学生のキャリア形成支援に取り組む企業のメリットとは?


少子高齢化に伴う労働人口の減少や採用市場の早期化・長期化など、企業を取り巻く採用環境は近年大きく変化しています。
加えて、学生側のキャリア観も多様化しており、従来の「就職活動の解禁を待ってから母集団形成を開始する」という方法では、優秀な学生の採用が難しくなりつつあります。こうした背景の中、新たな採用施策の一つとして、主体的に学生のキャリア形成支援に取り組む企業が増えています。

そこで本記事では、企業による学生のキャリア形成が注目される背景やキャリア支援の種類、そして企業にとってのメリット・デメリットを解説します。

企業による学生へのキャリア形成支援の実施率

株式会社マイナビが実施した「マイナビ2027年卒 インターンシップ・キャリア形成支援活動に関する企業調査」によると、大学低学年(大学1・2年生)向けのキャリア教育に「すでに取り組んでいる」と回答した企業は14.2%にとどまる結果となりました。

引用:株式会社マイナビ「マイナビ2027年卒 インターンシップ・キャリア形成支援活動に関する企業調査」

キャリア教育を提供している企業数だけを見ると、まだ一部の取り組みのように思えるかもしれません。
しかし、今後の意向に関しては、「2026年以内に実施する予定(2.0%)」、「時期は確定していないが、実施を検討している(10.6%)」、「まだ検討もしていないが、必要性を感じている(34.5%)」を合わせると、全体の半数近くの企業が実施に対して前向きな姿勢を示しています。この結果は、多くの企業が従来の採用スケジュールや手法に限界を感じ、より早い段階で学生との接点を持つことの重要性を認識し始めている左証といえます。

さらに、大学生だけでなく、高校生向けキャリア教育を実施している企業は5社に1社、中学生向けでも7社に1社と、支援対象の低年齢化も進んでいます。

引用:株式会社マイナビ「マイナビ2027年卒 インターンシップ・キャリア形成支援活動に関する企業調査」

取り組みの目的としては、「自社の認知度・理解度向上」だけでなく、「教育・社会貢献」を挙げる企業が多く、キャリア形成支援が企業活動の一部として定着し始めている様子がうかがえます。

企業による学生へのキャリア支援に注目が集まっている背景

本章では、企業による学生へのキャリア支援に注目が集まっている理由について解説します。

採用競争が激化しているから

株式会社ベネッセi-キャリアが実施した「大学1,2年生向けのキャリア形成に関する企業担当者の意識・実態調査」によると、大学1・2年生との接点づくりについて「必要性を感じている」と回答した企業担当者は76.1%にのぼりました。

引用:株式会社ベネッセi-キャリア「大学1,2年生向けのキャリア形成に関する企業担当者の意識・実態調査」

本調査では、接点の必要性を感じる理由として、「就活本番前に大学生の自社認知度を高めたい(68.4%)」「就活本番期前に大学生の自業界認知度を高めたい(55.7%)」「自社にフィットする人材を早期に見つけたい(51.9%)」が上位に位置しています。

引用:株式会社ベネッセi-キャリア「大学1,2年生向けのキャリア形成に関する企業担当者の意識・実態調査」

本調査結果からもキャリア形成支援は単なる広報施策ではなく、採用戦略の一環として位置付けられている様子がうかがえます。加えて、昨今の採用市場の早期化の波を受け、早い段階から 早期から学生との接点を持ちや業界・企業理解を深めようという意図が見て取れます。

学生のキャリアに対する不安が高まっているから

終身雇用の崩壊やジョブ型雇用の広がり、AI・DXの急速な進展により、学生が将来を見通すことはますます難しくなっています。そのため、「どんなスキルが将来必要とされるのか分からない」「最初の会社選びでキャリアが決まってしまうのではないか」といった不安を抱える学生は少なくありません。

企業が仕事理解やキャリア教育の機会を提供することは、こうした不安を和らげると同時に、学生が主体的にキャリアを考えるための材料を提供することにもつながります。結果として、ミスマッチの少ない採用にも寄与し、早期離職のリスクも低減できます。

CSR(企業の社会的責任)の役割が重視されるようになったから

近年、企業活動においては、利益の創出といった経済的価値だけでなく、社会課題の解決や持続可能な社会の実現に貢献する「社会的価値の創出」が強く求められるようになりつつあります。
特にZ世代に該当する現在の学生層は、環境問題やダイバーシティ、教育格差といった社会課題への意識が高く、就職先を選ぶ際にも、その企業が「社会に対してどのような価値を提供しようとしているか」というパーパスを見極めようとする傾向があります。

キャリア形成支援を通じて、企業の姿勢や価値観を具体的に示すことは、単なるイメージ向上にとどまらず、長期的な企業ブランディングや学生の保護者からの信頼獲得につながります。また、SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」や目標8「働きがいも経済成長も」への貢献としても評価されやすく、IR活動においても強力なアピール材料になる可能性が期待できます。

キャリア形成支援の種類

ここでは、企業が取り組むキャリア形成支援の主な種類を紹介します。

教育機関と連携したキャリアセンターの設置

キャリア形成支援の代表的な種類の一つに、大学などの教育機関と連携した取り組みが挙げられます。企業が個別に活動するのではなく、企業が教育機関に講師となる社員を派遣したり、業界研究セミナーや職種理解プログラムを提供したりすることで、学生はより自身のキャリアについて深く考えられる情報に触れられるようになります。中には、企業が大学内に専用のラウンジやラボを設置し、学生が日常的に企業の社員と交流できる環境を整える例も増えています。

企業にとっても、教育機関との継続的な関係構築を通じて、学生の志向や変化を把握しやすくなる利点があります。加えて、業界志望者の裾野を広げるだけでなく、中長期的に自社や業界に関心を持つ人材を育成する土壌づくりに寄与することもあります。
また、産学連携によるキャリア支援は、教育機関にとっても就職実績の向上や実践的な学びの提供などのメリットがあります。
このように、双方が協力的な関係を築きやすく、継続的な取り組みに発展しやすい点が特徴です。

インターンシップや仕事経験の提供

インターンシップや職業体験は、学生のキャリア形成支援の中でも認知度が高く、実践的な施策として多くの企業が取り組んでいます。
具体的には、新規事業の立案、マーケティングデータの分析、プログラミングの実装など、各社の専門性を活かしたプログラムが主流です。また、最近では大学生だけでなく、中高生を対象とした職場体験の受け入れも活発化しています。
商社であれば「貿易の仕組みを学ぶワークショップ」、IT企業であれば「生成AIを活用したWebサイト制作体験」など、年齢に応じた適切なレベルのプログラムを用意することで、業界の解像度を高めてもらおうとする動きが見られます。

仕事体験の機会を提供することは、学生にとっても自分の適性を判断する貴重な機会となります。企業にとっても、学生の価値観や行動特性、仕事への向き合い方を早期に把握できるため、採用におけるミスマッチの防止にもつながるでしょう。

キャリア教育の導入

学校の授業の一部、あるいは課外活動としてセミナーやワークショップ形式でキャリア教育プログラムを提供する取り組みも、企業によるキャリア形成支援の一つです。
内容は多様化しており、自己理解やキャリア設計をテーマにした講座に加え、金融リテラシー教育、社会課題解決型のプロジェクトなど、実務や社会と結びついたプログラムが増えています。

業界や実務への理解が深まりやすいキャリア教育は、学生にとって「学び」としての価値が高く、満足度が高い傾向にあります。企業にとっては、自社の専門性や強みを教育コンテンツとして提供することで、自然な形で企業理解を促進できます。

企業が学生のキャリア形成支援に取り組むメリット

ここでは、企業が学生のキャリア形成支援に取り組むメリットについて解説します。

業界や自社の認知が高まる

マイナビの調査結果によると、学生のキャリア教育に取り組むメリットとして、50.6%の企業が「自社や業界の魅力を早い段階で学生に知ってもらえる」と回答しています。続いて「学生の自社や業界への認知度が上がる(49.3%)」、「学生の自社や業界への理解度が上がる(44.7%)」が上位を占めています。

引用:株式会社マイナビ「マイナビ2027年卒 インターンシップ・キャリア形成支援活動に関する企業調査」

本調査結果より、就職活動が本格化する前の段階で学生と接点を持つことができ、ブランド認知が拡大することが企業にとって直接的なメリットになっていることが分かります。
また、早期から正しい情報を伝えることで、学生はインターネットや口コミの情報を鵜呑みにせず、実態に近い形で業界や企業を理解できます。副次的に業界イメージの誤解や偏見を是正する効果も期待できるでしょう。

加えて、低学年時からの認知形成は、将来的な採用母集団の質を高める場合があります。短期的な応募数増加だけでなく、中長期的なブランド構築の観点からも、キャリア形成支援は有効な施策といえるでしょう。

既存社員のエンゲージメントが向上する

学生向けのキャリア形成支援に社員が関わることで、既存社員のエンゲージメントが向上するケースもあります。学生に仕事や業界について説明する過程で、自身の業務内容や役割を改めて言語化する必要があり、最終的に仕事への理解や誇りの再認識につながります。
さらに、学生のフレッシュな感性や価値観に触れることは、既存社員にとって大きな刺激になることもあり、特に管理職になる前の若手・中堅社員がメンターを務めることで、コーチングスキルやリーダーシップの育成に寄与する場合もあります。また、学生の素朴な疑問や価値観に触れることで、自社の課題や改善点に気づくことも少なくありません。

学生と接した経験は、社員の成長意欲を高めるとともに、「自分たちの仕事が次世代の役に立っている」という実感を生み、組織全体のモチベーション向上につながります。結果として、離職率低下や組織活性化といった効果も期待できるでしょう。

CSR(企業の社会的責任)を達成できる

学生のキャリア形成支援は、企業が社会に果たすべき責任を具体的な形で示す取り組みの一つです。次世代を担う人材の育成に貢献することは、社会全体の持続的成長に直結するため、CSRの観点からも高く評価されるでしょう。

また、社会貢献を重視する姿勢は、消費者や顧客、教育機関に対しても「信頼できる企業」というイメージを与え、競合企業との差別化要因になります。このように、「学生を大切にする企業」という評価は、将来の応募数増加だけでなく、企業全体のレピュテーション向上にも寄与し、長期的な競争力の源泉となります。

企業が学生のキャリア形成支援に取り組むデメリット

本章では、企業が学生のキャリア形成支援に取り組むことで直面する可能性のあるデメリットについて解説します。

コスト・人的リソースの負荷がかかる

企業が学生のキャリア形成支援に取り組む際、コストおよび人的リソースの負荷が課題として挙がる場合があります。
キャリア教育プログラムの企画・設計には一定の工数がかかり、内容によっては教材作成や外部講師への依頼費用、会場費、システム利用料など、直接的な金銭コストも発生します。加えて、実施段階では人事担当者だけでなく、現場社員が登壇や指導を担うケースもあり、本来の業務と並行して対応する場合もあります。
特に中小企業では、学生のキャリア形成支援を担当する社員を専任で置くことが難しく、限られた人員で対応せざるを得ない状況も少なくありません。その結果、担当者の業務負荷が増大し、取り組み自体が継続しづらくなるリスクも考えられます。

こうした負担を軽減するためには、外部機関や教育機関との連携、オンラインツールの活用、既存コンテンツの再利用など、効率的な運営方法を検討することが重要です。自社のリソース状況を踏まえた現実的な設計を行うことで、無理のない継続的な運営が可能になるでしょう。

中長期的な取組が必要になる

認知度向上や信頼関係の構築といった効果は、継続的な接点を通じて徐々に蓄積されていくものであり、単発のイベントだけで十分な成果を得ることは難しいのが実情です。
そのため、キャリア形成支援を単年度の施策や一時的な採用広報として捉えてしまうと、途中で取り組みが頓挫してしまう恐れがあります。

活動を継続するには、中長期的な人材戦略や企業ブランド構築の一環として位置付けることが不可欠であり、認知度の推移や学生の満足度、ブランディングへの寄与度など、複数の指標を用いて長期的にモニタリングする忍耐強さが求められます。
計画段階で目的やKPIを明確にし、段階的に改善を重ねていく体制を整えることが、成功への鍵となるでしょう。

採用成果に直結するとは限らない

学生のキャリア形成支援に取り組んだからといって、参加者や接点を持った学生が必ずしも自社に応募し、最終的に入社するとは限りません。キャリア支援の本来の目的は学生の成長であり、その結果、学生が「自分には別の業界が向いている」と気づき、他社を選んでしまうことも往々にして起こり得ます。
そのため、短期的な採用成果のみを評価指標とすると、「期待した効果が得られなかった」と感じられてしまうでしょう。

しかし、支援を通じて得られる企業認知度の向上、好意的な企業イメージの醸成、学生や教育機関との信頼関係の構築といった効果は、数値化しにくいものの、長期的には採用力や企業価値の向上につながります。入社しなかった学生も、将来的に取引先の担当者になったり、口コミで自社を好意的に広めてくれたりする存在になることもあるでしょう。
キャリア形成支援を成果につなげるには、目先の採用数・内定数といった狭い枠組みだけで結果を判断せず、間接的な効果も含めて総合的に評価する視点を持つことが大切です。

まとめ

企業による学生のキャリア形成支援は、持続可能な組織を構築するための戦略的な施策へと進化しています。
事実、早期から学生と接点を持ち、成長を支援することで、認知度向上やミスマッチ防止、社員エンゲージメント向上、CSR達成といった多面的なメリットが期待できます。一方で、コストや継続性といった課題も存在するため、自社の目的やリソースに応じた設計が不可欠です。

しかし、キャリア支援を単なる『コスト』ではなく、『未来への投資』と捉え、自社のパーパスに基づいた誠実な支援を継続することができれば、企業価値を高める有効な施策となり得るでしょう。
ぜひ、本記事を参考に、学生へのキャリア教育について、自社に合った施策の検討を進めてみてはいかがでしょうか。

 

コラムを書いたライター紹介

日向妃香

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採用系コンサルタントとして企業の採用サポート・採用戦略構築・採用ノウハウの提供を行いながらライターとしても活動中。
得意分野は新卒採用とダイレクトリクルーティング。

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