企業が障害者を活用するメリットと雇用の際の注意点について解説
障害者雇用制度は、障害のある人が社会で活躍できる場を確保し、経済的に自立した生活を送れるように支援するための仕組みです。法律によって制度化され、企業には障害者の雇用が義務付けられています。
しかし、障害者雇用は単に法令遵守の目的だけでなく、企業の成長や発展にもつながる可能性を秘めているのです。この記事では、企業が障害者を雇用するメリットや雇用する際に注意すべき点について解説します。最後まで読んで、自社の障害者雇用に役立てていただければ幸いです。
障害者雇用とは
障害者雇用とは、障害のある人が応募できる採用枠を作り、雇い入れを行うことです。法律で、企業には一定数の障害者を雇用するよう定められており、企業としての社会的責任のひとつとなっています。以下にて、障害者雇用の具体的なルールを確認しましょう。
企業には障害者を雇用しなければならない義務がある
企業は障害者雇用促進法によって、一定割合以上の障害者の雇用が義務付けられています。また、この割合は企業の規模や業種によって定められており、この割合のことを「法定雇用率」と呼びます。
この法定雇用率は段階的に引き上げられ、2024年度の民間企業の場合は2.5%です。つまり、従業員が40人以上の企業であれば、1人以上の障害者を雇用する義務があります。さらに、2026年7月には2.7%に引き上げられることが厚生労働省より発表されました。
参照:厚生労働省|障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について
障害者雇用の対象になる人
障害者雇用の対象となる人は、以下の障害を持った人が該当し、障害者雇用率の算定対象となります。
上記の通り、障害者雇用の対象となる人は、身体障害・知的障害・精神障害のある人で障害者であることを証明する手帳を所持している、または医師によって障害があると認められた人です。なお、発達障害や難病のある人でも、手帳を持っていれば雇用率の算定対象となります。
企業が障害者を雇用するメリット
障害者を雇用することは、企業にとって法的な義務を順守するだけではありません。金銭面での優遇措置を受けたり、業務改善や企業のイメージ戦略として利用できたりなどのメリットがあります。以下にて、それぞれのメリットを具体的に見ていきましょう。
税制待遇や助成金を受給できる
障害者を雇用する企業は、さまざまな税制優遇を受けられます。たとえば、以下のような優遇措置が挙げられます。
- 不動産取得税
- 固定資産税
- 事業所税
多数の障害者を雇用している企業は、条件によってはこれらの減税が受けられる可能性があります。
参照:厚生労働省|心身障害者を多数雇用する事業所に対する特例措置
また、助成金に関しては一例として、以下のような助成金が受給できます。雇用そのものに対する助成金や、雇用を行うにあたって発生する費用を軽減するための助成金が用意されています。これらの制度を活用することで、より積極的に障害者雇用に取り組みやすくなるでしょう。
参考:
業務を見直すきっかけとなる
障害者雇用を進めることで、既存の業務手順や職場環境を見直す機会になります。たとえば、障害者を受け入れるにあたって、マニュアルの作成や作業手順の明確化、コミュニケーション方法の改善が必要でしょう。これらの作業は、既存の社員の業務効率向上にも役立ちます。
また、障害者目線で考えることで新たな発想や工夫が生まれ、生産性の向上やより良い環境になるケースも少なくありません。このように、障害のある社員が働きやすくなるための環境の整備は、結果として全ての社員にとって働きやすい職場環境づくりにもつながります。
人材不足を解消できる
近年は少子高齢化が進み、人材不足が多くの企業にとって課題となっています。障害者雇用は、人材不足を解決する有効な手段のひとつとなり得ます。障害者の中には、高い能力やスキルを持ちながらも、働く機会に恵まれていない人が少なくありません。
とくに、障害者の中には細かい作業が得意な方も多くいます。そのため、緻密な作業が必要な業務は障害者雇用で賄うことで、既存の人材に他の業務を任せられるなど人材不足の解消にもつながります。このように、障害者を雇用すると適材適所への人員配置や負担も減らせるため、結果的に業務の効率も向上するしょう。
企業のイメージアップにつながる
障害者雇用に積極的に取り組む企業は、社会からの評価が高まり企業イメージの向上につながります。企業イメージが向上すれば優秀な人材の確保にもつながるでしょう。また、社員も自社に対して誇りを持ち企業の成長を促進する効果も期待できます。
近年、企業の社会的責任への関心が高まる中、障害者雇用は、企業のブランド価値を高める重要な要素となっています。
企業としての社会的責任(CSR)を果たす
社会的責任(CSR)の観点から、障害者雇用は重要な社会貢献活動のひとつとなっていると言っても過言ではありません。企業が障害者の活躍の場を提供することで、持続可能な社会づくりに貢献できます。
したがって、障害者雇用は障害者の社会参加や自立を支援する行動の一環となり、企業の社会的価値を高めるのです。
企業は経済活動を行うだけでなく、社会の一員として責任を果たす責任があります。そのため、障害者雇用は企業の社会的責任を果たす上で重要な取り組みとなるでしょう。
企業が障害者を雇用しないデメリット
法定雇用率を達成できない企業には、さまざまなデメリットがあります。最悪の場合、企業の社会的評価にも大きな影響を与える可能性もあるでしょう。法令を遵守した適切な障害者雇用への取り組みは、企業の健全な経営にとって不可欠です。以下にて、障害者を雇用しない具体的なデメリットを解説します。
納付金を納めなければならない
法定雇用率を満たしていない企業は、障害者雇用納付金を納めなければなりません。納付金の額は不足する障害者数に応じて算出され、社員が100名を超える企業は、1人当たり月額5万円の納付義務があります。社員数が多いほど納付金額も大きくなるため、企業にとって大きな負担となるでしょう。
たとえば、従業員1,000人の企業で障害者雇用が5人不足している場合、年間300万円の納付金が必要となります。納付金は、障害者雇用促進のための施策に活用されますが、企業にとっては本来必要のない支出です。積極的に障害者雇用に取り組むことで、この納付金を回避できます。
参照:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構|事業主の皆様へ令和6年度版ご案内
行政指導が入る
法定雇用率を満たしていない企業に対しては、ハローワークから行政指導が入る場合があります。指導の内容は、障害者雇用に関する計画の作成や、雇用促進に向けた取り組みの改善などです。行政指導に従わない場合、企業名が公表される可能性があります。
このような事態になれば、企業イメージの低下につながるだけでなく、取引先や顧客からの信頼を失いかねません。さらに、人材の確保が困難になるなどの企業活動に悪影響を及ぼす可能性もあります。
参照:厚生労働省|障害者雇用率達成指導の流れ
障害者雇用を促進する際のポイント
障害者雇用を成功させるためには、単に雇用枠を満たすだけではなく、障害者が能力を発揮し、活躍できる環境の整備が欠かせません。そのためには、サポート体制や適切な業務の割り当ても重要となります。ここでは、企業全体で障害者雇用を推進していくためのポイントを以下にまとめました。
障害者雇用に対して理解を深める
障害者雇用を促進するためには、まず企業全体で障害に対する理解を深めることが重要です。そのためには、障害の種類や特性、必要な配慮などについて学ぶ機会を設けると良いでしょう。たとえば、社内研修やe-ラーニング、外部専門家による講習会の開催などが効果的です。
このように、社員全員の障害者雇用に対する意識を高めることが、快適な職場環境づくりに繋がります。
障害者に担当してもらう作業を決める
障害者を雇用するにあたっては、それぞれの障害特性や能力に合わせた業務を割り当てる必要があります。そのため、障害を持った社員の状況を把握し、適切な業務内容を検討しなければなりません。また、業務手順書やマニュアルをわかりやすく作成し、業務をスムーズに進めてもらいやすくする必要もあるでしょう。
こうした適切な業務分担が障害のある社員の能力を最大限に発揮させ、モチベーションの向上にもつながるのです。
現場と一体化したサポート体制を整える
障害者が安心して仕事に取り組めるためには、現場と一体化したサポート体制の構築が不可欠です。上司や同僚がそれぞれの障害の特性や配慮すべき点を理解し、全員で共有するなどを行い、適切なサポートができる体制を整えましょう。
社内の雰囲気づくりや、気軽に質問できる体制づくりも欠かせません。また、定期的な面談や相談窓口を設ければ障害者が相談をしやすくなるでしょう。こうしたサポートが人材の定着につながります。
支援機関を活用する
地域の就労支援機関では採用から定着までの一貫したサポートを受けられます。障害者就業・生活支援センターや障害者職業センターなどの専門機関を活用して、専門的なアドバイスや支援を受けましょう。障害者雇用を円滑に進めるためには、こうした外部の支援機関の協力が大きな力となります。
ハローワークや障害者職業センターなどは、障害者雇用に関する様々な相談窓口や支援サービスを提供しています。これらの機関を活用することで、より効果的な障害者雇用を実現できるでしょう。
まとめ
障害者雇用は法的な義務であると同時に、企業にとって多くのメリットをもたらす人事戦略となります。税制優遇や助成金といった経済的なメリットだけでなく、企業イメージの向上や人材不足の解消、業務改善のきっかけとなり、さらにはCSRの推進にもつながるのです。
一方で、法定雇用率を満たさない企業には、納付金の支払い義務や行政指導などのデメリットが生じます。企業イメージを低下させないためにも、障害者雇用への積極的な取り組みが不可欠です。
また、障害者に活躍してもらうためには、企業全体で障害に対する理解を深め、障害者が安心して働けるようなサポート体制を作る必要があります。それぞれの障害の特性や能力を把握し、適切な業務分担や職場環境の整備が欠かせません。社内のみで推進が困難な場合は、必要に応じて外部の支援機関も積極的に利用しましょう。
この記事が、障害者雇用に取り組むための一助となれば幸いです。
コラムを書いたライター紹介
松尾隆弘
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