【2024年賃上げ動向】賃上げがもたらす企業への影響と対策
2022年以降、物価上昇の影響なども相まって、国内の企業は賃上げの機運が高まっています。
2023年には最低賃金の大幅改定が記録され、過去最高となる全国平均43円の引上げが実施されました(※)。
そのような経済背景の中、賃上げがもたらす企業への影響を懸念視する人事担当者も少なくないでしょう。
そこで今回は、2024年の賃上げ動向を解説すると共に、賃上げがもたらす影響や取り組んでおきたい賃上げ対策をお伝えします。
(※)参考:厚生労働省『全ての都道府県で地域別最低賃金の答申がなされました』
2024年の賃上げ動向
株式会社帝国データバンクが実施した『2024 年度の賃金動向に関する企業の意識調査』によると、正社員の賃金改善(ベースアップや賞与、一時金の引上げ)の見込みが「ある」と回答した企業は 59.7%と過去最高値を記録し、約6割の企業で賃上げが見込まれることが分かりました。
引用:株式会社帝国データバンク『2024 年度の賃金動向に関する企業の意識調査』
具体的な賃金改善の内容は、「ベースアップ」が 53.6%(前年比4.5ポイント増)、「賞与(一時金)」が 27.7%(同0.6ポイント増)でした。特に、「ベースアップ」は過去最高値を記録すると共に、初めて半数を上回る結果となりました。
引用:株式会社帝国データバンク『2024 年度の賃金動向に関する企業の意識調査』
本調査より、従業員数の多い企業のみならず、中小企業にも賃上げの動きが波及している様子が伺えます。2024年はこれまで以上に賃上げの動きが広がり、企業の採用活動や人材戦略にも様々な影響が出てくると考えられるでしょう。
そのため、企業も自社の採用状況や人材状況を鑑みながら、賃上げに対する適切な対策を講じる必要があると考えられます。
賃上げがもたらす企業への影響
賃上げによって企業は、主に次のような影響を受けると考えられます。
正規社員のモチベーションが低下する
賃上げは正規社員以外の従業員にも適応される可能性があります。
冒頭でも述べた通り、2023年には、全国平均43円もの賃金引上げが行われました。その結果、パートやアルバイトなどの非正規社員の給与を引き上げた企業も少なくないでしょう。しかし非正規社員と正規社員の賃金差が縮小することになれば、正規社員のモチベーションが低下してしまう懸念も考えられます。
場合によっては、離職の原因になることもあるでしょう。
給与による企業格差が生まれる
賃上げの機運は、求職者や就活生の動向にも影響が表れていると推察されます。
株式会社マイナビが実施した『転職動向調査2024年版(2023年実績)』によると、転職先を決めた理由では、男性・女性ともに「給与が良い」が最多となりました。
引用:株式会社マイナビ『転職動向調査2024年版(2023年実績)』
また株式会社学情が実施した『「初任給」に関する調査』でも9割近くの学生が「初任給の高い企業は志望度が上がる」と回答しています。
中途・新卒問わず、給与は転職先や就職先を決める上で大きな要素になっていることが分かります。特に賃上げについてのニュースを耳にすることの多い昨今においては、給与額に注目が集まりやすくなっています。同業界・同等規模の企業だったとしても、提示できる給与額によって採用の成否が分かれることもあるでしょう。
特に賃上げできる余力がない企業は、人材採用において苦戦を余儀なくされると予想されます。
総人件費が増加する
賃上げを行うと、必然的に人件費も増加します。
株式会社帝国データバンクが実施した『2024 年度の賃金動向に関する企業の意識調査』では、2023年度と比較して総人件費が増加すると回答した企業は、72.1%(前年比で2.5 ポイント増加)でした。
引用:株式会社帝国データバンク『2024 年度の賃金動向に関する企業の意識調査』
7割以上の企業で人件費増加が見込まれており、事業の経営を圧迫する懸念も考えられます。
企業は、増加した人件費以上の利益を生み出せる組織作りやより生産性を高められる人材戦略の実施など、経営力や組織力向上にも注力しなければならないでしょう。
賃上げに対する企業の対策
賃上げの機運は高まる一方であることから、企業は採用や人材戦略においても賃上げに対する対策を講じる必要があるでしょう。
本章では、賃上げに対する具体的な対策を紹介します。
賃金以外の待遇改善
賃上げに対する対策としては、賃上げ以外の待遇改善が挙げられます。
就活生や求職者にとって給与は、企業選びの中でも大きなウエイトを占める項目です。しかし賃上げには人件費の増加や賃上げが行われなかった一部の社員のモチベーション低下を招くリスクもあります。また、賃上げだけに注力すると給与以外の魅力が失われてしまったり、自社独自の魅力が就活生や求職者に伝わらなかったりする懸念も起こり得るでしょう。
そのため、賃上げ以外にも目を向け、現状の待遇や環境の改善に努めるのも1つです。例えば、職場環境の改善や福利厚生の充実の他、適性にフィットする配属や教育・研修制度の拡充などに取り組むのも良いでしょう。
職場環境や待遇が変われば、従業員の満足度も向上し、離職を低減できます。離職率が低くなれば、本来必要のない採用に取り組むような事態も防げるでしょう。
社員の生産性向上
賃上げの背景には、少子高齢化に伴う労働人口の減少が要因の1つとして挙げられます。
労働人口は今後も減少が見込まれることから、企業としては単に賃上げするだけではなく、少ない労働力で今まで以上の利益創出に努めなければなりません。
より大きな利益を生み出すためには、社員1人ひとりの生産性向上が必須になるでしょう。
社員の生産性を向上させる方法としては、次のような施策があります。
- スキルアップ
- リスキリング
- 業務整理
- 労働環境の改善
- ITツールの導入・活用
- 最適な人材配置
- 業務マニュアルの作成・共有
- 社員同士のコミュニケーション機会を作る・増やすなど
社員の生産性を高める方法はスキルアップやリスキリングだけではありません。社員同士のコミュニケーションを活性化させたり、業務マニュアルを作成したりするだけでも生産性が向上することもあります。
まずは導入しやすい施策から取り組み始めてみましょう。
採用ブランディングに取り組む
売り手市場傾向にある採用市場においては、多くの企業が求人情報を発信しています。そのため、他の企業の情報に自社の情報が埋もれてしまうケースも多々あります。しかし、そもそも自社の求人情報が就活生や求職者に届いていなければ、応募企業の候補に挙がることはありません。
候補に選んでもらうためには、自社の認知を広げる取り組みが不可欠です。自社の認知を広げる方法は色々ありますが、昨今においては採用ブランディングへの注目が高まりつつあります。
採用ブランディングとは、自社の魅力を戦略的に就活生や求職者に発信する取り組みのことを言います。自社の理念に共感を覚えたり、事業に魅力を感じたりしてもらうことで「この会社の社員になりたい!」と入社意欲を喚起させ、応募につなげます。
応募起因が理念や事業への共感であることから、給与などの条件面で意向度が左右されにくい利点があります。また、入社後も仕事への高いモチベーションが保たれる傾向があり、早期離職を低減できるメリットもあります。
賃上げに伴う給与額競争は、今後も過熱していくと予想されますが、給与額だけが優れていたとしても人材の採用を成功に導くことは難しいでしょう。賃上げの動きは広がりつつあるものの、賃上げの動向ばかりにとらわれず、自社の強みとなる魅力の発信も忘れず注力するようにしましょう。
賃上げのメリット・効果
賃上げは、多くの企業が頭を抱える問題ですが、賃上げを行うことで得られるメリットもあります。本章では、賃上げがもたらすメリットや効果を紹介します。
従業員のモチベーションアップにつながる
賃上げによって従業員の仕事へのモチベーションが高まることもあります。仕事へのモチベーションが高まれば、離職率が低減したり、生産性が向上したりする効果も期待できるでしょう。
生産性を見直すきっかけになる
賃上げは、自社の生産性を見直すきっかけになることもあるでしょう。
例えば、紙媒体の管理からデジタル管理に切り替えたことで、2人で取り組んでいた業務を1人で対応できるようになった。などの事例もあります。
賃上げによる人件費高騰は避けられませんが、人件費以外の項目でコストカットを図ることで、組織内のムダを無くし、より生産性の高い競争力のある組織へと生まれ変わることができるかもしれません。
賃上げ促進税制を利用できる
政府は賃上げに取り組む企業を応援するべく『賃上げ促進税制』の強化に踏み切りました。前年と比較して給与等支給額が増加した場合、給与等支給額の増加率に応じて税額控除率が高くなります。
また教育訓練費が前年と比較して10%増加しており、税額控除率が5%分上乗せになる仕組みも追加されています。加えて、プラチナくるみんまたはプラチナえるぼしの認定を受けている企業は、税額控除率が5%分上乗せされます。
大・中堅企業においては、給与等支給増加額の最大35%の税額控除を受けられるようになりました。
本制度を活用すれば、企業の賃上げにかかったコスト負担を軽減できます。また、上乗せ要件に教育訓練費が追加されたことから、企業は従業員のスキルアップに向けて投資しやすくなると考えられます。従業員のスキルが底上げされれば、自ずと自社の競争力も高まるでしょう。
まとめ
様々な社会情勢や経済背景から、日本国内でも賃上げの動きが広がりつつあります。
企業にも色々な影響を及ぼす可能性があるものの、自社への影響範囲や内容をしっかり把握し、対策に努めることが大切です。
今後も賃上げの動きは継続する可能性が考えられます。しかし、賃上げすることで得られるメリットもあり、状況に応じて柔軟に賃上げすることで、様々な効果を見込めることもあります。
社内体制や採用活動の在り方を見直し、賃上げがメリットに働く強固な組織構築に努めましょう。
コラムを書いたライター紹介
日向妃香
得意分野は新卒採用とダイレクトリクルーティング。
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