人事管理とタレントマネジメントはどう違う?タレントマネジメントが重視されている理由も


人事の現場では「人事管理」と「タレントマネジメント」という言葉がよく使われます。とくに、タレントマネジメントは、人材管理において重要視されていますが、違いを理解できていない人事担当者の方も多いのではないでしょうか。この2つは似ているようで、実は異なる目的を持っているのです。本記事では、両者の違いと、タレントマネジメントが重視されている理由について解説していきます。

人事管理とタレントマネジメントの違い

人事管理とタレントマネジメントは、どちらも人材活用に関する取り組みですが、その目的に違いがあります。人事管理は、従業員の採用から退職までの一連の流れを管理し、組織の目標達成のために人材を効率的に活用するのが目的です。
人材を採用して、スキルアップやモチベーション向上を図りながら、長期的に育成していく人事業務全般と考えて良いでしょう。したがって、人事管理とは「採用」「育成」「評価」などが主な役割となります。

一方、タレントマネジメントは、個々の従業員が持っているタレント(能力・資質・才能)や経験、スキルを最大限に活かすために、戦略的に人事配置を行ったり、潜在能力を引き出したりする人材マネジメントを指します。タレントマネジメントの目的は「目的に応じた次世代リーダーの育成」です。

人事管理は採用や教育といった、一般的な人事業務に重点を置くのに対し、タレントマネジメントは人材の発掘や育成、人員配置に重点を置きます。また、人事管理は全従業員が対象ですが、タレントマネジメントは、事業の目的に応じた、将来のリーダー候補となる特定の人材に注目する点が大きな違いです。
それぞれの役割が独立しているわけではなく、タレントマネジメントは人事管理の一環と考えてよいでしょう。

人事管理の目的|組織全体の生産性向上

人事管理は人材を効率的に活用し、組織全体の生産性を高めるのが目的です。従業員の採用から退職までを包括的に管理し、全体的に底上げしていきます。具体的にどのようなものがあるのかを見ていきましょう。

人材の採用

人材を活用し組織の生産性を上げるためには、人材の採用が不可欠です。採用は戦略にもとづいて計画的に実施するため、失敗すると必要な人材が確保できず、競争力の低下や成長の機会を逃すことにつながりかねません。5年後、10年後を見据えた採用をしているため、短期的には影響が出なくても、中長期的で大きく悪影響を及ぼします。
とくに、近年は労働人口の減少により採用が難しくなってきているため、いかに計画通りに採用できるかが企業経営の鍵を握っています。

人材のスキルアップ

生産性を上げるためには、従業員のスキルアップが不可欠です。人事管理では、従業員のスキルレベルを上げるための育成を行います。たとえば、採用直後の新人研修やOJT、その後の定期的な集合研修や外部セミナーへの参加などを取り入れて教育するのが一般的です。
また、忙しい中でも自分のペースでスキルアップしやすい、eラーニングやオンデマンド型の学習プログラムも人気を集めています。さらに、一定のスキルが身に付いたらジョブローテーションを行い、新たな経験を積む機会を与えてスキルアップを図る企業も少なくありません。

労働条件や環境の整備

快適な環境でストレスなく仕事をしてもらうための環境づくりも、人事管理の重要な役割となります。具体的には、活躍に見合った給与体系の構築や公平な人事評価、福利厚生制度の充実、ワークライフバランスの推進などです。
近年では、リモートワークやフレックスタイムの導入など、柔軟な働き方に対応する環境も整える必要があります。また、メンタルヘルスケアなど、従業員の健康管理への取り組みも不可欠です。さらに、働きやすいオフィス環境の改善など、生産性向上につながる環境整備も人事管理の重要な役割となっています。

法令遵守

人事管理において労働関連法規の遵守は最も重要です。人事担当者は、労働関連の法令を理解し適切な運用が求められます。とくに、注意が必要なのは長時間労働です。長時間労働は法律に違反するだけでなく、従業員の健康被害につながる可能性があります。

また、ハラスメント防止や個人情報保護など、従業員の権利を守ることも必要です。近年では、働き方改革関連法の施行に伴い、長時間労働の是正や有給休暇の取得促進が強く求められています。法令を遵守した人材活用を行わなければ、企業イメージの低下にもつながりかねません。

モチベーション管理

組織の生産性向上には、従業員のモチベーションが欠かせません。モチベーションを向上させるためには、公平な評価制度の構築や、昇進・昇格の仕組みづくりが重要です。また、報酬だけでなく、従業員の自己実現や成長意欲に応える制度も重要視されています。たとえば、表彰制度や資格取得の支援などです。
さらに、定期的に個別面談を実施するなど、コミュニケーションを増やし、従業員の不安や不満を軽減する対策も欠かせません。こうした、従業員のモチベーション向上につなげる取り組みは、離職防止や生産性を向上させるために非常に重要です。

タレントマネジメントの目的|次世代リーダーの育成

タレントマネジメントの主要な目的は、組織の将来を担うリーダーの育成です。タレントマネジメントでは、組織のビジョンに沿って従業員の適性を見極め、組織の目標を達成するための人材開発を行います。具体的には以下のような項目です。

人材の調達

人材の調達とは、中途採用を含め、組織の長期的なビジョンや目標に基づいて、必要とされる人材を発掘することです。一つ目の方法として、研修や人事評価などによって、組織の内部から潜在能力や適性のある人材を見出します。二つ目の方法として、ダイレクトリクルーティングやリファラル採用などで、外部から人材を調達することもあります。
最近では、候補者のデータを集約する「タレントプール」という概念も注目されています。将来的に採用の可能性がある人材と関係を築き、人材が必要となった際に、候補者の中からアプローチをかけます。また、単発で業務を行うギグワーカーやフリーランスも、新たな人材活用法として重要視されています。

人材の育成

タレントマネジメントにおける人材育成は、集合研修のような画一されたプログラムではなく、個人の強みやキャリアプランに応じてカスタマイズされた育成を行います。たとえば、コーチングや部署異動による新たな業務の経験、新規プロジェクトへの参加などです。
こうした個別教育で、個人の経験やスキルを強化し、次世代のリーダーとなる人材を育成していきます。
タレントマネジメントは、経営戦略と連動した育成を重視しており、全社的な視点で戦略的に育成を行うのが特徴です。

適材適所への配置

適材適所への人材配置は、企業ビジョンの達成に欠かせません。従業員の能力を正確に把握し、企業の方向性とマッチさせなければ目標達成は難しくなります。手法としては、育成の一環として定期的な部署異動でさまざまな経験をしてもらい、個人の適性や潜在能力を見極めるのが一般的です。
また、社内公募制度を導入し、従業員が自主的に経験を積める環境を整備している企業もあります。最近では、多くの企業でタレントマネジメントシステムの導入が進んでいるため、より細かい人材分析ができることで、適材適所への人材配置がしやすくなっています。

人材の定着

タレントマネジメントは、優秀な人材の長期的な活用を目的としています。長く働いてもらうためには、帰属意識を高めたり、組織への貢献意欲を持続させたりなどの対策を講じなければなりません。具体的には、キャリアパスの実現や公正な評価、能力に見合った報酬、働きやすい職場環境などが挙げられます。また、従業員の満足度を上げるためには、定期的な面談で意見を聞いたり、企業の思いやビジョンを伝えたりするなどお互いの方向性を確認することも大切です。こうした取り組みは、組織への定着を図る上で欠かせません。

タレントマネジメントが重視されている理由

タレントマネジメントが重視されている背景には、近年の社会環境や企業を取り巻く状況の変化があります。詳しく以下にて、主な理由を見ていきましょう。

人材や働き方の多様化

近年は従業員の多様性が進んでいます。とくに、外国人労働者は多くの企業で目にするようになりました。また、働き方も変化しており、リモート勤務やジョブ型雇用など今までになかった働き方が増えています。
さらに、人材に関しては組織の歯車といった考えから、個人の価値観や社会的意義を重視する時代となりました。そのため、従来の画一的な人事管理では対応が難しくなってきているのです。

労働人口の減少

日本では少子高齢化が進み、労働人口の減少が深刻な問題となっています。このような状況の中で企業が成長を続けるためには、限られた人材を最大限に活用する必要があるのです。いかに従業員一人ひとりの能力を把握し、能力を発揮できる場所に配置するかが、組織全体の生産性向上の鍵を握っています。
従業員が経験やスキルを発揮できる環境であれば、モチベーションも上がり離職の防止にもなるでしょう。こうした適切な人材配置を行うためにも、タレントマネジメントが必要なのです。

デジタル技術の普及

近年のデジタル技術の普及により、企業のITやDX化が進んでいます。これにより人材情報の運用を自動化したり、大量のデータを分析したりできるようになりました。そのため、従来のアナログ作業ではできなかった、細部の施策ができるようになったことも大きな要因です。
とくに、最近ではAIを活用した人事評価や、適材適所へのマッチング機能を搭載したシステムも開発され、よりタレント分析がしやすくなっています。

まとめ

人事管理は組織全体の生産性向上を目的とし、主に労働環境や法令遵守に重点を置いています。一方、タレントマネジメントは個々の従業員の能力に注目し、将来のリーダーとなる人材を戦略的に育成していくのが目的です。
タレントマネジメントが重視される背景には、人材や働き方の多様化、労働人口の減少、デジタル技術の普及といった要因があります。こうした変化に対応するため、タレントマネジメントを導入している企業は少なくありません。とくに、大手や外資系企業を中心に年々定着しつつあります。
タレントマネジメントの導入により、人材育成の効率化や離職率の低下、生産性の向上といった効果が期待できます。今後、ますます人材の確保が難しくなると予想されているため、目的に合わせた人材育成を行い、組織全体の生産性を向上させていきましょう。

コラムを書いたライター紹介

松尾隆弘

プロフィールはこちら

キャリア30年の元人事担当。3業界で採用や社員教育、労務管理に従事。社内FPとして退職後のキャリア支援や人事コンサル事業にも携わる。2022年にライターへ転向し、現在は採用や転職・人材育成などHR分野を中心に執筆活動中。

関連コラム

コメントはこちら

一覧へ戻る