リスキリングとは? これからのVUCA時代を生き抜くための企業人事戦略術
コロナ禍を経て、アフターコロナ時代となった今、社会は「VUCA(ブーカ)時代」と呼ばれています。VUCAとは、「社会を取り巻く環境が複雑性を増し、将来の予測が困難な状態」を指す言葉で、近年ビジネスシーンでも話題になっているキーワードのひとつです。
また、社会全体として、企業内でのDX化や教育分野での情報リテラシーの導入の動きが加速しています。2025年1月実施予定の大学入試共通テストでは新たに「情報」という科目の試験が導入されます。将来、入社する部下たちが情報教育を体系的に学んでくる中、従来通りの仕事の進め方では、部下と上司の知識差が逆転する恐れもあり、企業の存続においても、早急なDX化への対応が求められることは想像に難くないでしょう。
このような背景の中、現在注目を浴びている人事戦略のひとつが「リスキリング」です。
今回は、企業が従業員とともに、これからのVUCA時代を生き抜くための人事戦略としての「リスキリング」について、メリット・デメリット、導入に際して人事担当者が気をつけるポイントについて詳しく解説します。
リスキリングとは?
リスキリングとは、今の職業で必要とされるスキルが大幅に変化する際、それに適応するために新たに必要なスキルを獲得する、または獲得させることです。
近年では、特にデジタル化と同時に新しい職業が続々と生まれることが予測されるため、仕事の進め方自体も大幅に変化することから、自ずと新しいスキルを習得しなければ生き残れない時代です。
「リスキリング」とは単なる「学びなおし」とは異なり、これからも企業で価値を創出し続ける人材となるために必要なスキルを新たに学ぶ、という点が強調されています。
リスキリングについての社会的背景
現代社会は、「VUCA」と呼ばれる環境となっています。
VUCAとは、
「Volatility」(変動性)
「Uncertainty」(不確実性)
「Complexity」(複雑性)
「Ambiguity」(曖昧性)
の頭文字を取った言葉で、あらゆるものを取り巻く環境が複雑性を増し、想定外の事象が次々と起こるため、将来の予測が不可能な社会的状態を表します。
社会を取り巻く環境の変化が激しかったり、先が見えづらかったりといったことはいつの時代もありますが、十数年前に比べて現在は明らかにVUCAの度合いが加速しています。
その理由のひとつは、テクノロジーが進化するスピードが加速度的に大きくなっていることが挙げられます。結果、世の中の仕組みやルールをテクノロジーの変化に合わせて急速に変えざるを得なくなり、ますます先行きが見通せない時代になっています。
また、国際関係の変化や、加えて新型コロナウイルス感染症の拡大を経験した世界を取り巻く状況により、先行きの不透明さは増し、世界はますます混迷を極めています。
大企業や中小企業などの企業規模によらず、あらゆる企業に存続の危機がいつ訪れてもおかしくない状況があるということを肌で感じるようになりました。
これからの時代、社会が激変することが予想される中で、企業が生き抜き従業員に活躍し続けてもらうためにはどうすればよいのでしょうか。
そのために、今従業員一人ひとりの「リスキリング」が求められています。
リスキリング実施のメリット・デメリット
それでは、リスキリングを実施することによるメリット・デメリットにはどんなものがあるのでしょうか。
具体的に見ていきましょう。
メリット
リスキリングで人事戦略を行うことで、従業員のスキルを新規開発することが可能です。
実際に企業がリスキリングを施策として行うメリットは、主に次の2つです。
- 業務の効率化を図ることができる
- 採用コスト、教育コストを削減できる
それぞれ順に解説します。
業務の効率化を図ることができる
RPAをはじめとした自動化などの新たに獲得したスキルの活用により、従来の作業工数が短縮され、全社的な業務効率化につながります。短い時間で精度の高い業務が実現されることで、時間外・休日勤務の発生率が下がり、従業員満足度が向上することで働きやすい職場環境の形成につながります。
採用コスト、教育コストを削減できる
リスキリングの導入により、従業員にスキルを習得させることができれば、DXスキルを保有している人材を新規で採用するよりも全体のコストを抑制できます。
リスキリングを用いて従業員を戦略化することこそが、企業の成長には必要不可欠です。
デメリット
DX時代のスキル取得に効果的である一方、スキルを身に付けたことにより、他社へ人材が流出したり、コスト面での負荷が増えたりといったデメリットが挙げられます。
- スキル習得により転職の可能性が上がる
- 継続的な実施にコストがかかる
それぞれ順に解説します。
スキル習得により転職の可能性が上がる
必要な知識やスキルの習得は、従業員自らの成長を促し、効率の良い商品・サービス開発や売り上げに貢献が可能となります。経験を積むことで選択肢が広がるため、スキルアップを通してより高い待遇や活躍の場が多い企業を求め、転職意欲が高まる可能性も出てくるでしょう。
このようにならないためにも、人事担当者によるアフターフォローも欠かせません。上司・部下の信頼関係構築の施策や風通しの良い職場づくりへの支援をし、処遇・待遇の見直しや適切な配置転換なども視野に入れ、従業員のモチベーションを常に高める施策を行うようにしましょう。
継続的な実施にコストがかかる
スキルを得るには研修の実施やアフターフォローなど、時間と費用といったコストが発生します。一回きりの研修受講では効果が得られにくいため、継続したリスキリングの実施に向けての予算確保と全社的な仕組みづくりが必須です。
また、従業員が意欲的・継続的に学習に取り組めるよう、モチベーションの維持・管理にも継続的なコストがかかります。時間と費用の見込みをあらかじめ算出し、綿密な計画を立てリスキリング施策を実行しましょう。
また、オンライン講座の中には無料講座もありますので、リスキリング導入の初期段階ではこのような方法の活用も視野に入れるとよいでしょう。
リスキリング導入で人事担当者が気を付けるポイント
リスキリングを実際に人事施策に取り入れる際に、気を付けるポイントは以下です。
- 学びに対する取り組みや成果を評価や報酬にして表す
- 従業員自ら目指すべきコースを明確にし、選択する体制にする
それぞれ順に解説します。
学びに対する取り組みや成果を評価や報酬にして表す
実際にリスキリングを取り入れる際は、わかりやすい指標で効果測定をするようにしましょう。
結果として目に見えやすく第三者からも認知されやすい、資格を取ることを目標に置くことをおすすめします。
従来社内に資格取得奨励制度がある場合は、こちらを活用して学びに対する取り組みの部分を強化して、従業員間で納得のいくリスキリングの仕組みづくりにつなげましょう。
おすすめのデータサイエンス関連の資格・eラーニング講座を3つご紹介します。
どれも、一般的な社会人に必須のDXスキルを取得・証明することのできる資格・講座です。
ITパスポート試験|IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
https://www.jitec.ipa.go.jp/1_11seido/ip.html
データサイエンス数学ストラテジスト | 公益財団法人 日本数学検定協会
https://www.mathdatascience.jp/personal/
WinActor eラーニング講座|gacco.org
https://gacco.org/winactor/
従業員自ら目指すべきコースを明確にし、選択する体制にする
実際に従業員のバックグラウンドや従事している職務内容、興味の志向などをもとに、従業員自身が目指すべきコースを明確にして、コース選択は自主性に任せます。
会社が決める場合も、いくつかコースを複数提案したうえで、その中から選ぶようにしたほうが良いでしょう。
会社が決めてしまうと、どうしても「やらされ感」が出てしまうため、反発を招いたり学習意欲や継続するためのモチベーション維持が難しくなったりすることが考えられます。
アフターコロナでリスキリング活用が増える見込み
リスキリングは、従業員個人の資質や意思に依存することなく、企業や組織全体で推進していくことによって、個人のスキルアップや努力を組織全体としての成長や従業員のエンゲージメント向上、最終的には企業価値の向上にまで昇華させるものです。変化の大きい時代において、欠かすことができない重要な施策といえるでしょう。
このことを念頭に置いて、従業員自らがキャリアを持続的に選択することを可能とする仕組みが、結果として企業の持続的な成長につながります。
従業員とともにこれからのVUCA時代を切り開き、生き抜くスキルを身につけるために、リスキリングを積極的に人事戦略に取り入れていきましょう。
参考文献:経済産業省「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/002_02_02.pdf
コラムを書いたライター紹介
真南風文藝工房
自動車メーカーでの先行開発エンジニアを経験した後、理系教科書編集(高校数学・中学校理科教科書編集)職に転向。近年は、サイエンスライティングに加え、理系・元エンジニアとしての経験を活かし、大学院生向け就職活動サイトコラム執筆・AI関連企業広報ライティングなど、幅広い分野での執筆活動に取り組んでいる。
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