人事担当者が意識したいウェルビーイング|いま注目される理由について


ウェルビーイング(Well-being)とは

直訳すると「良好な状態」あるいは「良く在ること」を意味する言葉で、その語源は、イタリア語で「福祉、健やかなしあわせ、人間と環境が調和した状態」を指す「benessere(ベネッセレ)」に由来しています。

このウェルビーイングを実現するために、1998年当時、米国心理学会会長であったペンシルベニア大学心理学部教授のマーティン・E・P・セリグマン博士によって提唱された「ポジティブ心理学」から生まれたのが「ウェルビーイング理論」です。

ウェルビーイングについて、初めて言及されたのは、1946年の世界保健機関(WHO)憲章草案の中で、
「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。
(日本WHO協会訳)」と定義されました。

参照:公益社団法人日本WHO協会 https://japan-who.or.jp/about/who-what/identification-health/

その後、ウェルビーイングがQOL(生活の質)の到達目標となり、1990年にWHOはQOLを次のように定義しました。

「個人が生活する文化や価値観の中で、目標や期待、基準および関心に関わる自分自身の人生の状況についての認識」

つまり、このような認識が高いと感じられる状態が「ウェルビーイング」です。

出典:世界保健機関(WHO)憲章とは https://japan-who.or.jp/about/who-what/charter/

ウェルビーイングを構成する5つの要素:PERMA(パーマ)とは何か

ポジティブ心理学には、ウェルビーイングを高めるための5つのフレームワークがあり、その頭文字を取って「PERMAモデル」と呼ばれます。

P.ポジティブ感情(Positive Emotion)
E.エンゲージメント(Engagement)
R.関係性(Relationships)
M.意味・意義(Meaning)
A. 達成(Achievement)

ウェルビーイングがいま大きく注目されている理由

ウェルビーイングは、数値として表すことのできない幸福度を定義を用いて可視化したものです。幸福度は人によっても、また国によっても大きく異なります。

人生の中で仕事が占める割合は

仕事は人生を構成するなかで大きな要素であるため、幸福度の向上において重要といえるでしょう。

とくに社員の幸福度を向上させるためには、国民一人あたりのGDPや社会的サポート、人生選択の自由などとの関連度が高いことから、企業におけるウェルビーイングの取り組みが注目されています。

日本の幸福度は世界で54位

2022年3月に公開された「世界幸福度ランキング※1」において、日本の順位は54位。

2020年の62位、2021年の56位と比較すると、少しずつではありますがランキングが上がってきてはいるものの、他の先進国と比較するとまだまだその順位は低いのが現状です。
ランキング1位に輝いたフィンランドは、5年連続での首位獲得となりました。

※1:国連機関である持続可能開発ソリューションネットワーク(SDSN)が毎年発表している世界ランキングである。世界幸福度調査(World Happiness Report)の結果に基づき、各国の幸福度について、1位から順にまとめたデータを指したもの

出典:「World Happiness Report 2022」 https://worldhappiness.report/ed/2022/

SDGsとの関係性

2022年3月に日本能率協会マネジメントセンターが行った「『生活・メディア』に関する実態調査」では、「『SDGs』という言葉を知っている」という質問に対しては、10代男性は約75%、10代女性は約80%が「YES」と回答し、「『SDGs』について相手に説明することができる」、「日頃からSDGsについて意識し、実践している」といった質問に対しても、すべての世代でもっとも「YES」と回答した割合が高いことがわかりました。

このことから、SDGsは若い世代ほど、理解度と日頃の実践度が高いという傾向がわかります。

また、SDGsの目標3に掲げられている
「すべての人に健康と福祉を(Good Health and Well-Being)」
―あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進するをテーマとした目標である「すべての人に健康と福祉を」についての関心が高いことがわかりました。

出典:「『生活・メディア』に関する実態調査」 https://www.jmam.co.jp/hrm/column/0078-sdgs-chousa.html

ウィズコロナに伴う働き方の変化

新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、生活様式は大きく変化しました。

働き方もオフィス出社からリモートワークへと移行する企業が増え、ミーティングや商談までもがオンラインで行われるようになりました。

多様な働き方ができるようになった一方、リモートワークへの移行にともなって孤独感やストレスを抱える人も増えています。
このような新たな働き方のなかでも、心身ともに健康で仕事に専念できる環境を構築するために、ウェルビーイングの実現を目指した取り組みが今後さらに重要視されてくるでしょう。

ダイバーシティの広がり

ダイバーシティの一例として、人種・年齢・特技・使用言語・ジェンダー・職務経験・役職などが挙げられます。ウェルビーイングによりダイバーシティを推進する企業には、さまざまな経験を持った人材が集まります。

国としても、ダイバーシティ推進は働き方改革の柱でもあり、積極的に法令や施策を出しています。主な施策として以下のようなものが挙げられます。

厚生労働省:「女性活躍推進法」を改正し、厚生労働大臣の認定制度を策定

2016年4月に施行された「女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)」は、4つのステップによって「働くことを希望する女性が活躍できる社会作り」を目指し、自身の個性・能力を十分に発揮できる社会の実現を目指して制定された法律です。(期限は2025年度末)

施行当時は、300人以下の企業に対しては努力義務でしたが、その後法改正が成立し、義務対象を301人以上の企業から101人以上へ拡大。労働者301人以上の企業に対しては情報公表の項目も追加されました。

出典:厚生労働省『女性の活躍推進企業データベース〜女性活躍推進法が改正されました

2020年6月には、女性の活躍推進に関する状況等が優良な事業主を認定する「えるぼし認定」よりも、水準の高い「プラチナえるぼし認定」が創設されました。

経済産業省:『ダイバーシティ2.0』ガイドラインの策定

経済産業省が2017年3月に策定し、2018年6月8日に改訂された企業が取るべき7つのアクションをまとめた「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」。

「多様な属性の違いを活かし、個々の人材の能力を最大限引き出すことにより、付加価値を生み出し続ける企業を目指し、全社的かつ継続的に進めて行く経営上の取組」と定義され、単に女性活躍など雇用環境を変えるだけでなく、中長期的に企業の価値を高めることが盛り込まれました。

[ダイバーシティ2.0行動ガイドライン]

1.経営戦略への組み込み:経営トップがダイバーシティが経営に不可欠であることを明確にし、企業経営におけるダイバーシティのKPI・ロードマップを策定する
2.推進体制の構築:ダイバーシティの取組を全社的にするための推進体制を構築する
3.ガバナンスの改革:取締役会がダイバーシティの取組について適切に監督する
4.全体的な環境・ルールの整備:人事制度の見直し、働き方改革を実行する
5.管理職の行動・意識改革:従業員の多様性を活かせるマネージャーを育成する
6.従業員の行動・意識改革:多様なキャリアパスを構築し一人ひとりがキャリアを考えられるようにする
7.労働市場・資本市場への情報開示と対話:一貫した人材戦略を策定し、労働市場に発信する

各企業のウェルビーイングの取り組み

トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車では、パフォーマンス発揮度を上げるための施策として、2021年度より健康アプリを使用した「肩こり解消チャレンジ」を実施。昼休憩や隙間時間を活用してレッスンを受講するように促したり、健康に関するアンケートを実施したりと健康課題への施策を行っています。

また、健康経営の更なるステップアップとして、「仕事に誇りややりがいを感じている(熱意)」「仕事に熱心に取り組んでいる(没頭)」「仕事から活力を得ていきいきとしている(活力)」3つがそろった精神状態(ワーク・エンゲージメントの状態)の向上を目指し、より働きがいのある職場づくりに取り組んでいます。

職場の健康課題に即した取り組みや日本健康会議が推進する健康増進の取り組みをもとに、「健康経営優良法人2022(大規模法人部門)」(通称ホワイト500)の認定を受けています。

出典:「当組合職員の健康経営」(トヨタ自動車健康保険組合)
https://www.toyotakenpo.jp/organization/organization_02/toyotakenpo_health_management/

楽天株式会社

楽天グループである、楽天ピープル&カルチャー研究所は「ある目的のもとに、ありたい姿を持つ多様な個人がつながりあった持続可能なチームの状態」と定義された「コレクティブ・ウェルビーイング」に関するガイドラインを2020年に策定、健康経営優良法人ホワイト500にも認定されています。

「ある目的のもとに、ありたい姿を持つ多様な個人がつながりあった持続可能なチームの状態」と定義された「コレクティブ・ウェルビーイング」の中では、持続的なチームの在り方を検討する上で、「企業」と「働く個人」の両側面から、3つの要素「仲間」「時間」「空間」(三間)の設計と、それぞれに「余白」を設ける「三間と余白」を推奨。

多くを会社から決められ、与えられている状態から、自分のウェルビーイング(よりよい状態)をセルフプロデュースすることが必要になるとしています。

出典:「ニューノーマル時代に向けて、コレクティブ・ウェルビーイングを考えよう」(楽天株式会社)https://corp.rakuten.co.jp/collective-well-being/

株式会社アシックス

アシックスでは、「従業員の健康は最も大切な要素」と位置付け、従業員のより健康的な生活の実現を目指した”健康経営”に取り組んでいます。

また、健康増進プログラム(ASICS HEALTH CARE CHECK)を自社開発し、「健康寿命」の延伸を目的に「ヘルスケアチェック事業」をスタート。
健康維持・向上、そして健康寿命延伸の両輪という考えのもと、企業の「健康経営」の支援や、無理なく継続可能な個別の健康増進プランを提供しています。

一人ひとりのヘルスリテラシーの向上を目指した最新のレポートとして、2022年10月4日に「ASICS Well-being Report 2022」を公開しました。

参考:「アシックスの健康経営」(株式会社アシックス)https://corp.asics.com/jp/csr/wellbeing

味の素株式会社

創業時より「おいしく食べて健康づくり」という志を共有し、今日まで各国で様々な事業を展開してきた味の素では、2018年に策定された「健康宣言」を基盤に、社員の健康を維持・推進できる職場環境づくりに取り組んでいます。​​

その一例として、健康診断のデータを蓄積し確認できるポータルサイト「My Health」の設置や、AIが栄養指導を行ってくれる健康管理アプリ「カロママプラス」を活用した、社員一人ひとりのセルフ・ケア向上へのサポートが挙げられます。

2022年3月には従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる上場企業であることの指標である「健康経営銘柄」に4年連続で選定されました。

また、2030年までに10億人の健康寿命を伸ばし、事業を成長させながら環境負荷を50%削減するとした「ASV(Ajinomoto Group Shared Value)経営」を経営の基本方針とし、食習慣や高齢化に伴う食と健康の課題を解決し、人びとのウェルネスを共創するとしています。

参考:「味の素グループ健康白書」(味の素株式会社)
https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/nutrition/pdf/ajinomoto_nutrition_whitepaper.pdf

まとめ

アフターコロナを見据えた働き方の整備が各企業で始まり、ワーケーションなどのさらなる高みを目指した取り組みが行われています。

優秀な人材を確保し、定着して長く働いてもらうための環境づくりを進めるうえで、ウェルビーイングは最も重要なポイントと言っても過言ではありません。

人事担当として、ウェルビーイングの必要性を知り、従来の人事制度の枠にとらわれず従業員が本当に求めていることに対して真摯に取り組むことが求められていくでしょう。

 

コラムを書いたライター紹介

赤羽根長子

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Webディレクター|SEOエンジニア|マーケター|「Benten」化粧品専門家。
薬事法管理者 / スキンケアマイスター / CBD化粧品プランナー
編集プロダクション「株式会社ジュエルコミュニケーションズ」代表取締役

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