【2025年最新版】最低賃金改定に備える!中小企業・ひとり人事が押さえるべき対応マニュアル

2025年10月から、全国の最低賃金が大幅に改定されます。2025年度は全都道府県で初めて時給1,000円を超え、全国加重平均は1,121円、引き上げ幅は過去最高の66円となる歴史的な改定です。人事担当者にとっては、給与計算や人件費管理、就業規則や契約書の更新、求人票の修正、採用計画への影響など、多岐にわたる対応が必要になります。
本記事では、最低賃金改定の概要や企業が取るべき具体的な対応策を整理し、実務ですぐに活用できる情報を解説します。
最低賃金の基礎知識
最低賃金とは、『最低賃金法』に基づき、使用者が労働者に対して必ず支払わなければならない賃金の最低額です。企業はこの基準を下回る賃金を支払うことはできません。
ここでは、最低賃金の適用範囲や種類、計算方法など、基本事項を整理して紹介します。
最低賃金が適用される労働者
最低賃金は、原則としてすべての労働者に適用されます。雇用形態(正社員・契約社員・パート・アルバイト・派遣社員など)の如何を問わず、外国人労働者であっても対象です。
ただし、一部の労働者については特例が認められており、以下のような労働者は最低賃金の適用外となります。
- 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い方
- 試用期間中の方
- 特定の職業訓練を受けており厚生労働省令で定める方
- 軽易な業務に従事する方
- 断続的労働に従事する方
この特例はあくまで許可を受けた場合のみ認められるため、基本的にはすべての労働者に最低賃金が適用されると考えておきましょう。
参考:厚生労働省|最低賃金の適用される労働者の範囲
「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の違い
最低賃金には、主に以下の2種類があります。
地域別最低賃金
都道府県ごとに設定され、すべての業種・職種に適用されます。勤務地がある都道府県の最低賃金が適用され、派遣労働者の場合は派遣先、リモートワークの場合は所属する事業所の都道府県の最低賃金が適用されます。
生活費や物価、地域経済の状況を考慮して設定されるため、東京都や大阪府などの都市部は高め、地方は比較的低めに設定される傾向があります。
特定(産業別)最低賃金
特定の産業や職種の労働者に適用されます。鉄鋼業、電子部品、自動車関連業、機械器具製造業などの製造業が中心で、地域別最低賃金よりも高く設定される場合があります。地域別最低賃金と特定最低賃金が重複する場合、より高い方が適用されます。
ただし、以下の労働者は特定最低賃金の適用外となります。
- 18歳未満又は65歳以上の方
- 採用後、一定期間未満で技能習得中の方
- その他、特有の軽易な業務に従事する方
最低賃金は国の法律で定められた絶対的な基準です。仮に最低賃金額より低い賃金を労働者と雇用主、双方合意の上で決定したとしても、法律によって無効となります。支給額が最低賃金を下回っていた場合、地域別最低賃金では50万円以下の罰金、特定最低賃金では30万円以下の罰金となるため、細心の注意を払いましょう。
最低賃金の対象と対象外の賃金
最低賃金は、毎月固定的に支払われる基本的な賃金が対象となります。具体的には、基本給、職務手当や役職手当などが該当します。
一方、以下のような賃金は最低賃金の対象外とされています。
- 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
- 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 所定労働時間を超える労働に対する賃金(時間外割増賃金など)
- 所定労働日以外の日の労働に対する賃金(休日割増賃金など)
- 深夜(午後10時〜午前5時)労働に対する賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
- 精皆勤手当、通勤手当、家族手当
参考:厚生労働省|最低賃金の対象となる賃金
計算を行う際は、実際に支払われている賃金の中から最低賃金の対象外の賃金を除外しなければなりません。なお、基本給に固定残業代が含まれる場合は、除外して基本給を時間給換算する必要があります。
最低賃金の計算方法
最低賃金の計算方法は、労働契約の形態によって異なります。最低賃金は「時間額」で定められているため、時給制以外の賃金形態(日給制、月給制、出来高払制など)の場合でも、1時間当たりの賃金に換算して、その金額が最低賃金以上であるかを確認する必要があります。
参考:厚生労働省|最低賃金のチェック方法
【2025年10月最新】全国の地域別最低賃金と発効日一覧
新しい最低賃金は、都道府県ごとに2025年10月1日から2026年3月31日までの期間に順次発効されます。以下は各都道府県の改定後の最低賃金額と、発効予定日の全国一覧表です。
発効予定日は異議申出状況などにより変更される可能性があるので、厚生労働省や各都道府県の公式情報を必ずチェックしましょう。事前にシミュレーションや給与計算を行い、従業員への周知を早めに実施することが重要です。
参考:厚生労働省|令和7年度地域別最低賃金の全国一覧
最低賃金改定が中小企業に与える影響と対策
最低賃金改定が中小企業に与える影響は、単純な人件費増加に留まらず、人材の確保、定着、既存従業員の士気など、さまざまな経営課題に影響を与えます。
ここでは具体的な影響とリスクを抑えるための実務的な対策を紹介します。
既存従業員のモチベーション低下と離職リスクの増加
最低賃金が大幅に引き上げられると、勤続年数の長いパート・アルバイト、非正規社員の賃金が新人の賃金や正社員の賃金に近づいたり、場合によっては逆転したりすることがあります。 これにより、既存の正社員や先輩従業員の間に不公平感や「努力が報われない」という感覚が生まれ、モチベーションや生産性の低下、離職につながるリスクがあります。
最低賃金対応と同時に、賃金カーブの調整や人事評価制度の見直し、昇給計画の策定により、既存社員の納得感と士気を維持することが重要です。
採用競争の激化と差別化の困難化
地方を含む全ての地域で時給のベースラインが引き上げられるため、単純な時給での差別化が困難になります。求職者は「時給の高さ」だけでは企業を選ばなくなり、 採用における競争力を維持・強化するためには給与以外の魅力、すなわち採用ブランディングの強化が採用競争力の決め手となります。
具体的には、研修制度、柔軟なシフト、キャリアパスの提示、福利厚生の充実など、賃金以外の価値の訴求が不可欠です。
「年収の壁」問題による人手不足の深刻化
扶養内で働く従業員が年収の上限を超えないよう、労働時間を自発的に短縮するリスクがあります。特に家事代行、スーパー、コールセンター、工場・倉庫など、パートやアルバイト比率の高い業種において、想定外の労働力減少と人手不足を招く可能性があります。
まずは扶養内で働く従業員の労働時間を把握すると共に、働き方の意向調査を実施し、どの程度の労働時間減少が見込まれるかをシュミレーションしましょう。既存従業員のシフト減少分を補うために、新たな労働力を確保する採用計画を早期に立てる必要があります。短時間勤務を希望する者をターゲットにした求人活動も有効でしょう。
また、助成金も活用できます。パート・アルバイトの方が手取り収入を減らさないための取り組み(社会保険適用促進手当の支給、賃上げによる基本給の増額など)を実施する企業に対し、労働者一人当たり最大50万円、または最大75万円の支援を行っています。
参考:厚生労働省|「年収の壁」への対応
中小企業に求められる具体的な対応と政府の支援
最低賃金の引き上げに対応し、中小企業が持続的に成長するためには、「生産性向上」と「政府支援の活用」が鍵となります。
ここでは具体的な対策や活用可能な助成金・補助金を整理し、実務で活かせる手順を解説します。
経営基盤の強化と生産性向上
人件費増加の原資を確保するため、中小企業は業務効率化や生産性向上に取り組むことが不可欠です。
設備投資とDX化
労務管理システム、POSレジシステムなどの導入により、作業効率や生産性を向上させます。これにより、同じ人員での業務量増加を抑制し、賃金上昇分の吸収が可能になります。
従業員のスキル向上
研修やセミナー、資格取得支援を通じて、従業員の業務効率や専門スキルを向上させます。スキル向上は生産性の底上げだけでなく、社員の定着率向上にも繋がります。
価格転嫁の推進
人件費増加分を、製品やサービスの価格に適切に反映します。営業部門と連携して、顧客への価格説明や値上げ交渉を計画的に進めることが重要です。
積極的な採用戦略の実行
競争が激化する採用市場で優位性を確保するため、最低賃金改定の前倒しといった、攻めの姿勢も重要です。正式な発効日を待たずに先行して新しい賃金体系を適用することで、他社に先んじて優秀な人材を確保できる可能性が高まります。また、「従業員の生活を考慮して自主的に対応する企業」というポジティブな企業イメージも発信し、採用競争力を高めます。
助成金・支援策の積極的な活用
最低賃金改定に伴う人件費増加への対応として、中小企業・小規模事業者向けの助成金・支援策を活用できます。
業務改善助成金
事業場内で最も低い賃金を一定額以上引き上げ、かつ生産性向上に資する設備投資などを行った際に、費用の一部を助成する制度です。賃上げの原資確保や、賃上げコストを利益に変える取り組みとして活用が推奨されています。最低賃金改定前日までに申請が必須なので、早めの計画が必要です。
参考:厚生労働省|業務改善助成金
キャリアアップ助成金
非正規雇用労働者の待遇改善やキャリアアップを目的とした助成金です。大きく分けて「正社員化」と「処遇改善」の2つの分野で複数のコースがあります。助成金の受給には、賃金規定などを増額改定する前日までに「キャリアアップ計画」を作成し、労働局へ提出する必要があります。
参考:厚生労働省|キャリアアップ助成金
ものづくり補助金
中小企業が生産性向上を目的とした革新的な取り組みを行うための設備投資やシステム導入を行う際に活用できる補助金です。製造業に限らず、商業・サービス業など幅広い業種が対象で、補助率・補助上限額は申請する枠によって異なります。
参考:ものづくり補助事業|ものづくり補助金
IT導入補助金
ものづくり補助金と同様に、業務効率化やDXなどに向けたITツールの導入を支援する補助金です。相談対応などのサポート費用やクラウドサービス利用料等も補助対象に含まれます。申請にあたっては、IT導入補助金事務局に登録された「IT導入支援事業者」とパートナーシップを組む必要があります。
参考:サービス等生産性向上IT導入支援事業|IT導入補助金概要
中小企業省力化投資補助金(一般型)
IoTやロボットなど人手不足解消に効果のある設備投資の費用を支援する補助金で、2025年に新設された制度です。企業の現場や事業内容に合わせた柔軟な設備投資に対応できます。他の補助金と比べて最低投資額のハードルが低いことが特徴で、補助上限額は最大1億円と高めに設定されています。
補助金を受け取るためには、労働生産性の年平均成長率を+4.0%以上増加させるなど、いくつかの要件を達成することが求められます。詳しくは公式サイトでチェックしましょう。
参考:独立行政法人中小企業基盤整備機構|中小企業省力化投資補助金(一般型)
働き方改革推進支援助成金(団体推進コース)
業種別の事業主団体などが、傘下企業の生産性向上と労働者の賃金引上げを支援するために支給されます。販路拡大のための市場調査、新たなビジネスモデルの開発など、取り組み内容に応じて助成金を受けられます。
参考:厚生労働省|働き方改革推進支援助成金(団体推進コース)
専門家による相談・支援事業
助成金だけでなく、無料の相談窓口も用意されています。『働き方改革推進支援センター』は全国47都道府県に設置されており、就業規則や賃金規程、助成金活用に関して社労士などの専門家にn無料相談ができます。最低賃金改定において、何から着手すべきか迷っている人事担当者は活用すると良いでしょう。
参考:厚生労働省|働き方改革推進支援センターのご案内
【シュミレーション】中小企業・ひとり人事が取るべき最低賃金改定対応の具体的なステップ
最低賃金改定への対応は、「法令遵守と影響把握」「戦略的な原資確保と賃金設計」「採用と定着に向けた実行」の大きく3つのフェーズに分けて進めることが重要です。各フェーズに沿った手順で実施することで、対応漏れやトラブルを防ぎ、スムーズな改定が可能です。
【フェーズ1】法令遵守と影響範囲の正確な把握
まずは法令違反のリスクを回避するため、自社の賃金体系が改定後の最低賃金を満たしているかを徹底的にチェックし、影響範囲を明確にしましょう。
①適用金額と発効日の確定
自社所在地の都道府県における、改定後の最低賃金額と発効予定年月日を確認しましょう。改定日は変更される可能性もあるため、厚生労働省や各都道府県の公式情報で随時確認しましょう。
②改定対象となる全従業員をリストアップ
パート、アルバイトはもちろん、契約社員、月給制の正社員を含む全従業員をリストアップします。勤務形態・地域別の最低賃金を照合し、対象者ごとの適用額を明確にしましょう。
③給与計算・月給換算のチェック
月給換算や給与計算の見直しを行います。週所定労働時間や月の労働日数を反映し、給与が最低賃金を下回らないか確認します。給与システムや計算式も更新し、差額がないか検証することが重要です。
【フェーズ2】戦略的な原資確保と賃金設計
法令遵守をクリアした後は、人件費増大を吸収し、社員の離職を防ぐための経営・人事戦略を策定します。
①人件費増加のシミュレーション
賃上げ対象者数や昇給額に基づき、総人件費の増加額を試算します。経営への影響を把握した上で、予算計画を調整します。
②賃金カーブの調整計画
勤続年数の長い従業員や正社員、新人との間で賃金が逆転するリスクをシミュレーションします。モチベーション低下を防ぐため、必要に応じて賃金カーブを調整します。
③生産性向上計画と助成金申請
人件費増加を補うため、業務効率化や設備投資による生産性向上を検討します。また、助成金や補助金の申請準備も同時に進め、資金確保を行います。
④各種助成金の申請準備
最低賃金の発効日の前日までに申請できるように準備しましょう。
⑤価格転嫁戦略の検討
人件費の増加分を適切にサービスや製品価格へ反映するため、経営層や営業部門と連携して価格調整を行います。
【フェーズ3】実行と採用・定着戦略の再構築
人事・労務担当者が改定後の賃金を従業員に適用し、採用・定着に向けた施策を実行します。
①求人票の見直し
すべての求人情報の時給額を、最低賃金以上に更新します。応募条件や給与条件が競合他社と乖離しないかも確認しましょう。時給競争に勝つため、求人原稿に研修制度、柔軟なシフト、福利厚生など、給与以外の魅力を盛り込みましょう。
②扶養内従業員の意向調査
年収103万円、130万円の「年収の壁」により、労働時間を短縮する可能性のある従業員の意向を把握します。事前調査で人手不足リスクを把握し、採用計画に反映します。
③法的文書の更新
賃金規定、就業規則、雇用契約書、労働条件通知書など、すべての法定文書を改定後の賃金体系に合わせて更新。従業員に周知可能な状態に整備します。
④社内説明・従業員への周知
改定内容を従業員へ適切に周知します。改定日や新しい給与額、影響する条件を明確に伝え、質問や疑問に対応できる体制を整えておきましょう。説明はメールや社内掲示、簡易マニュアルの配布など、複数の方法で行うと理解度が向上します。従業員への丁寧な説明は不満や誤解を防ぎ、信頼関係の維持にも繋がります。
まとめ:2025年最低賃金改定に向けた中小企業・ひとり人事の対応ポイント
2025年10月からの最低賃金改定は、全国平均1,121円という過去最大の引き上げ幅となり、中小企業・ひとり人事担当者にとって、人件費管理や採用戦略、従業員対応など幅広い影響が予想されます。漏れなくスムーズな改定のためには、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
<ポイント1:法令遵守を最優先に>
- 改定後の最低賃金額や発効日を確認し、全従業員の賃金が基準を下回らないかチェックする
- 時給換算・月給換算、固定残業代や諸手当を含めた計算を行い、隠れ割れを防止する
<ポイント2:戦略的な原資確保と賃金設計>
- 人件費増加の影響をシミュレーションし、既存社員との賃金逆転を回避
- 生産性向上施策や助成金活用による賃上げ原資の確保
- 価格転嫁などの経営戦略と連動させ、企業全体での負担を最小化
<ポイント3:採用・定着を見据えた実務対応>
- 求人票や契約書、就業規則を改定後の賃金体系に合わせて更新
- 従業員への周知・説明を徹底し、疑問や不満を解消
- 扶養内従業員の意向や労働時間の調整も含めた実務対応で、離職リスクを軽減
中小企業・ひとり人事が最低賃金改定に対応するには「法令遵守」「原資確保・賃金設計」「採用・定着対応」の3ステップを順序立てて実行することが成功の鍵です。早めの対応と戦略的な計画により、改定によるリスクを最小化し、従業員満足度や採用競争力の維持・向上につなげることができます。
コラムを書いたライター紹介

ウマい人事編集部
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