夏ボーナス支給後の退職実態と退職防止施策を解説


6月から8月にかけては、1年の中でも退職者が増える時期と言われています。その理由として、夏のボーナス受給後に退職しようと考える人が比較的多くいる点が挙げられます。時には賞与額が退職に至る起因になることもあり、突発的な退職者が発生することもあるでしょう。

そこで今回は、夏ボーナス支給後の退職実態を解説すると共に、夏ボーナス支給後の退職防止施策を紹介します。

夏ボーナスの支給時期

まずは、一般的な夏ボーナスの支給時期を紹介します。

【民間企業】夏ボーナスの支給時期

民間企業の夏ボーナスの支給時期は、各企業が任意で決めるため企業によって多少時期が異なります。一般的には、6月下旬から7月上旬にかけて支給する企業が多いようです。

なお、法律上、企業にボーナスの支給義務はありません。ただし、就業規則や労働契約などに賞与支払いの旨を明記している場合は、支払いの義務が発生します。

【公務員】夏ボーナスの支給時期

公務員の夏季賞与(夏のボーナス)の支給日は法律や条例で定められており、国家公務員の場合は、6月30日が支給日となります。地方公務員は、条例に支給日が定められていますが、国家公務員に準じるケースが大半のようです。

参考:e-Gov 法令検索『人事院規則九―四〇第十四条』

20代の退職申し出が多い時期は夏のボーナス支給時期と一致

退職代行サービス「EXIT」を運営するEXIT株式会社が実施した属性調査によると、20代の退職申し出が多い時期は、6月から8月にかけてという結果でした。先ほど紹介した民間企業や公務員の夏ボーナスの支給時期と一致していることが分かります。

本調査は20代の回答者が7割を占めていましたが、株式会社リクルートが実施した調査によると、20代の転職者割合は全体の4割以上を占めています。

引用:株式会社リクルート『転職者の平均年齢』

また世代が近い30代も20代と同様の時期に退職を志願する可能性が高いと考えられることから、6月から8月にかけてはボーナス支給後の退職者が増える可能性があることを見込み、何らかの対策を実施すべきと言えるでしょう。

参考:EXIT株式会社(PR TIMES)

賞与額と転職の関連

転職を検討し始める要因は、人によって様々ですが、賞与額が転職の起因になるケースも少なくありません。

株式会社マイナビのキャリアリサーチLabが実施した『2023年冬ボーナスと転職に関する調査』によると、「賞与が少ない」ことが理由で転職をしたことがある人は62.5%にも上りました。

引用:株式会社マイナビ キャリアリサーチLab『2023年冬ボーナスと転職に関する調査』

また回答者の約7割が想定より賞与額が低かったとき「転職意欲が高まる」と答えています。

引用:株式会社マイナビ キャリアリサーチLab2023年冬ボーナスと転職に関する調査』

賞与額が少なかったことを理由に転職に踏み切った人の割合は全体の1/4に上り、想定する賞与額を下回ると転職意欲が高まる傾向がみられます。本調査結果より、賞与額と転職意向はある程度関連すると言えるでしょう。

夏ボーナス支給後の退職を防ぐ施策

ここでは、夏ボーナス支給後の退職を防ぐ具体的な施策を紹介します。

ボーナス支給前から社員との関係構築に努める

株式会社学情が実施した『夏の賞与に関するアンケート』によると、転職希望に関する設問では「賞与額に関わらず、賞与支給後に転職しようと思っていた(80.3%)」が最多となり、賞与のタイミングが転職の契機になっている様子が伺えます。

引用:株式会社学情『20代の意識調査』

夏ボーナス受給後に退職者が増える要因として「ボーナス受給までは頑張ろう」「ボーナス受給後に退職しよう」と考える人が一定数いる点が挙げられます。この層は、既に転職意向を持っていることから、ボーナス支給時期には退職への意欲が高まっている状態にあると言えるでしょう。このような状態を形成しないためにも、普段から社員との関係構築に努めることが大切です。

定期的な面談やエンゲージメント調査などを行い、日頃からの不満をヒアリングし、社員の満足度向上に努めましょう。

賞与額を見直す

前述の通り、「ボーナスが減らされた」「そもそも支給されない」など、支給額や支給の有無が転職のきっかけになるケースもあります。ボーナス支給後の退職を防止する施策として、賞与額を見直すことも有効な手段と言えるでしょう。

実際に株式会社マイナビのキャリアリサーチLabが実施した『2023年冬ボーナスと転職に関する調査』によると、「賞与額が高かったので転職することをやめたことがあるか」を問う設問では「やめたことがある」が30.7%でした。

引用:株式会社マイナビ キャリアリサーチLab2023年冬ボーナスと転職に関する調査』

本結果から賞与額によっては、転職を思いとどまる場合もあると言えます。
なお、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が公表した『2024年夏のボーナス見通し』によると、民間企業の2024年夏ボーナスは、前年比+2.9%と、3年連続で増加が見込まれることが分かっています。

引用:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社『2024年夏のボーナス見通し』

採用競争が加速する中途採用市場においては、人材確保に向けて企業の賃上げ競争も過熱していくでしょう。市場の賞与額も増加の傾向がみられることから、ボーナス支給後の退職防止施策の1つとしてボーナス支給水準の見直しも検討してみる価値はあるでしょう。

納得感のある評価制度を策定する・正当性の高いフィードバックを実施する

ボーナスは転職動機になる一方で、転職を思いとどまらせる要因の1つにもなります。しかし事業の成果によっては、従業員が期待する賞与額を支給できない企業も少なくないでしょう。

賞与額が社員の勤続意欲に影響を与えるものの、自分の仕事に見合う賞与額であれば転職を思いとどまる可能性が高いのも事実です。従業員が「今の仕事に見合った評価をしてくれている」と感じられる額であれば、賞与額が極端に高額でなくても転職を防止できるでしょう。

ボーナス支給後の退職を防止する手段としては、評価に正当性を感じるフィードバックの実施がポイントです。正当性を感じられるフィードバックを実施するためには、従業員が納得できる評価制度の策定も必須です。透明性の高い評価制度を策定し、従業員が自分の仕事に見合う評価を受けたと感じられるフィードバックを実施できる環境を構築できれば、ボーナス支給後の退職を防止できるだけではなく、従業員のモチベーション向上にもつながるでしょう。

まとめ

6月から8月にかけては、夏のボーナス支給後の退職が増える時期です。この時期の退職希望者は、元々転職を考えており、夏ボーナスを1つの契機に退職を志願する層と、賞与額によって転職意向が高まり転職に至る層の2つに分かれます。

夏ボーナスは、転職の1つの契機になると言えますが、退職防止に向け、極端に賞与額を高額にする必要はありません。日頃から従業員の満足度を高め、納得できる評価を示すことができれば、夏ボーナス支給後の退職を防止できるでしょう。

人事担当者はこの点を把握し、夏ボーナス支給後の退職防止に努めましょう。

コラムを書いたライター紹介

日向妃香

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採用系コンサルタントとして企業の採用サポート・採用戦略構築・採用ノウハウの提供を行いながらライターとしても活動中。
得意分野は新卒採用とダイレクトリクルーティング。

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