【外部人材活用】フリーランス保護新法が成立!下請法との違いや留意点について人事担当者向けに解説


2023年4月28日、企業とフリーランスの取引関係を正常化するために「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」(以下「フリーランス保護新法」という。)が成立しました。フリーランス保護新法の施行日は未定ですが、2024年秋までに施行される見込みです。(※)

本記事では、フリーランス保護新法の概要、制定の背景や具体的な内容などを解説します。「フリーランス保護新法」が制定されると何が変わるのか、特に中小企業に属する人事担当者にどのような影響があるのかなど、下請法との関係も含めて詳しくお伝えするのでぜひご覧ください。
(※2023年6月26日掲載時点 )

フリーランス保護新法の概要

多様化する働き方や副業解禁の背景に、自分の知識や技能を生かして個人で事業を行うフリーランスが年々増加しているという点があります。

ランサーズ株式会社の調査によると、2021年度時点で日本のフリーランス人口は1,577万人です。総務省統計局による2021年の労働力人口の平均は6,880万人であり、およそ23%がフリーランスであることがわかります。

また、少子高齢化などの慢性的な人材不足などの理由により、新たな人材活用の場面で、フリーランスをはじめとした、外部リソースを活用し始めた企業が多くなってきています。

ただし、フリーランスの人材活用が進んでいる一方で、フリーランスが不当な契約やトラブルに巻き込まれる機会が多いと問題視されてきました。そのため、事業者としてのフリーランスの権利や立場をどう守っていくかが喫緊の課題となっています。

このような背景により、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案(フリーランス・事業者間取引適正化等法案)」、いわゆるフリーランス保護新法は、組織に属さずに個人で働くフリーランスの労働環境保護を目的とした法律として、2023年4月28日に法案が可決されました。

参考:『新・フリーランス実態調査 2021-2022年版』発表 | ランサーズ株式会社コーポレートサイト (Lancers,Inc.)

現行の下請法との違い

「下請法」とは、親事業者に対して立場が弱い傾向にある下請事業者を守るための法律であり、その対象にはフリーランスも含まれます。ただし、現行の下請法では、親事業者の資本金が1,000万円以下の事業者と取引するフリーランスが保護されていないことが問題となっています。
実際に、内閣官房の「フリーランス実態調査結果」によると、フリーランスの約4割が、親事業者の資本金が1,000万円以下の事業者と主に取引をしています。

このため、フリーランス保護新法が必要とされ、以下、5つの規定が設けられました。

  1. 業務委託時の取引条件明示

  2. 報酬支払の適正化

  3. 継続的取引における禁止行為

  4. 就業環境の整備

  5. 解除の制限

この新法に違反する企業には、公正取引委員会、中小企業庁長官、または厚生労働大臣から助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、および命令がなされます。違反行為に対しては、50万円以下の罰金が科される可能性があります(フリーランス保護法218条~20条、22条、24条、25条)このように、フリーランスも含め、下請事業者の適切な保護に取り組むことで、公正なビジネス環境と社会の安定を維持することができます。

参考:フリーランス実態調査結果 (kantei.go.jp)

フリーランス保護新法の実務における留意点

フリーランス保護新法の規制対象として、クラウドソーシングサービスを利用する企業の数も年々増加している傾向があるなど、外部人材活用へのハードルが低くなり、今後も増えていく見込みです。
このため、ほとんどの企業がフリーランス保護新法に対応する必要があり、適切な実務対応の体制を早いうちに整える必要があります。
まずフリーランス保護新法で規制されている、以下の5つの規定について、それぞれ対応策を検討しておきましょう。

1.業務委託時の取引条件明示

フリーランスとの業務委託契約を締結する上で、事業者は書面またはメールにより、契約の条件を明示する必要があります。このルールは、特定の受託者との契約だけでなく、フリーランス同士の契約にも適用されます。

現時点では、具体的な明示事項は定められていませんが、今後ガイドラインが整備される予定です。

2.報酬支払の適正化

事業者は、フリーランスから受領した成果物を検査し、その後最長60日以内に報酬を支払うことが義務付けられています。例えば、”月末締め/翌々月15日払い”となる場合は、最大75日間の間が開くことになるため、フリーランス保護新法に違反することになります。

ただし、業務委託の場合、再委託であっても、事業者は業務の発注元から支払いを受けた日から30日以内に支払わなければなりません。

また、フリーランス間での委託では、支払期限に関する規定はありません。支払期限が60日を超過する場合でも、法的に問題は生じません。

3.継続的取引における禁止行為

フリーランスに業務委託をする際、企業は以下の行為をしてはなりません。
本禁止事項は、一定期間を超える継続的な業務委託に適用されます。今後、政令によって詳細が定められる予定です。

  1. フリーランスに帰責性がないにもかかわらず、給付を拒否すること
  2. フリーランスに帰責性がないにもかかわらず、報酬を減額すること
  3. フリーランスに帰責性がないにもかかわらず、返品を求めること
  4. 通常の相場より著しく低い報酬を無理やり設定すること
  5. 正当な理由がないのに、自己が指定した物や役務の購入・利用を強制すること
  6. 金銭、役務、その他の経済上の利益を無理に提供させるこ
  7. フリーランスに帰責性がないにもかかわらず、給付内容を変更ややり直しを求めること

出典:内閣府「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」

4.就業環境の整備

フリーランスは企業や組織との雇用関係が存在しないため、労働基準法などの規制が適用されません。この現状を踏まえ、フリーランスの就業環境を整備するための取り組みが進められています。厚生労働大臣からの指針に基づき、募集事項の適正表示などに具体的な対応が明らかになる見通しです。

募集要項の適正表示

広告等によりフリーランスを募集する場合、企業は正確で最新の情報を提供するよう努め、虚偽や誤解を生じさせる表示は避ける必要があります。今後、厚生労働省令によって規制対象とされる広告や情報については、職業安定法施行規則4条の3に類似した内容の省令が定められる見通しです。

育児・介護等に関する配慮

フリーランス保護新法が示す方向性の一つは、出産・育児・介護と業務との両立などに配慮し、申し出があった場合にはフリーランス側の働きやすさを考慮した対応をすることです。

5.解除の制限

フリーランスへの業務委託が必要な場合、企業は合意期間の更新を拒否する場合、当該契約を解除することができますが、その際には30日前までの予告が必要です。また、フリーランスが解除の理由を知りたいと要求した場合、企業は遅滞なく理由を明示しなければなりません。業務委託関係にある場合でも、一定の継続性がある場合には、労働法における解雇規制と同様に、生活保障を備えた適切な規制が必要とされます。

最新の動向に注意し、今から外部人材活用の整備を社内で進めましょう

本記事では、2024年秋までに導入が予定されているフリーランス保護新法について、最新の動向を考慮して概略や新たなフリーランスとの契約、および当該契約において必要な業務対応について解説しました。

フリーランス保護新法は、フリーランスが関わる取引を適正化し、高い倫理観を持った契約を促進するための法案です。この法律が成立すれば、フリーランスに対して契約の締結が義務化され、企業がフリーランスに対して不当な扱いをすることも禁止されます。特に中小企業はフリーランスと取引することが多いため、その影響はさらに拡大されるでしょう。

この法案は2024年秋ごろまでに施行される予定です。したがって、最新の動向に注意しながら、経営者、法務担当者だけでなく、人的リソースとして外部人材を活用する人事担当者も、注意深く法律の内容を把握していく必要があります。

なお、以下の「ウマい人事」コラムでは、フリーランスなどの外部人材活用を検討されている人事担当者の方向けのメリットについて解説しています。ぜひ合わせてご覧ください。

「攻め」の外部人材活用のメリットとは?正社員との違い・社内担当者の留意点を紹介|コラム|ウマい人事|人材業界(HR業界)専門メディア (umai-jinji.jp)

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編集者・ライター・サイエンスコミュニケーター・工学修士(航空宇宙学)
自動車メーカーでの先行開発エンジニアを経験した後、理系教科書編集(高校数学・中学校理科教科書編集)職に転向。近年は、サイエンスライティングに加え、理系・元エンジニアとしての経験を活かし、大学院生向け就職活動サイトコラム執筆・AI関連企業広報ライティングなど、幅広い分野での執筆活動に取り組んでいる。

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