生成AIの活用推進による企業の新卒採用の変化

2022年末のChatGPT登場以来、生成AIはビジネスの在り方を変えただけでなく企業の採用活動にまで変化をもたらしています。特に新卒採用においては、学生がAIを活用してエントリーシートを作成することが常態化しました。その結果、企業は「これまでの選考基準では、真に優秀な人材を見極められない」という強い懸念に直面しています。
かつての新卒採用では、エントリーシートや適性検査を通じて文書作成能力や論理的思考力などを評価してきました。しかし、生成AIがそれらを高い水準で代行できるようになった今、評価の軸は「何を知っているか」「どれだけ正確に書けるか」という個人の処理能力から、「AIをどう使いこなし、人間にしか出せない価値をどう付加するか」という「AIを用いた付加価値の創出」へとシフトしつつあります。
本記事では、生成AIの台頭によって企業の採用方針や戦略がどのように見直され、どのような人材が求められ始めているのかを解説します。
生成AIの活用推進による企業の採用方針・戦略の変化
生成AIの急速な普及は、企業の新卒採用の考え方そのものに大きな転換をもたらしています。
株式会社アカリクが2025年10月に発表した「AI×新卒採用要件変化調査」では、計88.4%もの企業が、生成AIの活用推進によって新卒採用戦略を「大幅に見直した」あるいは「一部見直した」と回答しています。
従来の採用活動は、一定数の人材を安定的に確保することや、過去の成功パターンに基づく人物像に合致する学生を見極めることが中心でした。しかし、AIが実務の多くを担うようになる中で、学歴や経験といった従来の採用基準だけでは、将来的に自社で活躍し、イノベーションを起こせる人材かどうかを判断することが難しくなっています。その結果、採用時点で見るべき資質や評価基準も変えなければならないという認識が広がりつつあります。
また、「現在は見直しを検討中」と回答した企業も一定数存在しており、今後さらに多くの企業がこの流れに追随することが予想されます。
生成AIの活用推進によって企業が採用戦略を見直す理由
多くの企業が急ピッチで採用戦略を見直している理由は、単に「流行だから」といった表面的なものではなく、ビジネスの根幹に関わる構造的な変化に起因しています。
ここでは、生成AIの活用推進に伴い、企業が採用戦略を見直す背景を解説します。
求める人材要件が変化したから
生成AIの導入によって、企業が新卒に求めるスキルセットは大きく変化しています。かつては、正確さやスピードが問われる定型業務の処理能力や、知識量の多さが評価の対象でした。しかし現在では、日常業務の多くをAIが担えるようになり、従来重視されていた「正確な事務処理能力」や「知識の蓄積量」の価値は、相対的に低下しています。
アカリクの調査でも、採用戦略を見直した理由として「生成AIを活用できる人材を重点的に採用したい」が上位に位置しています。単にAIツールを使いこなせるだけでなく、業務の目的に応じて適切に活用し、成果につなげられるAIリテラシーが職種を問わず求められており、スキル要件の再定義も進んでいる様子がうかがえます。
企業の人材ポートフォリオが変化したから
AIによる生産性向上は、組織の適正人数にも変化を及ぼしており、新卒採用においても多くの企業で採用人数の見直しが行われています。
アカリクの調査では、55.4%(※)の担当者が「生成AIの活用推進により新卒採用の人数が減少した」と回答しています。
(※)「大幅に減少した(9.8%)」「やや減少した(45.6%)」計
特に、事務処理や初期段階のデータ分析など、定型化しやすい業務はAI代替が進んでおり、新卒を大量に採用して育成するモデルを見直す企業が増えています。結果として、「人数ありき」の採用から、必要最小限かつ高付加価値な人材を選抜する方向へとシフトしています。
一方で、AI時代特有の新しい役割に対応するため、これまで存在しなかった職種やポジションを新設する動きも見られます。AIエンジニアに限らず、現場の課題を理解した上でAI活用を設計・推進する人材や、AIの出力を業務に落とし込む橋渡し役など、人とAIの協働を前提とした職種が増えています。
このように、企業は「誰を減らし、誰を増やすか」というポートフォリオの再構築を迫られており、採用計画の数字にも直接反映されています。
新卒採用にもAIの導入が進んでいるから
新卒採用に生成AIを導入する企業も増えています。応募者数の増加や採用競争の激化に対し、AIを採用活動に活用することで、より精度の高いマッチングを目指す動きが加速しています。
具体例として、履歴書やエントリーシートの分析・分類時にAIを活用することで初期選考にかかる時間を大幅に短縮できるようになりました。
また、評価基準をAIに学習させることで、担当者ごとの判断のばらつきを抑え、一定の公平性を保とうとする試みも増えています。これにより、「出身大学」や「外見」、「面接官との相性」といった人が無意識に持ちがちなバイアスを取り除き、より客観的な視点で学生を評価することが可能になりました。さらに、チャットボットを活用した問い合わせ対応や個別に最適化された情報提供によって、候補者体験を高めようとする企業も増加しています。
学生が就職活動にAIを活用するようになったから
学生が生成AIを活用することが当たり前になったことで、企業は選考の在り方そのものを再考せざるを得なくなっています。エントリーシートの文章完成度だけでは、本人の実力や思考力を正確に測ることが難しくなり、「エントリーシートの内容でスクリーニングする」という手法は形骸化しつつあります。
例えば、AIが出力した精度の高いガクチカ(学生時代に力を入れたこと)を鵜呑みにせず、インターンシップでの行動観察や課題・グループワークの実施、面接時の深い対話を通じて、AIでは代替できない能力を見極めようとする動きが広がっています。
生成AI時代に対応するための企業の取り組み
本章では、生成AI時代に対応するための企業の新卒採用活動における取り組みを紹介します。
対面や課題重視の選考
生成AIによって完成度の高い書類が簡単に作成できるようになった今、企業はAIで作成された書類を見分けることにコストをかけるのではなく、AIが介入できない領域におけるパフォーマンスを重視する方向へシフトしています。
例えば、対面型のインターンシップやグループワークを通じて、学生がAIに頼れない状況でどのように振る舞うのか、他者とどう協働するのかを直接観察する企業が増えています。
また、あらかじめ用意された回答を話す面接ではなく、その場で特定のビジネスケースを提示し、短時間で解決策を提示させる「ケース面接」を実施する企業も増えています。さらに、オンラインテストではなく、あえて会場に集めて自筆で書かせる、あるいは監視下でPC入力させる筆記試験を強化・復活させる企業も現れています。
中には、結果や実績だけでなく、「なぜその時、他の選択肢ではなくそれを選んだのか?」「その際、どのような葛藤があり、どう折り合いをつけたのか?」といった、個人の主観や価値観を深掘りする面接を実施する企業もあり、面接の在り方にも変化が生じています。
生成AI活用を前提とした選考の実施
一部の企業では、AIの使用を禁止するのではなく、「AIを道具としてどれだけ高度に使いこなせるか」を評価する選考を導入しています。
具体的には、あえて生成AIの使用を許可した上で、制限時間内にビジネス課題の解決策を考えさせるワークなどが挙げられます。このような選考では、最終的な成果物だけでなく、AIの回答をどのように取捨選択・改善したのかという過程も一緒に提出させ、最終的に自分なりの根拠をどう付け加えたのかも一緒に見極めます。
AIツールを用いた評価制度の導入
AIツールを用いた評価制度を導入することで、公平性と効率性を担保する取り組みも一般的になりつつあります。
例えば、AIが初期面接を担うことで時間や場所の制約をなくし、学生の負担を軽減する取り組みが進んでいます。また、エントリーシートの一次評価をAIが行うことで、人事担当者は学生とのコミュニケーションや採否の最終的な判断に集中できるようになります。
こうした取り組みは、単なる効率化にとどまらず、採用の質を高めるための手段として多くの企業が実施を進めています。
AI導入による『成功事例』と『留意すべき失敗・改善事例』
企業の採用活動にAIを導入することは多くのメリットをもたらします。一方で、設計や扱い方を誤ると大きなリスクや損失を負うことになります。
本章では、採用活動にAIを導入した企業事例について、成功事例および失敗事例の双方を紹介します。
成功事例
■ソフトバンク株式会社
ソフトバンクは、早くからAIによるES選考や動画面接を導入しています。結果として、選考工数を約70%~85%削減することに成功しました。
また、AIによって作り出された時間を合格圏内の学生との対話に充て、学生一人ひとりと向き合う時間を増やすことで、内定辞退率の低下やマッチング精度の向上を実現しました。
参考:ソフトバンク株式会社「新卒採用選考における動画面接の評価にAIシステムを導入」
■キリンホールディングス株式会社
キリンホールディングスは、AI面接ツールを導入し、初期選考のデジタル化を進めました。導入後のアンケートでは、受検者満足度が約95%という極めて高い数字を記録しています。
いつでも受験できるという柔軟性が地方在住の学生や学業・部活動で多忙な学生に高く支持された結果といえるでしょう。AI面接という無機質になりがちなプロセスにおいて、丁寧な説明とフィードバックの仕組みを整えることで、ブランド価値の向上につなげた成功例です。
参考:株式会社VARIETAS「AI面接官、キリンホールディングスにトライアル導入決定」
失敗例
■米Amazon
Amazon社が開発・運用していた採用スコアリングAIは、過去10年間の履歴書データを学習した結果、「女性」という単語が含まれる候補者の評価を下げる傾向があると判明し、運用を取りやめる結果になりました。
当時のIT業界が男性中心であり、過去の合格者データ自体に性別の偏りがあったため、AIが「男性であること=優秀さの条件」と誤って学習したことが原因であると言われています。
Amazon社の関係者は、「評価の不具合が生じた項目についてプログラムを修正したものの、別の差別をもたらす選別の仕組みが生まれないという保証はない」と話しています。
本事例は、選考活動におけるAI導入は慎重な姿勢と判断、また最終的には人間の視点による評価も必要であることを示唆する例と言えるでしょう。
まとめ
生成AIの普及は、企業の人材ポートフォリオに変化をもたらし、学生の就職活動の在り方にも変化を及ぼしています。その結果、求めるスキルや人数、選考方法は大きく変わり、企業と学生の双方にとってAIの適切な活用及び理解が不可欠な時代に入りました。
今後の新卒採用では、AIをどう使うかだけでなく、人間ならではの思考力や判断力をどう見極め、育てていくかが重要なテーマとなるでしょう。
人事担当者は、AIの普及が採用活動にも大きな影響をもたらす可能性があることを理解しておく必要があります。本記事を参考に、時代の流れに応じた採用戦略の構築に取り組んでいきましょう。
コラムを書いたライター紹介

日向妃香
得意分野は新卒採用とダイレクトリクルーティング。








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