言葉」で伝えると、相手のやる気を引き出せます。
新人研修で失敗するパターン
新人研修で失敗する典型的なパターンを解説します。これをやってしまうと失敗する可能性が高まってしまうので、覚えておきましょう。
新人が理解できない言葉を使う
業界によっては特殊な言葉や専門用語が使われます。しかし、入ってきたばかりの新入社員は、ほとんど理解できません。
たとえば、マニュアルに専門用語が多く使われているケースなどがあります。専門用語の理解ができなければ調べる手間がかかることや、間違った理解をすることも少なくありません。
業界では当たり前に使っているような言葉が、業界未経験の新人には意味が分からないことはよくあります。従って、わかりやすい言葉で説明しなければなりません。
「分かりやすい言葉」とは「イメージしやすい言葉」です。理解できない言葉を使うと、仕事に対する不安を高めることや、人によっては敷居が高いと感じるケースもあるので注意しましょう。
コミュニケーションを取れる環境が整っていない
新入社員は仕事の知識やスキルがありません。従って、教育担当者や周りの人に聞きながら進めることになります。しかし、周りが忙しかったり、本人が気を遣ってなかなか聞けなかったりするケースがよくあります。
新入社員は「忙しそうだから聞くとまずいかも」や「同じ質問をしたら叱られそう」など、不安でいっぱいです。そのため、コミュニケーションを取りやすい環境を整えることがとても重要となります。
ポイントは、業務外でも積極的にコミュニケーションをとり「わからないことがあれば、いつでも聞いてね」と声をかけてあげることです。会社として教育担当者の業務量を減らすことや、複数の教育担当者を設けるのも効果があります。
目的や背景を教えない
日々行っている仕事には、必ず目的や背景があります。従って、簡単な仕事でも「何の目的があるのか」を初めにきちんと伝えなければなりません。仕事の目的や背景を伝えないと、意味を見出せずモチベーションが下がってしまいます。
「自分の役割や業務がなぜ重要なのか」を理解することで、自己成長に必要な学習や経験の重要性を認識するのです。また、今後自ら意思決定をする際にも、仕事の意味や目的、背景を理解する力が必要になります。
将来の基盤作りをするためにも、新人社員のうちに「仕事の目的は何なのか」や「どんな意味があるのか」をしっかりと理解させて、成長を促すようにしましょう。目的や背景がわかれば、その作業に積極的に取り組むことが期待でき、教育の成果も上がりやすくなります。
新人個人のビジョンを考えず、組織の意向のみで仕事を与える
新入社員は「会社のビジョンと同じ方向を向いている」と思っている人が多い傾向です。しかし、個人のビジョンと会社のビジョンが完全に同じだとは限りません。
たとえば、将来的には独立を考えている人や、出世には興味がない人など、人によって価値観は異なります。従って、個人のビジョンを無視して、組織の意向だけを押し付けると、新人のモチベーションは上がりません。
まずは、新人が考えている将来的なビジョンも理解した上で、教育していくことが重要です。会社のビジョンや目標を達成させるために教育することも大切ですが「新人が将来成し遂げたいこと」に関連付けて教育することが、新人育成には必要となります。
仕事に対して自分なりの「意義」を見つければ、モチベーションアップにもつながるのです。「個人のビジョン=会社のビジョン」ではないことを理解しましょう。
必要以上に手助けする
新人教育において、必要以上に手助けしないことも重要です。人は課題や問題に直面した際に、自ら考えることで成長します。挑戦や自己解決の機会を与えることが自信につながるのです。
しかし、必要以上の手助けは自らの能力やスキルを発揮し、成長する機会を奪う可能性があります。ただし「必要以上の手助けをしない=間違いを放置する」ということではありません。
新人が困難に直面した際には適切な指導を行い、解決するためのアドバイスを行いましょう。間違いを放置することで間違いから学ぶ機会を逃してしまうばかりか、重大な問題や失敗が発生するリスクが高まります。
見守りつつ、間違いは指摘し適切な指導を行うことで、同じミスの繰り返しを防げます。バランスの取れた手助けが新人の成長を促進し、会社全体のパフォーマンス向上につながるのです。
新人教育を行う際の注意点
最後に、新人教育を実施するにあたって必要なマインドを2つお伝えします。初めて新人教育を任された人は特に該当しやすい傾向にあるので、心得ておきましょう。それぞれ解説します。
自分ひとりで抱え込まない
新人教育の担当を任された人は「自分が責任をもってしっかり教えなければ」と気負いがちです。しかし、新人教育は想像以上に時間とエネルギーを必要とします。そのため、周囲を巻き込むことも必要なのです。
ひとりで抱え込むと、担当者の負担が増え、その結果、ストレスや疲労が蓄積されるケースも少なくありません。複数の人に協力してもらうことで、効率的に取り組めます。
また、複数の人が関与することで、異なる視点やスキルを活用できます。新人教育は自分だけで抱え込まず、遠慮せず周りに協力を求めましょう。
結果がでなくても焦らない
新人教育は入社直後から開始し、3か月〜6か月といった期間が定められていることがほとんどです。そのため「早く結果をださなければ」との思いが強い担当者もいるでしょう。
しかし、人によって成長ペースは異なり、予定通りに進まないことはよくあります。そのような状況でも冷静さを保ち、焦りすぎないことが大切です。
個人の状況や問題に応じて詳しく説明し、柔軟に調整しながら新人の自立をサポートする姿勢が重要となります。基礎をしっかりと理解しておかないと、今後の業務に支障が出てしまう可能性もあるので焦りは禁物です。
まとめ
会社にとって優秀な人材を育成するための重要なプロセスのため、教育担当者に対する期待は大きいでしょう。そのため、教育担当者はさまざまなことを意識しながら指導しなければなりません。
新人教育は「精神力」と「指導力」が必要です。新人はいろんなタイプがいることと、教育を通じて自分も成長するというマインドを持ちましょう。
また、指導する時は一方的に説明するだけでなく、自分で考えさせることが重要です。人によって個性が違うため、頭ごなしに叱ることや結果がでないことに焦ってはなりません。
さらに、自分ひとりで抱え込まず、会社全体で協力することも大切だと認識しましょう。ぜひ、この記事を参考に、効果的な新人教育を実施してください。
コラムを書いたライター紹介
松尾隆弘
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