人事担当者必見!「選ばれる企業」になるための採用ナーチャリング戦略と実践方法


企業の採用活動は、一昔の求職者を選ぶスタイルから、少子高齢化に伴う労働力人口の減少や求職者の価値観の変化などを背景に、求職者から選ばれる市場状況へと変化しています。
このような環境下で、求職者から「選ばれる企業」になるためには、従来の一方的な情報発信や画一的な選考プロセスを見直し、候補者一人ひとりと長期的な視点で良好な関係を築く取り組みが不可欠です。そこで注目されているのが「採用ナーチャリング」という考え方です。

本記事では、採用領域におけるナーチャリングの定義や重要性、具体的な実践方法などを解説します。

採用活動における「ナーチャリング」の定義

「ナーチャリング(Nurturing)」とは、直訳すると「育成」を意味します。採用活動では、過去に自社の選考を辞退した候補者や転職潜在層に対して、継続的に情報提供やコミュニケーションを取ることで、自社への興味・関心を高め、信頼関係を構築し、最終的に応募や入社へとつなげる一連の活動を指します。
具体的には、企業の魅力発信やキャリアに関する情報提供、イベントへの招待、個別の相談対応など、候補者の状況やニーズに合わせた情報提供やアプローチを通じて、候補者の自社への理解を深め、志望度を徐々に高めていきます。

なぜ採用ナーチャリングが注目されているのか

近年、採用活動においてナーチャリングという考え方が注目を集めている背景には、いくつかの要因が存在します。

まず、労働市場における人材獲得競争の激化が挙げられます。少子化に伴い若年層の労働力人口は減少の一途を辿っており、多くの企業が一人の求職者を奪い合う状況が続いています。このような売り手市場では、企業は候補者から選ばれる存在であるという意識を強く持たなければなりません。多くの候補者から選ばれるためには、候補者との継続的な関係構築を通じて自社の魅力を伝え続けるナーチャリングが有効な施策として、注目を集めるようになりました。

次に、候補者の価値観の多様化と情報収集行動の変化も採用ナーチャリングが注目されるようになった一因だと考えられます。特にミレニアル世代やZ世代と呼ばれる若年層は、企業選びにおいて給与や待遇といった条件面だけでなく、企業文化や社会貢献度、働きがい、自己成長の機会などを重視する傾向が顕著です。

また、インターネットやSNSの普及により、候補者は企業の公式情報だけでなく、口コミサイトや社員の個人的な発信など、多岐にわたる情報源から主体的に情報を収集し、比較・検討を行うようになりました。このような求職者の価値観や情報収集の在り方の変化に伴い、画一的な情報発信では候補者の興味を喚起するのは難しくなりつつあります。そこで、パーソナライズされたコミュニケーションを通じて、長期的に信頼関係を構築していく採用ナーチャリングが注目を集めることとなりました。

採用ナーチャリングに取り組むことで得られるメリット

戦略的に採用ナーチャリングに取り組むことで企業は、次のようなメリットを得られるでしょう。

  • 母集団形成の質の向上
  • 選考途中での歩留まり改善
  • 内定辞退の防止
  • 潜在層へのアプローチと将来的な採用候補者の育成
  • 採用ブランディングの強化 など

採用ナーチャリングを通じて、企業のビジョンや働く環境、社員のリアルな声などを継続的に発信することで、候補者は企業への理解を深め、自分に合うかどうかを見極めやすくなります。これにより、候補者は応募前に自分にマッチする企業か冷静に判断できるため、ミスマッチを防ぎ質の高い母集団形成が期待できるでしょう。さらに、選考の各段階で適切な情報提供やフォローアップ、個別相談の機会などを設けることで、候補者の不安を解消し、企業への信頼感や期待感を高めることもできます。手厚いナーチャリングにより、候補者の入社意欲は高まり、スムーズな受け入れも可能になるでしょう。

また、すぐに転職や就職を考えていない転職潜在層に対しても、継続的に情報提供を行い、緩やかな接点を持ち続けることで、将来的に彼らがキャリアチェンジを考えた際に、自社を選ぶ可能性が高まります。特に専門性の高い職種や、採用難易度の高いポジションの人材獲得において有効な戦略となり、採用活動の効率化やコスト削減にも寄与するでしょう。

加えて、採用ナーチャリングは採用ブランディングとの相乗効果も期待できます。候補者一人ひとりに寄り添った丁寧なコミュニケーションは、企業の評判を高め、「人を大切にする会社」というイメージを醸成します。採用選考過程におけるポジティブな体験は口コミで広がり、さらなる優秀な人材を引き寄せる好循環を生み出すでしょう。
このように、採用ナーチャリングは、短期的な採用だけに限らず、中長期的な採用力の強化や企業価値の向上にも貢献する施策といえるでしょう。

採用フェーズに合わせたナーチャリング施策の設計

採用ナーチャリングを効果的に実践するためには、候補者の心理状態やニーズに合わせた施策を設計することが不可欠です。ここでは、主要な採用フェーズごとに、効果的なナーチャリング施策の考え方と具体例を解説します。

認知・興味フェーズ

認知・興味フェーズは、候補者が企業の名前を知ったり、何らかのきっかけで漠然とした興味を抱き始めたりする初期段階を指します。このフェーズの候補者は、自社に対する知識や理解が浅いため、少しでも「面白そうだな」「もっと知りたいな」というポジティブな第一印象を与えることが大切です。そのため、一方的な企業紹介に終始するのではなく、候補者の潜在的なニーズや関心事に寄り添った情報提供を心がけましょう。

例えば、候補者が関心を持ちそうな業界トレンドやキャリアに関する有益な情報、あるいは社会課題に対する企業の取り組みを、採用ブログやオウンドメディア、SNSなどを通じて発信する方法があります。さらに自社のビジョンや文化、働く環境の魅力などを自然な形で織り交ぜることで、企業への関心を徐々に喚起することができるでしょう。

認知・興味フェーズにおける採用ナーチャリングでは、売り込み感を前面に出さず、「役立つ情報を提供してくれる存在」として認知してもらうことがポイントです。
また、合同企業説明会や学内セミナー、業界イベントへの出展などの際にも、独自の強みや特徴的な取り組みなどを、記憶に残るような形で提供することが求められます。

例えば、魅力的なブースデザイン、インタラクティブなデモンストレーション、あるいは共感を呼ぶ社員のストーリーテリングなどが考えられます。
この段階では、焦らず、じっくりと関係性を温めていくことを意識しましょう。

応募・選考フェーズ

応募・選考フェーズは、候補者が企業に対して具体的な関心を持ち、応募書類を提出したり、面接を受けたりする段階です。このフェーズの候補者は、企業に対する期待感を抱くのと同時に、選考に対する不安や疑問も抱えています。したがって、候補者の不安を軽減し、企業理解を深め、選考プロセス全体を通じてポジティブな体験を提供することを心がけましょう。

応募を受け付けた際は、迅速に応募完了の通知を送り、今後の選考フローやスケジュール、連絡方法などを明確に伝えることで、候補者の不安を取り除きます。また選考の各段階では、透明性の高い情報提供と丁寧なコミュニケーションを意識してみてください。
面接時には、候補者の緊張を和らげるような雰囲気作りを意識し、一方的な質問に終始せず、候補者からの質問にも真摯に答える双方向の対話を重視することが大切です。選考結果の通知は、合否に関わらず、できるだけ迅速かつ丁寧に行い、不合格となった候補者に対しては、感謝の意を伝え、今後の活躍を願うメッセージを送るなど、誠実な対応を心がけましょう。
応募・選考フェーズの採用ナーチャリングは、候補者が「この会社で働きたい」という思いを強くし、選考を前向きに進められるような環境を整えることが重要です。

内定・入社前フェーズ

内定・入社前フェーズは、候補者が企業からの内定を受諾し、実際に入社するまでの期間を指します。このフェーズは、候補者が入社への期待感を高める一方で、「本当にこの会社で良かったのか」「新しい環境に馴染めるだろうか」などの不安が膨らみやすくなる時期です。

内定通知から入社までの間は、入社手続きに関する連絡だけでなく、企業の最新情報を共有したり、歓迎のメッセージを送ったりするなど、定期的にコミュニケーションを取り合いましょう。
内定者向けの懇親会や食事会、オフィス見学などを企画し、既存社員やほかの内定者と交流する機会を設けるのも一つの方法です。また、配属予定部署の社員との面談機会を提供し、入社前の疑問や不安を気軽に相談できる相手を作ることも有効です。

この時期のナーチャリングは、内定辞退を防ぐだけでなく、入社後の早期離職を防ぎ、エンゲージメントの高い社員を育成するという観点からも極めて重要です。企業が内定者一人ひとりに寄り添い、手厚くサポートする姿勢を示すことで、内定者のロイヤルティを高め、「この会社を選んで良かった」という確信と入社に向けた自信の醸成につなげられるでしょう。

採用ナーチャリング導入時のよくある課題と解決策

ここでは、採用ナーチャリング導入時によくある課題と解決策について解説します。

忙しくて手が回らない

多くの企業が母集団形成や書類選考、面接調整、入社手続きなど、目の前の業務に忙殺され、中長期的な視点が必要な採用ナーチャリング施策の企画・実行に十分な時間を割けないという課題に直面しています。
しかし、忙しくて手が回らない状況を放置していては、いつまで経っても「待ち」の採用から脱却できず、場当たり的な対応に終始してしまう懸念があります。

採用ナーチャリングに注力できる体制を整えるには、まず採用業務の効率化に取り組む必要があるでしょう。ATS(採用管理システム)などを活用し、応募者管理やメール配信、スケジュール調整など定型的な業務の自動化・効率化を図ることで、ナーチャリング活動に充てる時間を捻出できます。また、採用代行など外部のサービスを利用し、採用担当者が採用ナーチャリングをはじめとする採用のコア業務に注力できる環境を整えるのも一つの方法です。

加えて、全てのナーチャリング施策を一度に完璧に行おうとするのではなく、自社の採用課題やターゲット候補者層に合わせて、最も効果が高いと思われる施策から優先的に取り組むのもよいでしょう。
さらに、採用は人事部門だけの仕事ではなく、全社的な取り組みであるという意識を醸成し、現場社員や広報部門、マーケティング部門などの協力を仰ぐのも有効な手段です。社員インタビューの実施やブログ記事の執筆、イベントへの登壇などを、各部門の社員に分担して依頼することで、人事部門の負担を軽減しつつ、より多様で魅力的なコンテンツを生み出すことができます。

初期投資や体制構築にはある程度の労力が必要ですが、これらの解決策を通じて、持続可能なナーチャリング体制を構築することが、将来的な採用成功への近道となるでしょう。

候補者からの反応が薄い

採用ナーチャリング施策を実践しているにもかかわらず、「配信したメールマガジンの開封率が低い」「イベントへの参加者が少ない」「コンテンツへのアクセスが増えない」など、候補者からの反応が薄いと感じることもあるでしょう。

候補者からの反応が薄い原因は様々ですが、適切な分析と改善策を講じることで、状況が改善されることもあります。
まず考えられる原因としては、配信している情報が採用ターゲットの興味・関心やニーズと合致していない可能性が考えられます。具体的には、学生向けの情報にもかかわらず専門的な情報を記載し過ぎていたり、反対に経験者採用向けに発信する情報で初歩的な企業紹介に終始したりするケースが例として挙げられます。解決策としては、まずターゲット候補者のペルソナを明確に設定し、彼らがどのような情報を求めているのか、どのような点に課題を感じているのかを分析してみましょう。その上で、候補者の視点に立った、価値のある情報、共感を呼ぶストーリー、あるいは楽しんでもらえるようなエンターテインメント性のあるコンテンツを提供するように心がけることが大切です。

次に、コミュニケーションのタイミングや頻度が適切でない可能性が挙げられます。解決策としては、候補者の行動履歴を分析し、関心が高まっているタイミングを見計らってコンタクトを図ったり、情報の配信頻度やタイミングを見直したりすることが有効です。A/Bテストなどを活用して、有効性が期待できるコンテンツのタイトルや配信時間を検証するのも一つの方法です。

ターゲットの行動特性や反応を分析し、PDCAサイクルを回しながら継続的に改善を図ることで、候補者からの反応は着実に改善されるでしょう。

採用成果につながらない

採用ナーチャリングに時間と労力を投じているにもかかわらず、「応募者数が増えない」「内定承諾率が改善しない」など、具体的な採用成果が表れないケースも少なくありません。

まず考えられる原因として、「ナーチャリングのゴール設定とKPIの不明確さ」が挙げられます。採用ナーチャリングを通じて何を達成したいのか、その進捗を測るためのKPIが曖昧なままでは、施策の効果を正しく評価し、改善につなげることはできないでしょう。採用ナーチャリングを実施する際は、採用全体の目標から逆算し、各ナーチャリング施策がどのKPIに貢献するのかを明確にすることが大切です。そして、定期的に各KPIを測定・分析し、目標との乖離があれば、施策内容やアプローチ方法を見直しましょう。

また、いくらナーチャリングで候補者の志望度を高めても、その後の選考プロセスで不適切な対応や不備が散見されたり、スムーズな情報連携ができていなかったりすれば、候補者の関心は他社に移ってしまいます。採用ナーチャリングが採用成果につながらない場合は、応募から内定に至るまでの期間や自社の対応を見直してみることをおすすめします。

採用ナーチャリングは、すぐに成果が表れる施策ではありません。
採用活動における各プロセスの数値や応募者の反応を複合的に見直し、粘り強く改善を重ねることで、具体的な採用成果が表れてくるでしょう。

まとめ

採用ナーチャリングとは、潜在的な候補者と中長期的な視点で関係を構築し、自社への興味・関心を高め、信頼を育む採用活動の在り方や取り組みを指します。
労働市場の競争激化、候補者の価値観の多様化、候補者の情報収集行動の変化などを背景に、現代の採用環境においてナーチャリングの視点は不可欠になりつつあり、最終的に「選ばれる企業」となるための重要な取り組みの一つでもあります。

認知・興味フェーズから応募・選考フェーズ、そして内定・入社前フェーズに至るまで、候補者の心理状態に合わせたきめ細やかなコミュニケーションと情報提供を行うことで、母集団の質の向上、歩留まりの改善、内定辞退の防止といった様々な採用課題の解決に寄与する可能性が期待できます。

導入にあたっては、リソース不足や反応の薄さ、成果へのつながりにくさといった課題に直面することもあるかもしれません。しかし、地道な努力と継続的な改善を重ねることで、持続的な事業成長を支える優秀な人材を獲得できる体制が整うでしょう。

コラムを書いたライター紹介

日向妃香

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採用系コンサルタントとして企業の採用サポート・採用戦略構築・採用ノウハウの提供を行いながらライターとしても活動中。
得意分野は新卒採用とダイレクトリクルーティング。

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