【人事向け】アルムナイ採用とは?注目される背景と導入事例も解説


アルムナイ採用は、近年注目を集めている中途採用に用いられる採用手法です。過去、自社に在籍しており、何らかの理由で退職した人材を再雇用する手法であり「ミスマッチが少ない」「即戦力になる」などの強みを持つ採用手法として知られています。
しかしながら、自社にとって有用な採用手法なのか判断できず、導入をためらう採用担当者も少なくないでしょう。

そこで今回は、アルムナイ採用とはどのような採用手法なのかを解説すると共に、注目される背景と導入事例もあわせてお伝えします。

アルムナイ採用とは?

アルムナイ採用とは、過去に在籍していた元社員を再雇用する、中途採用に用いられる採用手法の1つです。米国などでは多くの企業で導入されている手法ですが、近年日本でも採用コストを抑えつつ即戦力となる人材を獲得できる可能性が高いことから注目を集めています。

なお、近年のアルムナイ採用の特徴として、中長期的にわたってアルムナイと関係を持てるアルムナイネットワークの構築など、離職からの期間を問わず復職をアプローチできるよう、戦略に基づいた運用に仕組み化されている傾向が見られます。

アルムナイ採用が注目される背景

アルムナイ採用が注目される背景には、大きく次の2つの要因があると考えられます。

人材の採用難易度が高くなっているから

リクルートワークス研究所のデータによれば、2022年に約6,587万人であった労働供給量は、2030年に341万人余、2040年に1,100万人余の労働供給が不足すると試算されています。

引用:リクルートワークス研究所 『未来予測2040』

上記グラフからも分かる通り、需要と供給には年々大きな差が生じると予測されています。中途採用も今以上に人材の獲得が困難になると考えられるでしょう。既に現段階でも求人広告への掲載や人材紹介など、アプローチ対象が転職顕在層に限られる採用手法の場合、求める人材の獲得は困難になりつつあります。

そこで過去のつながりを活かし、転職潜在層のうちから独占的に採用ターゲットに対してアプローチできるアルムナイ採用が注目されるようになりました。
“既につながりのある元社員にアプローチする”という手法の特性を活かすことで、採用競合とバッティングする可能性を避けられる点がアルムナイ採用の注目を集める要因になっていると言えるでしょう。

人的資本経営への注目が高まっているから

前述の通り、労働供給の不足が予測されることから、近年人材を資本として捉えて1人ひとりの人材価値を最大限に引き出し、企業価値向上につなげる経営戦略にも注目が集まっています。そのような風潮の中で、人的資本経営を実現する方法の1つとしてアルムナイの活用を重視する企業が増えています。

経済産業省が作成した『人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~ 実践事例集』では、アルムナイ制度を導入し、中長期的に退職者との関係を維持している企業や、アルムナイとのネットワーキングを形成しビジネス領域の拡大に役立てている企業が紹介されています。

このようなアルムナイの活用やアルムナイ制度の事例公開を受け、アルムナイに対する認知が広がったことも注目が集まっている要因と考えられるでしょう。

アルムナイ採用の導入割合

株式会社マイナビが実施した『2024年1月度 中途採用・転職活動の定点調査』によると、アルムナイ採用を現在実施している企業は40.9%にも上り、301名以上の規模の企業では55.7%が実施していることが分かりました。

引用:株式会社マイナビ『2024年1月度 中途採用・転職活動の定点調査』

半数近い企業がアルムナイ採用を採用チャネルの1つとして運用している様子が伺えます。

また、経済産業省が公表した「伊藤レポート2.0」では、アルムナイの活用を推奨する記述があり、ニュースや採用系セミナー、人的資本経営をテーマにした勉強会などでもアルムナイ採用という言葉を聞く機会が増えました。

実際に『人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~ 実践事例集』が公開された2022年以降は、「アルムナイ」の検索数が伸長している様子が見て取れます。

引用:Googleトレンド調べ『アルムナイ』

本データからも、近年アルムナイの利用やアルムナイ採用に関心を示す人が増えており、企業・求職者ともにさらなる活用が見込まれると推察されます。

アルムナイ採用を導入するメリット

アルムナイ採用を導入することで企業が得られるメリットを紹介します。

即戦力を採用できる

アルムナイ採用のメリットの1つとして採用した人材が即戦力になる可能性が高い点が挙げられます。

株式会社マイナビが実施した『2024年1月度 中途採用・転職活動の定点調査』における、アルムナイ採用を実施して良かったことを問う設問では「即戦力として活躍してくれること(54.0%)」と回答した企業が一番多く、即戦力採用に有効性を発揮していることが分かります。

引用:株式会社マイナビ『2024年1月度 中途採用・転職活動の定点調査』

自社の元従業員であるアルムナイは、業務を進める上で必要なスキルや経験を持っていることはもちろん、社風や理念、社内の独自ルールも理解しています。そのため、再雇用した暁には、新規で獲得する中途人材よりも早く業務や組織に馴染み、短期間のうちに活躍してくれることが期待できます。

採用ブランディングに寄与する

アルムナイ採用に取り組むにあたっては、アルムナイと中長期的に良好な関係を築いていく必要があります。またアルムナイが戻りたいと思う組織作りも欠かせません。

多くのアルムナイを再雇用している企業では、アルムナイを大切にしていることやアルムナイと良好な関係を築いていることをその実績から証明できるでしょう。また、アルムナイからも高い評価を得ている会社だと見なすことができます。

企業にとっては自社の魅力やブランド価値につながり、延いては採用ブランディングにも良い影響を与えると期待できるでしょう。

アルムナイの意見を人事戦略・組織運営の改善に活用できる

アルムナイは、自社の実情を知る第三者的な存在です。
内部にいると気付けなかった実情も、アルムナイであれば第三者的な外部の視点から気付きを与えてくれることもあるでしょう。アルムナイとのコンタクトの中で得た意見や気付きを自社の人事制度や組織運営に落とし込むことで、現場が抱える課題を解決・改善できることもあります。

アルムナイ採用を導入する注意点

一方でアルムナイ採用を導入する際は、次のような注意点に留意する必要があります。

既存社員とのトラブル防止に努める必要がある

株式会社マイナビが実施した『2024年1月度 中途採用・転職活動の定点調査』のアルムナイ採用に関して課題や問題点を問う設問では、「既存社員との処遇差に対する不満の発生(35.9%)」「既存社員との人間関係トラブル(34.9%)」と、多くの企業が既存社員とのトラブルを懸念視している様子が伺えます。

引用:株式会社マイナビ『2024年1月度 中途採用・転職活動の定点調査』

給与や待遇、入社後のポジションなどが起因となり、既存社員から反感を買うケースも少なくありません。採用基準や雇用条件、入社後の配属などは、既存社員の心情や雇用条件を鑑みながら設定していく必要があるでしょう。

既存社員の退職ハードルが下がる恐れがある

またアルムナイ採用を実施した結果、既存社員の退職ハードルが下がる懸念もあります。

企業としては、アルムナイ採用が正しく運用されるよう、アルムナイ採用の採用基準を明確にしておき、「誰でも容易に出戻れるわけではないこと」を示す必要があります。またアルムナイ採用を実施したとしても、既存社員がそのまま定着し続けるような組織づくりにも注力しましょう。

アルムナイ採用の導入例

最後にアルムナイ採用の運用実例を紹介します。
アルムナイ採用の導入を検討している企業は、実際の導入例を参考にしてみてください。

パーソルキャリア株式会社

パーソルキャリアでは、2023年3月にパーソルキャリア(旧インテリジェンス)を卒業した人材を対象としたアルムナイコミュニティ「パーソルキャリア アルムナイネットワーク」を立ち上げました。

キャリアオーナーシップを育むために有意義な情報やアルムナイ同士つながれるコミュニティの提供に努めると共に、業務委託や複業案件の紹介も積極的に実施しています。

参考:パーソルキャリア株式会社『アルムナイ採用』

日清食品ホールディングス株式会社

日清食品ホールディングスは、社内だけでは得られない知識や経験、ネットワークを有するアルムナイは、日清食品グループの持続的な成長に向けて重要かつ欠かせない存在と位置づけ、世界初のインスタントラーメン「チキンラーメン」を発売した8月25日(2023年)にアルムナイコミュニティを発足しました。

名簿機能でアルムナイ・メンバーの現職を一覧で確認できる他、アルムナイ同士で気軽に情報交換できるようになっており、アルムナイとしても新しいつながりを構築できる機会を得られるでしょう。

参考:日清食品ホールディングス株式会社『日清食品 アルムナイ・メンバー登録ページ』

トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車は、2018年『クルマをつくる会社』から『モビリティ社会をつくる会社』へとビジネスモデルのフルチェンジを発表しました。モビリティカンパニーへと変革していくにあたっては、新しい知見や経験を持った人材の採用が重要だと考え、キャリア採用を強化する施策の一環として2022年3月からアルムナイネットワークを始動しました。
アルムナイからはポジティブな反響が多く、トヨタ自動車としてもアルムナイを社外の経験を還元してくれる貴重な存在であると捉えているようです。

同社のアルムナイ採用は少しずつ軌道に乗ってきており、今後は同社の重要な採用チャネルになると考えられるでしょう。

参考:トヨタ自動車株式会『Alumni Recruiting』

まとめ

アルムナイ採用は、即戦力となる人材を採用できるだけに留まらず、企業ブランディングに寄与したり、社外の新しい知見や知識、情報を自社にもたらしたりしてくれる採用手法です。さらに、在籍社員のエンゲージメント向上に寄与するなど、多様な恩恵を得られるでしょう。

とはいえ、いきなりアルムナイネットワークを構築したり、一度に多くのアルムナイとコンタクトを取ったりすることは難しいかもしれません。まずは、アルムナイ採用運用に向け、かつて共に働いた仲間を迎え入れる風土や環境の構築に努めましょう。

コラムを書いたライター紹介

日向妃香

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採用系コンサルタントとして企業の採用サポート・採用戦略構築・採用ノウハウの提供を行いながらライターとしても活動中。
得意分野は新卒採用とダイレクトリクルーティング。

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