専門職採用で社内を活性化!【第3回:戦略人事】


昨今、サステナビリティ重視の経営環境が急速に進展しているため、企業が「戦略人事」に注目しています。

この概念が広く世間に認知されるようになってきてはいますが、言葉の定義を明確に理解していない場合もあります。実際に導入にあたっては、その本質と機能を十分理解した上で実施することが重要です。

また、戦略人事を担える専門職はまだまだ新しいポジションであるため、経験者がそれほど採用市場には多くないのが現状です。そのため、戦略人事担当社員を自社で採用し、育成しようとする企業が増えています。

そこで本コラムでは、戦略人事の概要、自社で専門職採用・育成する場合のメリット、注意すべきポイントについて解説します。

戦略人事とは?

戦略人事とは、「戦略的人的資源管理論(Strategic Human Resource Management)」のことで、1980年代以降、経営学の分野で進化し、幅広い議論が展開されるようになりました。

戦略的人的資源管理は、ある企業が所有する重要な経営資源「ヒト・モノ・カネ・情報」について、特に「ヒト」に注目して積極的に管理することを指します。つまり、経営資源の1つである「ヒト」をどのように活用し、その価値を最大化させるかを考えることを意味します。

この考え方が日本企業に浸透するにつれ、「人事部門は戦略的パートナーであり、ビジネスアドバイザーとして役割を果たすべき」という論調が浸透してきました。

次に、戦略人事を担う人材のことを、HRBP(Human Resource Business Partner)といいます。HRBPは、企業において人事戦略の構築に至るまで、経営の観点から専門的に支援する新たな人事プロフェッショナルの役職です。

アメリカの大企業において広く導入され、日本国内でもサントリーや日立製作所、ヤフー等企業が「ヒューマンリソースビジネスパートナー(HRBP)」の導入を開始しました。

従来の人事部門担当職員が単なる人事部門の運営業務を担うだけではなく、企業の目標、志向性並びにストラテジーを鑑みつつ、経営幹部と共に戦略的に協働し、推進していくことが期待されます。

したがって、今後の戦略人事担当者は、経営層から重要な「戦略的なパートナー」として求められることとなります。

戦略人事と人事戦略の違い

従来の人事部の目的は業務の効率化にありますが、一方で戦略人事の目的は企業のビジネス成果に貢献できる人材のマネジメントの最適化です。

戦略人事という言葉が一般的になる前から、人材に関する業務を担当する部門として人事部門が存在していました。現在、多くの企業で人事部が必須となっていますが、従来の人事部が担当する業務と戦略人事は、その目的に差異があります。

人事戦略という言葉は、戦略人事に類似する言葉で、人材のマネジメントに対する方向性を決定することで、主に人事に関する業務を改善・改革するための方法を指します。

例えば、採用方法の改善や優秀な人材の確保など、人材不足を緩和するための新しい戦略を開発することが含まれます。また、業務効率化のために外部委託や業務改革も人事戦略として重要です。

戦略人事担当者を専門職採用・育成するメリット

戦略人事を担当した経験者はまだ少なく、中途採用で経験者を確保することは難しい状況にあります。可能であれば、自社のビジネス領域や業界に精通した人材を専門職として採用・育成するのが良いでしょう。

いくつかの同業他社で働いた経験や同業界で長く人事担当を経験している候補者は戦略人事担当者として十分なポテンシャルを持っている可能性があるため、こういった人材を採用市場からピックアップする必要があります。

例えば、ある企業が急激な成長を遂げ、攻めの経営を進めているとします。

このような状況下では、営業部や開発部など攻撃的な能力を発揮できる「オフェンス型の人材」が重要視され、人事政策に取り入れられることが多い傾向があります。しかしながら、企業が十分な成熟期を迎えると、総務部や財務部など、管理部門の人材が手薄にならないようにすることが求められます。

そこで、戦略人事担当者の配置が大きなメリットを発揮するのです。なぜなら、「戦略人事担当者」は、経営戦略と人材マネジメントについて精通し、決定権をもっているため、瞬時に経営状況に応じた人材配置を実現できるためです。

一般的な人事では、経営戦略と人材配置に一定のタイムラグが生じることがあり、スピード感が失われる場合があります。しかし、「戦略人事担当者」がこの部分の決定権を荷繰ることで、そのようなリスクを回避できます。

したがって、「戦略人事」の導入は、スピード感の重要性が高い経営に特に向いていると言えるでしょう。

戦略人事を採用・育成する人事担当者が意識すべきポイント

戦略人事担当者を採用・育成するためには、人事部は今後、後方支援に固執せず、戦略づくりから主体的に関与するよう心掛ける必要があります。

ビジネスパートナーとしてCEOや事業部長と共にビジネスプランを立案し、企業理念を全社員に浸透させる役割が早期から求められます。

そのためには、早期の人材育成の観点から、事業部横断的な視点でのアドバイスが出せるようなポジションへの配置・環境作りが人事担当者には求められます。

戦略人事を専門職採用して、スピード感のある経営戦略を最適化しよう

戦略人事の仕事は、ビジネスにおいての競争力を維持するためには不可欠です。不透明な時代を迎えている各企業にとっては、その存在価値が一層高まっています。

今後は、貴重な経営資源である人材を戦略的な目標に基づいて活用し、経営戦略をスピードアップし、最適化するための戦略人事の重要性が求められるでしょう。

本コラムを参考に、専門職としての「戦略人事」担当者を早期に採用・育成し、自社ビジネスにおける経営戦略の最適化を目指してはいかがでしょうか。

コラムを書いたライター紹介

真南風文藝工房

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編集者・ライター・サイエンスコミュニケーター・工学修士(航空宇宙学)
自動車メーカーでの先行開発エンジニアを経験した後、理系教科書編集(高校数学・中学校理科教科書編集)職に転向。近年は、サイエンスライティングに加え、理系・元エンジニアとしての経験を活かし、大学院生向け就職活動サイトコラム執筆・AI関連企業広報ライティングなど、幅広い分野での執筆活動に取り組んでいる。

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