『退職代行』に対する人事担当の正しい対応方法とは?退職対策についても解説


『退職代行』とは、従業員に代わり退職希望の意思を在籍企業に伝達、退職後の処理を請け負うサービスのことです。
副業元年と言われる2018年頃から20代・30代を中心にサービスが普及しています。

このように退職代行が近年話題にあがっていることは知りつつも、いざ退職代行を経由して退職意志を伝えられた時、人事担当者はどのように対応すべきか把握していない方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、従業員の退職代行に対する興味・関心についてデータを用いて解説するとともに、 退職代行から連絡が来た時の対応について詳細にお伝えします。
また退職代行を利用されないための対策方法についてもご紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。

■労働者の退職代行への興味・関心

まずは労働者の退職代行に対する興味・関心のデータをご紹介します。

退職代行の認知度

日本労働調査組合が全国の20代~40代のビジネスパーソンを対象に実施した『退職代行サービスに関するアンケート』の結果によると、「退職代行サービスを知っている」と回答したのは57.4%という数値が発表されています。
また20代:63.7%と40代:52.3%という認知度を比較すると11.4ポイントもの差があり、年齢が若いほど退職代行の認知度が高いことが伺えます。

退職代行への興味・関心

「今の会社を退職するとした場合に、退職代行を利用しようと思いますか」という質問に対しては、検討層を含めると約50%の労働者が退職代行の利用を検討していることが分かります。

  • 退職代行を利用する:21.9%
  • 退職代行を利用するかもしれない:25.5%
  • 退職代行を利用しない:52.6%

さらに驚くべきことに、本調査において退職代行を利用したことがある方は、21.2%にも上っています。実に5人に1人が既に退職代行の利用経験があるという換算になります。

もともと退職代行は、会社を辞めたいと思っているのにも関わらずしつこい引き留めに遭っている方、ブラック企業に勤めたが故に心身を壊し自身で退職意志を伝えられない方を中心に広まったサービスです。
しかし近年は人との面倒な関わり合いを避けたいという心理が根付いた若者層の利用が拡大。
また転職市場の活性化に伴い、退職ハードルが下がったことやリモートワークによるコミュニケーション量低下も相まって、今後はさらに退職代行を通じて退職意志を伝える労働者が増えると予想されます。

参考:日本労働調査組合

■退職代行を利用された場合の対応法

従業員が退職代行を利用した場合、突然退職代行業者から会社に連絡が入ります。
事実確認をせず対応を進めてしまうと、間違った対処をしてしまう危険性があります。場合によっては、企業イメージの低下や別のトラブルを引き起こしてしまう可能性もあるでしょう。

退職代行の利用者が増える昨今、間違った対応をしないためにも、人事担当者は退職代行業者から連絡が来た場合の適切な対応法について見識を深めておかなければなりません。

本項目では、退職代行業者から連絡が来た時に人事担当者が取るべき対応を4つにまとめて解説します。

①事実確認

退職代行業者から連絡が来た際は、まず下記2つの確認を取るようにしましょう。

退職代行業者の種類

退職代行は大きく3種類に大別されます。それぞれ交渉や対応できる権限・範囲が異なるため、必ず確認が必要です。

  • 弁護士:退職にまつわる交渉や損害賠償請求に対する裁判が可能
  • 退職代行ユニオン:退職にまつわる交渉が可能
  • 民間の退職代行業者:従業員の退職意志の伝達のみ

民間の退職代行業者が退職条件や退職日調整などの交渉を行うことは非弁行為に当たります。また弁護士以外は、訴訟に関する交渉ができません。退職代行業者の種類を把握した上で、適切な対応を進めましょう。

退職届提出の本人確認

可能性としては低いと考えられますが、何らかのトラブルに巻き込まれ、本人に退職意思がないのにも関わらず悪意を持つ第三者が無理に退職させようとするケースもあります。
退職代行業者から連絡があった時は、本人に電話もしくはメールなどで事実確認を行います。
本人とコンタクトが取れない場合は、退職代行業者に本人確認ができる書類(免許証・社員証など)のコピーもしくは委任状を提示してもらい、本人からの依頼であることを確認しましょう。

②退職届提出の依頼

どんな形であれ退職希望を提示している以上、企業は従業員の退職希望を取り下げることはできません。
退職を拒否する、圧力をかける、何度も電話をするなどの対応をしてしまうと、SNSなどで退職のやり取りが拡散されてしまう可能性もあります。
企業にとってイメージダウンに繋がる情報が拡散されてしまうと、取引先からの印象も悪くなってしまったり、採用に悪影響を及ぼす恐れもあります。
労力と時間を費やすよりも、スムーズに退職ができるよう本人確認ができたら、退職を希望する従業員に対して退職届の提出を依頼しましょう。

③退職に係る項目の決定及び交渉

退職届受理までに、下記項目についても社内で取り決めておくと無駄なく退職手続きを進められます。

  • 退職日
  • 退職日までの扱い
  • 未消化の有給休暇の消化方法
  • 退職事由 など

④貸与物の返却及び各種誓約書の締結・保険等の手続き

退職後は、貸与物の返却や退職に伴う各種手続きを進めなければなりません。

退職時に返却してもらう貸与物

退職希望者からの郵送または退職代行業者を経由して返却してもらいます。
後のトラブルに発展しないよう、返却期限を伝えておくと良いでしょう。

各種誓約書の締結

退職時には、貸与物返却と共に競業避止や守秘義務について記載した誓約書への署名を依頼しましょう。ただし、誓約書の締結は義務ではありません。
とはいえ、顧客情報の流出防止や企業の経営ノウハウを守る大切な書類です。
従業員から自主的にサインに応じてもらえるよう、できるだけ円満に退職手続きを進めましょう。

退職に伴う各種手続き

一般的な退職時と同様に、下記書類を渡す手続きを進めます。

  • 離職票
  • 雇用保険被保険者証
  • 年金手帳
  • 源泉徴収票

退職代行利用を防止する方法

退職代行を利用された場合、急に従業員がいなくなるため、早急な引き継ぎや代替えを立てなければなりません。
また退職代行に対しネガティブなイメージを抱いている人も多く、退職代行を通じて退職した人がいると噂になれば、会社の評判を下げてしまう懸念も考えられます。
このような理由から、極力退職代行を使われることのないよう企業は普段からの心がけが必要です。

「マイナビ 転職動向調査2020年版」によると、「退職代行サービスを利用しようと思う(利用した)理由」で上位を占めた項目は下記3つです。

  • 上司に退職意向を伝えるのが億劫:53.5%
  • 会社に引き留められるのが面倒:47.0%
  • 会社に申し訳なくて言い出せない:37.9%

参考:「マイナビ 転職動向調査2020年版」

上記の回答結果からも‟退職代行を利用する“ということは、上司に本音を言えない、退職を言いだせない環境や風土が根付いている可能性があります。
場合によっては、セクハラ・パワハラのような労働問題も視野に入れて、慎重かつ適切に現状改善に努める必要があります。

組織としての正しい対処方は企業によって異なりますが、上司と部下が1対1で面談を行う『1on1ミーティング』や、別部署やポジションの先輩社員が新入社員のサポーターになる『メンター制度』を導入し、積極的に社内コミュニケーションの場を作ることも1つの方法です。
話しやすい風土が根付けば、退職代行利用の防止さらには退職防止にも繋がります。
また社内現状に合わせて『ハラスメント対策講座』や『スキルアップ研修』を積極的に実施することで、社内問題の改善やスキル不足による仕事への不満改善にも繋がるでしょう。

まとめ

退職代行を通じて退職意志を伝えられた場合は、慌てず適切な対応が必要です。そのためには、退職代行に関する知識を兼ね備えておくことが大切でしょう。
また退職代行の利用経緯は人それぞれですが、利用の裏にある組織の問題・課題に対しても真摯に向き合い、今後の退職代行利用防止に向けた対策にも目を向けることも忘れてはいけません。

社内のコミュニケーションを活発にし、社員がより仕事に打ち込める環境を作ることで退職代行利用防止に繋がります。さらには企業の発展にも大きく寄与することでしょう。

ここまでご紹介した内容を参考に、退職代行を利用されない健全な組織づくりを目指していきましょう。

コラムを書いたライター紹介

日向妃香

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採用系コンサルタントとして企業の採用サポート・採用戦略構築・採用ノウハウの提供を行いながらライターとしても活動中。
得意分野は新卒採用とダイレクトリクルーティング。

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