ボーナス後転職に有効な対策とは?ボーナス後転職者に対する賞与支給義務についても解説


12月に入ると人事担当者が懸念するポイントは、ボーナス後退職です。
「ボーナス支給後に退職志願が相次いでしまった」という経験をお持ちの人事担当者も少なくないでしょう。

ボーナス受給後に退職者が相次ぐことは珍しい事例ではありませんが、新年度に向けた採用が始まるなか、12月・1月の退職申し出は避けたいところです。
できることならボーナス後転職を防ぎたいと考える人事担当者も多いかと思います。

本記事ではボーナス受給後の退職志願を防止するために、従業員がいつ頃から転職活動をスタートするのか、また有効な対策やボーナス後転職の賞与支給義務についてお伝えします。

ボーナス時期から逆算する転職希望者のスケジュール

まずは一般的なボーナス支給時期と、ボーナス支給時期から逆算し転職希望者がいつ頃から転職活動を始めるのか、その動向を紹介します。

一般的なボーナス支給時期

転職サービスdodaが20歳~59歳の正社員男女に行った『ボーナス平均支給額の実態調査(2022年8月)』によると、夏・冬のボーナス支給日は下記結果となりました。

<冬のボーナス支給日>

  • 12月1日~15日:60.9%
  • 12月16日~31日:23.1%
  • 11月16日~30日:2.8%

冬のボーナスは12月1日~15日が6割以上を占め、12月16日~31日も含めると、多くの企業が12月にボーナスを支給していることが分かります。

<夏のボーナス支給日>

  • 7月1日~15日:32.2%
  • 6月16日~30日:25.5%
  • 6月1日~15日:18.9%

夏のボーナスは、支給日がやや分散しているものの、多くの企業が7月にボーナス支給を行っています。

参考:転職サービスdoda「ボーナス平均支給額の実態調査」(2022年10月公開)

ボーナス時期から逆算する転職希望者のスケジュール

上記ボーナス支給日のデータより、転職希望者の転職活動スケジュールを逆算してみましょう。

一般的に正社員の転職活動は、3か月ほどかかると言われています。
単純に逆算するだけでも、早い方で10月頃から冬のボーナス後転職に向けて動き出していることが分かります。また夏のボーナス後転職に向けても4月頃~ゴールデンウイーク明けごろから動き出していると言えるでしょう。

ボーナス後転職3つの対策

ボーナス後転職を防止するために、本項目では3つの具体策をご紹介します。

ボーナス後転職を検討し始める前に面談を講じる

ボーナス後転職を検討している従業員は、ゴールデンウイーク前後または10月頃から転職に向けて動き出します。
この時期は、年度始まりや下半期からちょうど1カ月ほど経過したタイミングとも重なります。新しい環境が落ち着き、定められた目標を理解し始めた頃です。つまり従業員にとっても今後も同じ仕事を続けるのか、自然と判断が下される時期でもあります。
このタイミングで現状と従業員との考え方・ビジョンを擦り合わせ、ボーナス時期より先のワークビジョン・キャリアビジョンを描かせることが肝要です。

ゴールデンウイーク前後や10月頃に面談や社交の場を設けることで、ボーナス後転職の芽を摘み会社の一員として頑張りたいというモチベーションを再設計できるでしょう。

ピアボーナス・表彰など新しい制度を設ける

スタートアップ企業やベンチャー企業、一部の外資系企業を中心に、日本企業に根付く年功序列型のボーナス制度を廃止し、新しい施策や制度を打ち出す企業も増えています。その背景として、具体的なスキルを持たず大きな成果を残さない40代・50代の管理職が年功序列制度に守られ、若手社員の賃金搾取・余剰な雇用コストを発生させている現状があります。
ボーナス制度自体を廃止にすると、ボーナス受給後の突然退職も当然なくなるでしょう。
しかし組織に大きく浸透した制度は、新しい施策を打ち出したり月給水準を上げたところで、そう簡単に廃止できるものではありません。

しかしピアボーナスや表彰など、新しい小さな制度を設けることは比較的ハードルが低いと言えます。
ピアボーナスとは、アメリカのGoogle社が先駆者となって始めた、従業員同士が感謝の気持ちを込めて手当(報酬)を送り合う制度です。会社が用意した報酬を従業員1人ひとりに振り分け、仲間に感謝の気持ちと共に報酬を送り合います。
気軽に称賛や感謝の気持ちを伝えられることで社内コミュニケーションが活性化し、メンバー間の交流一助にもなります。また従業員のエンゲージメント向上も期待できるでしょう。エンゲージメントが高い社員は離職率が低いだけではなく、高いパフォーマンスを発揮する傾向にあります。

表彰制度も取り入れやすい制度のひとつです。
月1回程度、全社・部署ごとでもボーナス以外に従業員が日ごろの頑張り・取り組みを評価する制度を導入することで、組織が活性化し、やがては従業員の満足度向上にも繋がり離職率低減にも寄与することでしょう。

組織力を高める

大きな施策を導入・実施したからと言ってボーナス後転職を劇的に防止することはできません。
日ごろから従業員から選ばれる組織力の高い企業をつくり続けることも重要です。

キャリアアップや、やりたいことへの挑戦を目的にするなど、一昔前に比べ転職のイメージは大きく変わりました。人手不足による人材獲得競争の激化や年功序列・終身雇用の崩壊も相まって、どんな瞬間でもキッカケさえあれば転職に動き出す従業員は少なくありません。

どんな時・状態でも従業員から選ばれる企業であるために、常に組織力を高めておくことも肝要です。

退職志願者に対してボーナスの支給は義務?

ボーナス後転職について人事担当者から「退職志願者に対してボーナスの支給は義務か否か」という質問がよく挙がります。
実際に同様の質問を従業員から受けた人事担当者も少なくないでしょう。
ボーナス(賞与)を退職志願者に対して支給すべきか否かは、労働契約や就業規則に定められている条件によって大きく異なます。またボーナスを支給する目的が「将来への期待」なのか「日頃の活躍に対する労い」なのかによっても変わってくるでしょう。
本項目では、ボーナス支給日前に退職するケースとボーナス支給日後に退職志願を受けたケース、2つの状況を用いて解説します。

ボーナス支給日前に退職するケース

ボーナス支給日前に退職する社員に対してボーナスを支給するか否かは、「支給日在籍条項」に記載されている内容がポイントになります。
支給日在籍条項に『ボーナス支給は、支給日に在籍している社員を対象とする』という旨が記載されている場合、支給日に籍がなければ、たとえボーナス査定月に在籍し大きな成果を挙げたとしても支給の対象にはなりません。

しかし一方で、支給日在籍条項に在籍要否の記載がない場合や、会社都合により解雇した場合は、支給の対象となる可能性があります。その場合は、ボーナスを支給する目的が「将来への期待」もしくは「日頃の活躍に対する労い」のいずれかによって支給額や支給有無が変動します。
支給日在籍条項に在籍要否の記載がない場合に元従業員がボーナス支給を強く望んだ時は、支払い責任が発生し得る可能性があることを覚えておきましょう。

ボーナス支給日後に退職志願を受けたケース

ボーナス支給日後に退職志願を受けた場合、原則支払い責任が発生します。
しかし、ここでも社内規則に定めているボーナス支給の目的により、支給額が変動することがあります。ボーナス算定基準において、「将来への期待」が明確かつ具体的に記載してある場合は、減額の対象になり得ます。
しかし社内規定や入社規則にそのような記載がないにもかかわらず、従業員の同意を得ず会社都合で減額することはできません。
ボーナス受給後に転職をする者のボーナス額を減額したい場合、事前に社内規定や入社規則などに表記し、従業員に対して周知し、理解を得ておかなければなりません。

まとめ

ボーナス受給後の転職者は、主にゴールデンウイーク(夏ボーナス)もしくは10月頃(冬ボーナス)から、転職活動を開始しています。
既に辞表を提出・転職を希望している従業員の足止めは難しいでしょう。
ボーナス支給後の退職志願者を増やさないためにも、事前の防止策がポイントになります。
具体的には、次の3点が挙げられます。

  • 転職活動開始が予想されるタイミングで面談や離職施策を行う
  • ピアボーナス・表彰など新しい制度を設ける
  • 組織力を高める

ボーナス後転職では、ボーナスの支給有無・支給額が論点に上がることもあります。

過去にボーナス後転職におけるボーナス額が論点となり、裁判にまで発展したケースもあります。(ベネッセコーポレーション事件)。
自社の労力を割くばかりか、企業ブランド・イメージの低下にも繋がりかねません。そうなると、自社採用においても応募者・候補者の心証が悪くなり、エントリーが募らないといった懸念も考えられます。

万が一のボーナス後転職に備えて、自社内で改めて社内規則や賞与規定を見直すことが大切です。

参考:公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会「ベネッセコーポレーション事件」

コラムを書いたライター紹介

日向妃香

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採用系コンサルタントとして企業の採用サポート・採用戦略構築・採用ノウハウの提供を行いながらライターとしても活動中。
得意分野は新卒採用とダイレクトリクルーティング。

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