ダイバシティ&インクルージョンとは?     メリットや企業事例を人事担当者向けに解説


近年、企業経営において注目を浴びる「ダイバーシティ&インクルージョン」。
経済産業省では、この多様性を活かす組織経営を「ダイバーシティ経営」と定義し、10年程前から日本企業に推進しています。

実際によく耳にするものの、まだ導入ができていない企業も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、人事担当者に向けてダイバーシティ&インクルージョンの概要やメリット、企業事例を解説していきます。

参考:ダイバーシティ経営の推進 (METI/経済産業省)

ダイバーシティ&インクルージョンとは?

「ダイバーシティ&インクルージョン」(Diversity & Inclusion)とは、個人個人それぞれもった特性の「違い」を受け入れ、互いに認め合い、組織で十分に生かしていくことを意味します。
ダイバーシティは、日本語で「多様性」という意味を表します。企業におけるダイバーシティとは、年齢や性別・文化・国籍・価値観の違いなど、さまざまな特性やバックグラウンドを持つ人材を活用することを通し、新たな価値を組織に創造し提供していく成長戦略のひとつです。近年、グローバル化が進み、顧客ニーズの多様化などの急速な市場変化に対応するため、ダイバーシティ経営に積極的に取り組む企業が増えています。

また、インクルージョンは「受容」という意味を表します。企業におけるインクルージョンとは、従業員一人ひとりが他者を認め合いながら一体となって成長を目指していく組織のあり方を示しています。従業員一人ひとりの多様性を受け入れることだけではなく、組織の一体感を感じることで互いの成長を促進し、イノベーションを推進する取り組みが「ダイバーシティ&インクルージョン」です。

ダイバーシティ&インクルージョンの社会的背景

日本企業がダイバーシティという言葉を用いるようになったのは2000年以降です。その頃の日本企業は、労働人口の減少および労働人口の構成変化により、労働力の確保が課題となっていました。これを解決するためには、それまで労働力の中心と捉えていなかった労働人口、具体的には女性や高齢者、障がい者、外国人などの雇用を推進する企業が増えてきました。

しかし、従来型の日本の雇用システムでは、なるべく画一的で均質的な組織をつくり、それを一様にマネジメントすることが合理的と捉えられてきた背景があります。画一的で均質性なことに慣れている従業員にとって、いきなり「今日から多様性を認めて受け入れる」ことは容易でないことは想像に難くないでしょう。暗黙的な排斥や差別が起きれば、受け入れ環境を組織で整備したとしても、定常的に運用することは困難です。そのため、「ダイバーシティ」だけではなく、それを補完し、定常的に発展させるために、「インクルージョン」の必要性が考えられるようになりました。

ダイバーシティ&インクルージョンのメリット

ダイバシティ&インクルージョンのメリットは以下の通りです。

優秀な人材の確保

性別や国籍、年齢などに制限を設けないことで広く人材を雇用し、教育体制を整えることで継続的に優秀な人材を確保し、その能力を存分に発揮してもらうことが可能になります。

イノベーションの創出

たとえば、女性ならではの発想、外国人独自の視点での提案、高齢者の深い経験から生まれる知見などが従来の視点に加わることで、イノベーションが生まれ、新しい事業や今までになかったサービス、商品などが誕生するきっかけが生まれます。

社員のモチベーション向上

多様な人材が能力を伸ばし、活躍できる制度の導入や職場づくりを推進することで、従来の社員も含めて誰もが「自分もこの会社で成長できる」「必要とされている」という意識を持つようになり、結果としてモチベーションの向上につながります。

離職率低下、定着率向上

社員のモチベーションが保たれることで、社員一人ひとりが自分の能力や適性に合った業務に就くことができます。その結果、職場で存分に活躍できていることが実感できるため「この職場で長く働いてキャリアアップし、より長く貢献しよう」という意欲につながり、ひいては離職率低下にも貢献します。

ダイバーシティ&インクルージョンを取り入れている  企業事例

近年、「ダイバーシティ&インクルージョン」経営に取り組む企業が増加しています。

経済産業省では、ダイバーシティ経営を行い企業価値が向上した企業を表彰する「ダイバーシティ経営企業100選」という施策を行っており、令和2年度は以下のような企業が選ばれています。

  • 株式会社熊谷組
  • エーザイ株式会社
  • カンロ株式会社
  • スズキハイテック株式会社
  • シスメックス株式会社
  • 東和組立株式会社
  • 横関油脂工業株式会社
  • 株式会社JSOL
  • 株式会社足立商事
  • 株式会社日立ハイテク
  • 株式会社四国銀行
  • ケイアイスター不動産株式会社
  • 株式会社ズコーシャ
  • 株式会社JTBグローバルマーケティング&トラベル

※経済産業省「令和2年度 新・ダイバーシティ経営企業100選」受賞企業一覧より抜粋

参考:令和2年度 新・ダイバーシティ経営企業100選 表彰企業

以上から、さまざまな業種、規模の企業が取り組んでいることがわかります。

今後は人材確保という側面からだけでなく、社会貢献の観点においても「ダイバーシティ&インクルージョン」経営がますます企業の使命となっていくことでしょう。
また、特に以前よりダイバシティ&インクルージョンへの取り組みの大きい以下の2社の取り組みをご紹介します。

ANAホールディングス株式会社(ANAグループ)

ANAグループでは、年齢・国籍・性別・価値観・障がいの有無などのダイバーシティを尊重し、一人ひとりがいきいきと働けるインクルーシブな職場作りに取り組んでいます。
ANAグループは、DEIを経営戦略の柱の一つと位置付け、経営トップが「ダイバーシティ&インクルージョン宣言」を発表しています。また、グループ全社員がDEIの重要性を理解し実践していく、一人ひとりの行動のベースとして意識するための合言葉を策定しています。

 私たちは

 Diversity (多様性:人種、国籍、宗教、文化、年齢、障がいの有無、性別、性的指向・性自認、価値観、経験、働き方など)
Equity (公正性:多様性に応じた支援と公正な成長・チャレンジの機会)
Inclusion (受容・共生:個々の違いの理解、チームとして支え合う意識)

という三つの要素を大切に社員の多様性を尊重し、誰もが活躍できる職場作りを通じて、より良い社会の実現に取り組んでいきます。

事例:ジェンダー平等に関する取り組み

ANAグループでは、2021年6月までに意思決定の場における女性比率を高めるという中期目標を掲げています。2020年代の可能な限り早期には、女性役員・女性管理職比率30%以上の実現を目指しています。その実現に向けて、グループ各社・各部門・職場において、人事制度や支援制度の見直し、能力開発、意識醸成などのアクションを展開しています。

また、多様性を活かして新たな価値を創造できる職場の実現に向け、重点指標について定期的な議論と進捗確認を行い、タウンホールミーティングや経営トップメッセージなど、従業員との対話を通じてダイバシティ&インクルージョンの浸透を図っています。

公式HPより引用:DEI(持続的成長を担うひとづくり) | サステナビリティ | ANAグループ企業情報

三井住友海上火災保険株式会社(MS&ADインシュアランスグループ)

MS&ADインシュアランスグループでは、グループの強みである多様性と多様な価値観を最大限発揮するために、人種・ 性別・年齢など個人の外面の属性や、宗教、信条、経歴や価値観など内面の属性にかかわらず、それぞれの個を尊重し、認め合い、それぞれの良いところを活かしていきます。そして、社員一人ひとりが、いきいきと働き、プロフェッショナルとして能力を最大限に発揮するとともに、チームワークを発揮していきます。

事例:女性活躍推進の取り組み

女性が仕事と生活の調和を図れるよう、働きやすい職場環境づくりに取り組んでいます。また、女性がやりがいをもって成長できるよう、経験を積む機会の拡大や、管理職を目指すための研修プログラムの開発にも取り組んでいます。

女性が働き続けやすい環境を整え、管理職を着実に増やすために、女性活躍推進法に基づく数値目標を設定しました。2023年4月には女性管理職比率30%以上、2023年3月末には年次有給休暇取得率85%以上を目指しています。

公式HPより引用:ダイバーシティ&インクルージョン|会社情報|三井住友海上 (ms-ins.com)

ダイバシティ&インクルージョンで誰もが働きやすい職場環境を整えましょう

「ダイバーシティ&インクルージョン」は、もともと米国で生まれた考え方で、現在では先進国において広く採用されています。しかし、日本について見てみると言葉自体の認知度は高いものの、実際に本格的に導入し取り組んでいる企業はまだまだ少ないのが実態です。

少子高齢化社会の到来による採用難やグローバル化における競争力強化など、日本の企業はこれから多くの課題に直面していくでしょう。これらの課題をいち早く解決するためにも、「ダイバーシティ&インクルージョン」企業人事として取り組む真の意味とそれにより享受できるメリットについて正しく理解した上で、成長戦略の核としていく企業の姿勢が求められています。

 

参考文献
荒金 雅子 著「ダイバーシティ&インクルージョン経営: これからの経営戦略と働き方」日本規格協会
二神枝保・村木厚子 編著「キャリア・マネジメントの未来図―ダイバシティとインクルージョンの視点からの展望―」八千代出版

コラムを書いたライター紹介

真南風文藝工房

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編集者・ライター・サイエンスコミュニケーター・工学修士(航空宇宙学)
自動車メーカーでの先行開発エンジニアを経験した後、理系教科書編集(高校数学・中学校理科教科書編集)職に転向。近年は、サイエンスライティングに加え、理系・元エンジニアとしての経験を活かし、大学院生向け就職活動サイトコラム執筆・AI関連企業広報ライティングなど、幅広い分野での執筆活動に取り組んでいる。

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