【9割の企業が「課題あり」と回答】OJT研修の課題と解決に導く取り組み方法について
多くの企業が若手・新人育成のために実施しているOJT研修。
厚生労働省の「能力開発基本調査(令和2年度)」からも、計画的なOJT研修(正社員向け)を実施した事業所は56.9%と、半数以上の企業がOJT研修を導入していることがわかります。
しかし一方で、OJT研修に対して様々な課題を抱えている企業は少なくありません。実際にOJT研修の効果が見えず、実施する意味があるのか?と悩む人事担当者も少なくないでしょう。
そこで本記事では、OJT研修を行う目的をはじめ、OJT研修における課題と解決策をお伝えします。
- OJT研修の効果を感じられない
- 他企業のOJT研修課題・解決策を知りたい
- 有効的なOJT研修を実施する方法を学びたい
上記に該当する人事担当者は、ぜひご一読ください。
OJT研修の目的
まずはOJT研修とはどんな研修なのか、OJT研修を行う目的と共にお伝えします。
OJT研修とは?
OJTとは「On the Job Training」の略語です。
OJT研修の受講者は、その業務を行うにあたり知識が無い新人、つまり業務未経験者となります。スムーズに業務が開始できるよう、業務上必要になる知識やスキルを『実務』を通じて指導する教育法です。
最近浸透し始めた比較的新しい指導法と思われている方も多いですが、OJT研修の歴史は古く第一次世界大戦中にアメリカで考案されたと言われています。日本では、戦後の高度経済成長の最中に導入が始まりました。
OJT研修の目的
OJT研修を実施する目的は、大きく次の3つが挙げられます。
- 入社直後の業務効率向上
- 不安払拭
- 定着率向上
入社直後の業務効率向上
先述の通り、OJT研修は実務を遂行しながら指導を行います。
机上の指導で終わらず、実務上でPDCAサイクルを回せるため、短期間で業務戦力となる人材を育てることができます。
不安払拭
環境・業務不安の払拭も、OJT研修を実施する目的の1つに含まれています。
OJT研修の指導者がメンバーと新人との懸け橋となることで、新人が組織に馴染みやすくなります。
またOJT研修を通じて新人とのコミュニケーション機会が生まれ、些細な不安や疑問も早期に解決できます。この点においては成長停滞を防ぎ、習熟を早める効果も期待できます。
定着率向上
OJT研修では、研修を通じてある程度の知識や業務遂行の方法を学んでいるため、新人でも貢献できるシーンや場が得られます。そのため、自分の存在意義が明確になり、結果的に職場・組織の定着率アップにも繋がります。
OJT研修の主な課題は『指導者側』
若手の育成において多面的な効果が期待できるOJT研修ですが、多くの企業はOJT研修に対してどのような課題を抱いているのでしょうか。
株式会社日本能率協会マネジメントセンターが実施した「新人・若手社員のOJTに関するアンケート(2022年7月実施)」によると、9割もの企業がOJT研修に課題を感じていることが分かりました。
参照元:株式会社日本能率協会マネジメントセンター「新人・若手社員のOJTに関するアンケート」プレスリリース
また、『OJT研修に対してどのような課題を感じているのか』を問う設問においては、下記結果となりました。
TOP.1 指導側に余裕(時間)がない:64.7%
TOP.2 指導にバラツキがある:63.6%
TOP.3 指導側の意識や能力が不足している:42.0%
上記の通りOJT研修の中で挙がる課題は、主に『指導者側』の能力やOJT研修の目的理解の欠如でした。
また指導者に関する課題と共に、下記回答結果からは組織自体がOJT研修の有効性を高める場になっていないことも伺えます。
TOP.4 職場内に育てる文化が根付いていない:39.9%
TOP.5 仕組みやツールが整備されていない:33.8%
多くの企業のOJT研修現場では、指導者や現場に一任されてしまっている状態や制度が整っていない中で場当たり的にOJT研修が遂行されている実情が浮き彫りになりました。
参考:株式会社日本能率協会マネジメントセンター「新人・若手社員のOJTに関するアンケート」プレスリリース
指導者側の課題解決に導く3つの取り組み
先述のデータより、OJT研修課題の多くは指導者側に起因するものであることをお分かり頂けたかと思います。もちろんOJT研修に課題を持つ全ての企業が該当するわけではありません。しかし課題の大小はあるものの、似通った状態である企業も多いかと思います。
では現状のOJT研修課題を解決し、より精度の高い有益なOJT研修にするためにはどうすべきなのでしょうか。
本項目では、課題解決に導く3つの取り組みをご紹介します。
OJT研修のマニュアル化
OJT研修の課題に『指導のバラツキ』が挙げられます。
同じような経験値を持つ新人でも、指導者によってOJT研修の成果に大きな違いが生じます。とはいえ、OJT研修を実施できる人員・人材に限りがある企業も多いかと思います。
そのためOJT研修で成果を均一にするためには、研修のマニュアル化が必要です。
マニュアルを作成することで、伝え忘れや伝え方の違いなどの発生を最小限に留めることができるでしょう。OJT研修にかける時間も、指導者による大きなバラつきを軽減できます。
またマニュアル制作においては実際の指導者の声を反映することで、どこまでの業務をOJT研修に盛り込むのかを取捨選択できます。
その結果、OJT導入に向いていない業務や指導者の負担になる業務をOJT研修から切り離すことができます。
さらにOJT研修にかかる時間・期間・成果が可視化されるため、指導者間でOJT研修実施の目的が統一できる効果も期待できるでしょう。
OJT研修実施に向けたフォロー体制の構築
職場全体でOJT研修をフォローする体制の構築も欠かせません。
現状、多くの企業ではOJT研修を現場や指導者に一任してしまっています。
そのためOJT研修では、指導者が忙しく新人指導が後回しになってしまうシーンが散見されます。場合によっては新人が放置され、成長・知識吸収が阻害されてしまうケースもあります。
このような事態を避けるためにも、OJT研修では1人の指導者に負担を強いるのではなく、OJT研修の役割を組織やチームで振り分ける、副指導者を置くなどフォロー体制を工夫することがポイントです。
組織やチームでOJT研修に取り組むことで、在籍メンバー全員で新人を教育・育成する意識が芽生えます。しっかり定着できれば、自然とメンバーが一体となり新人教育・育成に取り組む組織をつくり上げることができるでしょう。
さらに新人にとっても多角的なフォロー・教育機会が与えられるため、質の高い結果や成果も得られる可能性が高まります。
OJT研修の結果を新人含め関係者で共有し、フィードバックデータを蓄積していく
「OJT研修の結果を知らない…」という組織上長・人事担当者も少なくないのではないでしょうか。
せっかく指導者が細かく研修の結果を残してくれていたとしても、結果を次に活かせなければOJT研修はその場限りになってしまいます。
OJT研修の結果を関係者間で共有することで、次の育成効率や質の向上に役立つでしょう。またフィードバックデータを蓄積していくことで、新人ができるようになったこと・課題として残っていることが明確になります。新人本人にとっても改善点が明確になり、自己成長に繋げることができるでしょう。
また新人にとって自分をきちんと評価し育成に注力してくれる人物の存在は、大きなモチベーションにもなります。周囲からの助言を肯定的にとらえ業務にも積極的な姿勢となり、組織への愛着心向上にも繋がるなどエンゲージメントを高める効果も期待できます。
上記でご紹介した通り『指導者側の課題』を解決するためには、組織全体で遂行できる『仕組み作り』が肝要です。
指導者はもちろん、組織全員がOJT研修の主役となりOJT研修の目的・意義理解を深めることで、指導者の負担が軽減され副効果も得られます。
またOJT研修を実施する上で、指導者側にも明確なルールや制度を設けてみるのも1つの手です。OJT研修に感じる課題も徐々に解消されていくことでしょう。
OJT研修の課題まとめ
多くの企業が初期研修の1つとして導入するOJT研修。
しかし導入企業の9割がOJT研修に対し課題を抱えており、本来の効果を得られていない実態が伺えます。
場当たり的かつ指導者の負担が大きいOJT研修から脱却するためには、自社の課題を洗い出すことが先決です。
OJT研修の目的と自社の課題に沿って、OJT研修の方法を工夫するだけで大きな変化・効果が得られます。
本記事では、指導者側の課題に焦点を当て、次の3つの取り組みをご紹介しました。
- OJT研修のマニュアル化
- OJT研修実施に向けたフォロー体制の構築
- OJT研修の結果を新人含め関係者で共有し、フィードバックデータを蓄積していく
どの取り組みも決して難しいものではありません。
導入できる取り組みから、まずは小規模で推進してみてはいかがでしょうか。
OJT研修の在り方を変えるだけで、派遣社員やアルバイトなど様々な雇用形態にも応用が可能です。
OJT研修の課題と向き合うことで本来期待できる効果が得られるだけではなく、組織力や新人のエンゲージメント向上、人材育成課題解消にも寄与することでしょう。
コラムを書いたライター紹介
日向妃香
得意分野は新卒採用とダイレクトリクルーティング。
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