【人事向け】給与のデジタル払いとは?現状の様子や導入のメリット・注意点を解説
これまで銀行口座への振り込みが主流だった給与の支払い方法ですが、2023年4月に労働基準法施行規則の一部を改正する省令が施行されたことで、給与のデジタル払いが可能になりました。
また、2024年8月には、給与のデジタル払いに対応した初の資金移動業者としてPayPay株式会社が指定を受け、一部の企業では既にデジタル払いが開始されています。
今後も給与のデジタル払いは広がると予想されますが、給与のデジタル払いについてまだ理解を深められていない人事担当者様も少なくないかと思います。
そこで本記事は、2024年8月から本格的な運用が始まった給与のデジタル払いについて、現状や人事担当者の現段階の意向、企業が給与のデジタル払いを導入するメリット・注意点などについて解説します。
給与のデジタル払いとは?
まずは、給与のデジタル払いについて、概要とデジタル払いが解禁された背景について解説します。
給与のデジタル払いの概要
給与のデジタル払い(デジタル給与)とは、従業員の給与をスマートフォン決済アプリや電子マネーで支払う仕組みのことを言います。従来の給料の支払い方法は、おもに銀行口座もしくは証券総合口座に振り込む方法が用いられてきました。しかし、2022年11月に厚生労働省が『労働基準法施行規則の一部を改正する省令』を交付し、2023年4月に省令が施行されたことにより、給与のデジタル払いが解禁となりました。
ただし、給与のデジタル払いには、「資金移動業者」を介する必要があります。給与のデジタル払いは、資金移動業者からの指定申請や厚生労働省の審査、資金移動業者登録簿への登録をもって初めて運用が開始されるため、実質的な運用はまだ開始されていませんでした。
今回、2024年8月にPayPay株式会社が給与のデジタル払いを可能とする資金移動業者として指定を受けたことで、給与のデジタル払いが開始しました。
参考:厚生労働省『資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について』
参考:厚生労働省『指定資金移動業者(P a y P a y株式会社)のサービス概要』
給与のデジタル払い解禁の背景
給与のデジタル払いが解禁された理由は、「キャッシュレス決済の普及」が背景にある考えられます。経済産業省が公表している『キャッシュレス・ビジョン』では、“キャッシュレス決済の普及が生産性の向上に寄与したり、支払いデータの利活用による消費の利便性向上や消費の活性化等、国力強化につながったりするなどのメリットが期待されている”と記載されています(一部要約)。
給与の支払い方法としてデジタル払いが選択できるようになると、キャッシュレス決済の普及促進の一助になるでしょう。また、キャッシュレス需要の高まりに伴い、給与の受取方法としてデジタル払いを希望する労働者が増える可能性があることも、給与のデジタル払いが解禁されることになった背景にあると推察されます。
給与のデジタル払いの現状
給与のデジタル払いは、現在PayPay株式会社と同一グループ企業の10社で行われており(2024年8月時点)、希望者に対して2024年9月分の給与からデジタル払いを開始しています。
2024年8月時点の資金移動業者はPayPay株式会社のみですが、現在下記3社が資金移動業者の指定を受けるための申請書を提出したと公表しています。
- 楽天Edy株式会社
- 楽天ペイメント株式会社
- 株式会社リクルートMUFGビジネス
参考:楽天ペイメント株式会社『「楽天ペイ」などで利用可能になる「賃金のデジタル払い」の指定申請完了』
参考:株式会社リクルート『毎月の振込みがラクになる給与支払サービス『Airワーク 給与支払』本日より提供開始 子会社が賃金のデジタル払いの指定事業者にも申請』
厚生労働省のホームページでも、現在3社の申請を受け付け、審査を実施している旨を掲示しています。
引用:厚生労働省『資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について』
またPayPay株式会社では、2024年内に全ユーザーに対して給与のデジタル払いを開始する予定と公表しており、給与のデジタル払いは本格的に広がっていくと考えられるでしょう。
参考:PayPay株式会社プレスリリース『ソフトバンクグループの10社が給与デジタル払いに対応して「PayPay給与受取」を利用開始』
参考:PayPay株式会社プレスリリース『給与デジタル払いに向けて厚生労働大臣からの指定を受領 年内にすべてのユーザーを対象に「PayPay給与受取」を提供開始予定』
給与のデジタルマネー払い|人事担当者の意向調査
三菱総研DCS株式会社が実施した給与のデジタルマネー払いに関するアンケート調査によると、およそ13%の企業が給与のデジタルマネー払い導入に向けて早期開始を検討する意向を示していることが分かりました。
引用:三菱総研DCS株式会社『12.8%の企業が「給与デジタルマネー払い」早期検討開始の意向 ~人事給与担当に独自アンケートを実施~』
「いまのところ検討するつもりはないが、他社や社員の声などの状況によっては、検討するかもしれない」と回答した企業は57.4%と半数以上に上るものの、従業員からの希望や社会情勢によっては、早い段階で多くの企業に広がっていく可能性があると言えるでしょう。
給与のデジタル払いを導入するメリット
企業が給与のデジタル払いを導入することで得られるメリットは次の通りです。
給与の振り込み手数料を抑えられる可能性がある
資金移動業者は、銀行よりも振り込み手数料が安い傾向があります。そのため給与のデジタル払いを導入することで、給与の振り込みにかかるコストを削減できる可能性があります。特に、従業員数が多い企業で給与のデジタル払いが広がれば、大幅に給与の振り込み手数料を抑えられるでしょう。
自社の採用ブランディングに寄与する
給与のデジタル払いを導入すれば、「新しい制度の導入に積極的な企業」「従業員の満足度向上に前向きに取り組んでいる企業」など、社外に対してポジティブなイメージを示せるでしょう。
広報の仕方によっては採用ブランディングにも寄与する場合もあり、採用活動にも良い影響を与えることが期待できます。
給与のデジタル払いを導入する際の注意点
企業が給与のデジタル払いを導入する際は、下記の点に注意が必要です。
担当者の負担が増大する可能性がある
給与のデジタル払い導入にあたっては、制度や仕組み、資金移動業者が提供するサービスなどについて理解を深めなければなりません。さらに、給与のデジタル払いを実施に向けては、デジタル払いに対応したシステムの導入が必須です。制度や仕組みの理解、新しいシステムの導入に向けた対応に担当者のリソースが割かれることもあるでしょう。
加えて、給与の一部だけをデジタル払いにしたいと希望する従業員がいる場合、1人あたり2回分の給与支払いが必要になります。対応事項が増えることから、担当者の負担も増大するでしょう。
管理コストが増大する可能性がある
給与のデジタル払いを導入する場合、従業員の同意書や口座情報など、新たに管理する情報が増えます。企業は従来の銀行口座への振り込みとデジタル払いの2種の支払い方法について管理する必要があるため、給与支払いに関する管理コストが増大するでしょう。
給与のデジタル払いを導入する手順
給与のデジタル払いを導入する一般的な手順は、次の通りです。
- 導入する指定資金移動業者の選定
- 労使協定の締結
- 従業員への導入周知と留意事項の説明
- 従業員の同意取得
- 給与のデジタル払い開始
ステップ1:導入する指定資金移動業者の選定
まず、従業員のニーズを踏まえながら指定資金移動業者を選定します。2024年8月時点で選択できる資金移動業者はPayPay株式会社のみですが、順次選択できる指定資金移動業者は増えるでしょう。
ステップ2:労使協定の締結
続いて、労使協定の締結を実施します。
給与のデジタル払いを導入する際は、労働組合もしくは従業員の過半数を代表する者と労使協定を締結する必要があります。
なお、労使協定には、下記4つの事項を記載しなければならないと定められています。
- 対象となる従業員の範囲
- 対象となる資金の範囲とその金額
- 取扱指定資金移動業者の範囲
- 実施開始時期
ステップ3:従業員への導入周知と留意事項の説明
従業員に対して、給与のデジタル払いを導入する旨を周知するとともに、留意事項の説明を実施します。従業員への説明は、指定資金移動業者に委託できるため、必要に応じて指定資金移動業者に依頼するのも良いでしょう。
また、従業員に対して導入を周知したり留意事項を説明したりする際は、他の選択肢(預貯金口座や証券総合口座への払い込み)も可能である旨を伝え、デジタル払いが強制されることのないようにしましょう。
ステップ4:従業員の同意取得
給与のデジタル払いを希望する従業員に対しては、個別に同意を取得します。同意は電磁的記録を用いることも可能ですが、雇用主自ら取得する必要があります。
なお、同意書の様式例は、厚生労働省のサイトに掲載されています。
出典:厚生労働省『同意書の様式例(日本語版)』
参考:厚生労働省『資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について』
ステップ5:給与のデジタル払い開始
最後に給与のデジタル払いを実行するための手続きを行い、運用を開始します。給与のデジタル払いを実行するための手続き方法は資金移動業者によって異なるため、詳しい手続き方法は指定資金移動業者に確認しましょう。
参考:厚生労働省『【使用者向け】賃金のデジタル払いを導入するにあたって必要な手続き』
まとめ
給与のデジタル払いは、2024年8月から本格的に運用が開始されました。今後、資金移動業者が増え、従業員からの需要が高まれば、給与のデジタル払いを導入する企業も増えていくでしょう。
まだ本格的に導入を検討していない場合でもあっても、今後の動向によっては早期の導入が求められる可能性もあります。いざ導入するにあたってスムーズな運用を実現するためにも、給与のデジタル払いについて今のうちから理解を深めておきましょう。
コラムを書いたライター紹介
日向妃香
得意分野は新卒採用とダイレクトリクルーティング。
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