医療・福祉・介護業界における中途採用の動向と採用活動のポイントを解説
医療・福祉・介護業界は、他業界と比較して有効求人倍率が高い傾向にあるため、採用活動に苦戦を強いられている人事担当者は少なくありません。また、肌感覚で人手不足や採用難を感じているものの、市場や業界の動向を把握できておらず、適切な対処が取れていないケースもあるのではないでしょうか。
そこで今回は、医療や福祉、介護業界における中途採用の動向を解説すると共に、同業界の採用活動のポイントを解説します。
■医療・福祉・介護業界における有効求人倍率
厚生労働省のデータによると、介護関係職種の平成31年度の有効求人倍率は、同年の全職種平均2.5%と比較して、4.36%と高い水準を示しています。
引用:介護分野における人材確保の状況と労働市場の動向(厚生労働省)
また、株式会社マイナビが一般職業紹介状況(職業安定業務統計)をもとに作成したデータによると、介護に限らず医療や福祉専門職の有効求人倍率も高い水準で推移しており、他職種と比較して採用競争が激化している様子がうかがえます。
引用:【医療・福祉・介護業界】の転職市場を最新調査から考える―業界別に転職市場を徹底分析―(株式会社マイナビ)
都道府県別の有効求人倍率(平成31年1月)
介護業界の有効求人倍率を都道府県別にみると、エリアによって顕著な違いが表れています。
引用:介護分野における人材確保の状況と労働市場の動向(厚生労働省)
本調査データは介護職に限る有効求人倍率になりますが、東京(7.27%)や愛知県(6.56%)など高い割合を示すエリアがある一方で、高知県(2.34%)や大分県(2.47%)は、東京や愛知県と比較して半分以下の水準でした。
高齢者人口の割合や高齢者の増加速度が有効求人倍率に影響を与えていることから、介護職に限らず医療・福祉の有効求人倍率は、介護職とほぼ同様の傾向を示すと考えられます。そのため、医療や介護関連の職種採用に取り組む際は、エリアの特性や動向も把握しておく必要があるでしょう。
医療・福祉・介護業界の中途採用実施率
株式会社マイナビが実施した「2024年9月度 中途採用・転職活動の定点調査」によると、医療・福祉・介護業界の中途採用実施率は、47.3%と他の業界と比較して高い数値を示しています。
引用:2024年9月度 中途採用・転職活動の定点調査(株式会社マイナビ)
さらに、株式会社マイナビの「マイナビキャリアリサーチLab医療・福祉レポート」には、医療・福祉業界の求人件数が一貫して上昇している旨が記載されており、2018年の掲載数を100%とすると、2024年3月における掲載件数は121.1%となりました。
引用:マイナビキャリアリサーチLab医療・福祉レポート(株式会社マイナビ)
2つの調査結果より、医療・福祉・介護業界に属する多くの企業・施設が中途採用に取り組んでいることがわかります。そのため、中途採用に取り組む企業や施設は、採用競合に負けないよう、より戦略的かつ計画的に採用活動に取り組む必要があると言えるでしょう。
医療・福祉・介護業界における採用活動のポイント
他の業界と比較して人材獲得競争が激化している医療・福祉・介護業界では、戦略的かつポイントを押さえた採用活動に努めなければなりません。
そこで本章では、医療・福祉・介護業界における採用活動のポイントを解説します。
未経験人材の採用に注力する
医療・福祉・介護業界は、他業界と比較して未経験者を採用する割合が高く、多くの企業や施設が未経験者の受け入れに積極的な姿勢を示しています。
引用:【医療・福祉・介護業界】の転職市場を最新調査から考える―業界別に転職市場を徹底分析―(株式会社マイナビ)
しかし、医療・福祉・介護業界において未経験者の採用は既に定着しており、未経験者であっても採用が難しいと感じる人事担当者も少なくないでしょう。未経験者採用に取り組む際は、長期間の研修や国家資格取得支援など、未経験者が医療・福祉・介護業界に挑戦しやすい環境を整えることが大切です。
また、医療・福祉・介護業界では、「採用した人材が早期退職する」「求職者の質が低い」といった課題を抱える企業・施設が他の業界と比較して多い傾向がみられます。人手不足故に人材を十分に見極めないまま採用に至ることがないよう、留意する必要があるでしょう。
引用:【医療・福祉・介護業界】の転職市場を最新調査から考える―業界別に転職市場を徹底分析―(株式会社マイナビ)
採用選考においては、「なぜ未経験業界である医療・福祉・介護業界に転職を希望するのか」「入社後どのような活躍がしたいのか」など、医療・福祉・介護業界に挑戦する動機や新たな業界でどのようなキャリアビジョンを描きたいのかを深掘り、応募者の意欲やポテンシャルを見定めることが大切です。
求人情報には医療・福祉・介護業界で働く人材の興味を喚起するキーワードを使用する
株式会社マイナビが実施した調査によると、医療・福祉・介護業界で働く人材は、「興味のある分野の仕事をする」「さまざまな専門知識を習得できる」「社会との関わりを持つ/社会に貢献する」などにやりがいを感じると回答しています。
引用:【医療・福祉・介護業界】の転職市場を最新調査から考える―業界別に転職市場を徹底分析―(株式会社マイナビ)
また、「求人情報にある言葉で応募意欲が上がるもの」について問う設問では、全体と比較して「アットホームな職場」「副業可能」と回答した求職者の割合が高く、他の業界と比較して職場の雰囲気を重視する傾向があります。
引用:【医療・福祉・介護業界】の転職市場を最新調査から考える―業界別に転職市場を徹底分析―(株式会社マイナビ)
2つの調査結果より、求人情報や企業の採用ページなどには「医療・福祉・介護」「社会貢献」「自己成長」などのキーワードを意識的に盛り込んだり、職場の様子がわかる写真や動画、社員インタビューを記載したりするなど、医療・福祉・介護業界への転職を希望する人材の興味を喚起できる工夫を意識することがポイントです。
給与の改定を検討する
採用難や賃金引上げの機運の高まりなどを背景に、給与額を見直す企業・施設も少なくありません。
株式会社マイナビのデータによると、医療・福祉業界の平均初年度年収は、経験の有無を問わず緩やかに増加しており、2018年平均の367,6万円と比較して2024年3月は399,8万円と、32,2万円も増額していました。
引用:マイナビキャリアリサーチLab医療・福祉レポート(株式会社マイナビ)
トライトグループが実施した「介護・看護・保育職の給与実態調査」では、給与に対して不満を感じる理由の中でも「同業種の給与水準から見て適正以下だから」という回答が3位に位置しています。
本調査結果から、業務量や労働時間はもちろんですが、同業界の給与水準もしっかり把握した上で採用につながる給与額を設定することが大切です。
働きやすい環境づくりに努める
現場での業務が中心となる医療・福祉・介護業界では、働きやすい環境づくりに努めることも重要です。特に医療・福祉・介護業界は女性の割合が高く、女性のライフイベントやライフワークを考慮した労働環境の構築が求められます。
引用:【医療・福祉・介護業界】の転職市場を最新調査から考える―業界別に転職市場を徹底分析―(株式会社マイナビ)
具体的な取り組み例としては、次のような例が挙げられます。
- 子育てや介護などを理由とする転勤への配慮
- 産前・産後休業や育児休業中の情報提供
- 妊娠中、産前・産後休業や育児休業からの復帰後の社員が相談できる窓口の設置
- 有給休暇取得を推進する取り組み
- 事業所内託児所の設置やベビーシッターなどの育児支援の利用補助
- 育児休業からの復職者を対象とした能力開発やキャリア形成支援
- 管理職に対する仕事と子育ての両立に関する意識啓発
- 育児短時間勤務制度の導入 など
働きやすい環境が整うことで、採用力が向上し、採用活動を有利に進められる可能性が高まります。また、既存社員の定着率の向上も期待できるでしょう。
外国人材の受け入れ
慢性的な人手不足に悩む医療・福祉・介護業界においては、外国人材の受け入れも有効な施策の1つになる可能性があります。
介護福祉士国家資格を有する在留資格「介護」の外国人介護職員の数は年々増加傾向にあり、今後も継続して増加すると考えられます。同時に、積極的に外国人介護職員の採用に取り組む企業や施設も増えてくるでしょう。
引用:外国人介護職員 活躍のためのガイドブック(公益社団法人日本介護福祉会)
国が実施している「第7期介護保険事業計画」においても、外国人材の受け入れは、主要な対策の1つとして推進されており、外国人材を受け入れる企業・施設に対しては環境整備等にかかる費用の一部を助成するなどの支援が提供されています。
高齢化が進む日本では、今後も医療・福祉・介護業界の人手不足は継続することが見込まれます。そのため、今のうちから外国人材を受け入れる体制を整えておくことも視野に入れておきましょう。
【外国人介護人材を受け入れるための支援一例】
- コミュニケーション支援
・介護業務に必要な多言語翻訳機の導入にかかる経費の一部を助成
・多文化理解など外国人職員と円滑に働くための知識を習得するための講習会への参加等にかかる経費の一部を助成 - 資格取得支援
・介護福祉士資格取得を目指す外国人介護職員に対する学習支援にかかる経費の一部を助成
・外国人介護職員の生活支援、メンタルヘルスケアにかかる経費の一部を助成 など - 教員の質の向上支援
・留学生に適切な教育・指導を行うための教員の質の向上に資する研修等にかかる経費の一部を助成
参考:令和3年度外国人介護人材受入環境整備事業(厚生労働省)
参考:「第7期介護保険事業計画」総合的な介護人材確保対策(厚生労働省)
まとめ
医療・福祉・介護業界は、慢性的な人手不足状態が続いており、中途採用市場では採用競争が激化しています。
人材の採用に取り組む企業は、業界動向はもちろん、地域の動向や求職者の意向も把握した上で、適切な対策を講じる必要があるでしょう。状況に応じて未経験者を積極的に採用する、採用競合の給与水準をリサーチして自社の給与額の改定を検討する、社内環境を整備するなどの取り組みに着手しましょう。また、外国人材の受け入れを検討するのも1つの方法です。
ぜひ本記事を参考に、今後の採用活動の取り組み方を検討してみてください。
コラムを書いたライター紹介
日向妃香
得意分野は新卒採用とダイレクトリクルーティング。
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