採用CXとは?メリットと取り組み方のポイントを解説

採用市場が成熟し、求職者の選択肢が増える中、企業が求める人材を採用するためには、単に採用プロセスを整備するだけでは不十分です。
これからの採用戦略においては、求職者一人ひとりに対して質の高い体験を提供し、自社の魅力を効果的に伝える「採用CX(候補者体験)」の考え方が不可欠になるでしょう。
本記事では、企業が採用CX向上に取り組むメリットや採用CX向上のポイントについて解説します。
採用CXとは?
採用CX(Candidate Experience:候補者体験)とは、企業に興味を持つ段階から入社に至るまで、求職者が企業と接触するあらゆる場面で受け取る印象や体験を設計したり、印象の向上を図ったりする採用施策を指します。
採用CXは、単に採用担当者や面接官に抱く印象だけに限らず、募集広告の印象や説明会の雰囲気、WebサイトやSNSから発信される情報、内定後のフォローなど、あらゆるタッチポイントが含まれます。
採用CXが注目される背景
ここでは、採用CXが注目されるようになった背景について解説します。
人材獲得競争の激化
採用CXが注目されるようになった要因として、人材獲得競争の激化が挙げられます。
求職者は複数の企業を比較・検討することが一般的であり、その過程で「この企業で働きたい」と感じさせる魅力的な体験を提供できるかどうかが、採用の成否を大きく左右するようになりました。
このような採用市場の変化から、企業は採用CXに注目し、求職者の体験価値向上にも注力するようになったと考えられます。
インターネットやSNSの普及
インターネットやSNSの普及により、情報伝達のスピードと範囲が格段に向上したことも、採用CXが注目されるようになった要因の一つです。求職者は、企業の公式情報だけでなく、口コミサイトや個人のSNS発信など、多岐にわたる情報源からリアルな情報を容易に入手できるようになりました。
選考過程で不快な経験をしたり、不誠実な対応を受けたりした場合、その情報は瞬時に拡散され、企業の評判を著しく損なう恐れがあります。反対に質の高い採用CXを提供できれば、好意的な口コミとして広がり、新たな求職者を引き寄せる好循環を生み出すでしょう。
求職者の価値観の多様化
求職者の価値観が多様化していることも、採用CXが注目される一因といわれています。近年、多くの求職者は、給与や待遇などの条件面だけでなく、企業文化や働きがい、自己成長の機会、社会への貢献度など、より多角的な視点から企業を評価するようになりました。採用CXを通じて、自社の理念やビジョン、働く環境の魅力を具体的に伝え、求職者一人ひとりに寄り添ったコミュニケーションを図ることが、こうした多様なニーズに応え、共感を呼ぶために欠かせなくなりつつあります。
企業の採用活動で採用CXを意識するメリット
本章では、企業が採用CXを意識することで得られるメリットを紹介します。
求職者の志望度が向上する
採用CX向上に取り組むメリットの一つは、求職者の志望度向上です。採用プロセス全体を通じて、求職者が「この企業で働きたい」「この企業の一員として貢献したい」と強く感じられるようなポジティブで一貫性のある体験を提供することで、企業に対する信頼感や期待感を高められるでしょう。
具体的には、迅速かつ丁寧なコミュニケーション、面接官の真摯な態度や的確な質問、フィードバックの提供などに努めることで求職者のCX向上を図ることができます。また、企業説明会やオフィス見学などで、実際に働く社員の生き生きとした姿に触れたり、企業の文化や風土を肌で感じたりする機会を提供することも、志望度を高める要因となるでしょう。
このように、細部にまで配慮の行き届いた採用CXは、求職者の心に深く響き、数ある選択肢の中から自社を選んでもらうための動機付けにもなるでしょう。
歩留まりが改善される
採用CXを高め、求職者が企業に対して強い魅力や信頼を感じるようになると、他の企業と比較検討した際に、自社を選択してもらえる可能性が高まります。
たとえば、面接官との対話を通じて自己成長の可能性を感じたり、企業のビジョンに共感したりすることで、求職者は企業に対して好印象を抱くでしょう。また、情報提供が適切かつ迅速であれば、求職者は企業に対して誠実さを感じ、不安や疑念を抱くことなく選考に臨めるようになります。
その結果、選考辞退や内定辞退が減り、歩留まりも改善するでしょう。
良い評判が拡散される
採用CXを向上させると、自社の良い情報が求職者を通じて外部に広まるというメリットもあります。選考過程で満足度の高い体験価値を得た求職者は、たとえ入社に至らなかったとしても、その企業に対して良い印象を抱き続けるでしょう。そして、そのポジティブな体験価値は友人や知人、あるいはSNSや口コミサイトなどを通じて共有され、拡散されることもあります。
個人が発信する情報は、現代社会において大きな影響力を持ち、特にキャリア選択という重要な意思決定においては、実際にその企業と接点を持った「生の声」が重視される傾向があります。「面接官がとても親身に話を聞いてくれた」「選考結果の連絡が迅速で丁寧だった」「企業のビジョンに共感できた」など、自社に関するポジティブな評価が蓄積されることで、ブランディング効果が高まり、次回以降の採用活動がスムーズに進む好循環を生み出します。
このように、採用CXへの投資は、短期的な採用成果だけでなく、長期的な企業ブランディングの観点からも非常に有効な施策といえるでしょう。
採用後のミスマッチを防止できる
採用CXを重視した積極的なコミュニケーションは、入社後のミスマッチ低減にも貢献するでしょう。
企業の良い面だけでなく、課題や厳しい側面も含めて正直かつ透明性の高い情報を提供し、質問にも真摯に答えることで、求職者は企業の実態をより正確に把握できるようになります。また、入社後のイメージを具体的に描けるようにもなるため、より納得感を持った状態で入社に至ることができるでしょう。
具体的な取り組みとしては、職場見学や社員との座談会を実施するなどの方法があります。新入社員がスムーズに組織に定着し、早期に活躍できる可能性を高めることで、結果として採用コストの削減や組織全体の生産性向上にも有益な効果が期待できます。
既存社員のエンゲージメントが向上する
採用CXの向上に取り組む文化や風土が「自社は人を大切にする会社だ」というメッセージとして既存社員に伝わり、既存社員のエンゲージメント向上に寄与することもあります。
従業員一人ひとりが高いエンゲージメントを持つことは、生産性の向上、離職率の低下、イノベーションの促進など、企業経営におけるさまざまな側面で好影響をもたらします。
採用CXへの注力は、単に新たな人材を獲得する手段にとどまらず、組織全体の活性化と持続的な事業成長にも資する取り組みといえるでしょう。
採用CX向上に取り組む際の3つのポイント
本章では、採用CX向上に取り組む際に意識したい3つのポイントについて解説します。
【ポイント1】求職者視点と適切なコミュニケーションを意識する
採用CXの向上を目指す際は、求職者視点と適切なコミュニケーションを意識しましょう。採用CXに取り組んでいたとしても、求職者視点に欠けた情報発信やコミュニケーション不足・過多が続くと、期待する反応を得られない場合があります。
たとえば、応募書類の煩雑さ、選考基準の不透明さ、選考結果の連絡遅延、面接官の高圧的な態度などは、求職者に強い不信感やストレスを与え、志望度を低下させる要因になります。また、企業からの一方的な情報発信に終始し、求職者からの質問や疑問に丁寧に答える機会が少なかったり、個別の状況に合わせた柔軟な対応ができなかったりすることも、コミュニケーション不足の典型例といえるでしょう。
採用活動では、採用に関わるスタッフ全員が「求職者ファースト」を意識することが不可欠です。求職者の立場に立ち、応募から入社までの各接点でどのような体験をすれば満足度が高まるかを、具体的に想像してみることが大切です。
求職者視点と適切なコミュニケーションを意識しながら求職者との信頼関係を構築することが、採用CX向上の第一歩となるでしょう。
【ポイント2】選考プロセスを明瞭にして長期化させない
選考プロセスを明瞭にし、長期化させないことも採用CXを向上させる際に留意したいポイントです。
選考状況が不透明な状況が続くと、求職者は大きな不安とストレスを抱えることになります。特に、企業からの連絡が途絶えたり、選考結果の通知が大幅に遅れたりすると、求職者は「自分は軽んじられているのではないか」「対応がずさんだ」など、ネガティブな印象を抱いてしまう恐れがあります。結果として選考辞退や、他社からの内定を優先してしまうリスクを高めてしまうでしょう。
選考プロセスをブラックボックス化、長期化させないためには、応募を受け付けた際に、自動返信メールなどで今後の流れを伝え、選考が進む各段階でも進捗状況を求職者に共有するフローを整えましょう。選考期間の短縮に向けては、社内の意思決定プロセスの見直し、面接官のスケジュール調整の効率化、オンライン面接ツールの活用などが有効です。
また、やむを得ず選考に時間がかかる場合は、理由と今後の見通しを求職者に伝えましょう。採用CX向上に取り組む際は求職者が安心して選考に臨めるよう、選考プロセス全体を見える化して、可能な限り迅速に進める仕組みを作ることが大切です。
【ポイント3】情報量と透明性の担保に努める
採用CXの向上に取り組む際は、十分な情報量の提供と透明性の担保に努めることも大切です。
求職者は企業を選ぶ際に、条件面だけでなく、応募先企業の文化や価値観、働く環境、社員の雰囲気といったソフト面も重視します。しかし、情報が限定的だったり、透明性に乏しかったりする場合、求職者は入社後のミスマッチを懸念したり、他社との比較において決め手を欠いたりして、応募を見送る恐れがあります。
求職者が求める情報量を定期的に発信しつつ、情報の透明性を担保するには、まず自社の企業文化や働く魅力を再定義し、採用ターゲットに響くよう言語化・視覚化することがポイントです。
また、情報の発信チャネルの充足を図り、求職者がさまざまな情報源から企業に関する情報にアクセスできる仕組みを整えましょう。具体的には、企業ホームページ上に社員インタビュー記事や動画を公開する、社員の日常を発信するブログやSNSアカウントを運用する、などが挙げられます。また、座談会やミートアップイベントを企画し、社員と求職者が直接対話できる機会を設けることも有効です。
透明性の高い情報開示と、多角的かつ魅力的な情報発信を通じて、求職者が企業のファンになるような体験を提供することが、採用CXの向上、そして優秀な人材の獲得へと繋つながります。
まとめ
採用CXとは、求職者が企業と接する全てのタッチポイントにおける体験の総体もしくは、採用に至るまでの過程における印象の向上に取り組む施策を指します。
企業は、採用CX向上に取り組むことで、求職者の志望度向上や歩留まりの改善、自社のポジティブな評判の拡散など、多様なメリットを得られます。ひいては、採用ブランディングとの相乗効果を得られたり、既存社員のエンゲージメントが向上したりと、優秀人材の獲得や事業の生産性向上においても目に見える効果が表れてくるでしょう。
企業の持続的な事業活動を実現するには、優秀な人材の獲得が不可欠です。
ぜひ本記事を参考に、自社の採用活動の在り方を見直し、採用CX向上に取り組んでみてください。
コラムを書いたライター紹介

日向妃香
得意分野は新卒採用とダイレクトリクルーティング。
コメントはこちら