転職ファストパスとは?メリットと導入事例から学ぶポイントを解説


近年、企業の採用活動において「転職ファストパス」という新しい仕組みが注目を集めています。転職ファストパスは、新卒時の内定辞退者に対して、将来の中途採用への応募時に選考の一部を免除する制度を指し、人材獲得競争が激化している昨今においては、導入する企業が増えつつあります。

そこで本記事では、転職ファストパスの概要から導入メリットや注意点などについて解説します。

転職ファストパスとは?

「転職ファストパス」とは、新卒採用の内定辞退者もしくは企業が定める基準を満たした応募者に対して、将来的に転職するにあたって自社の中途採用を希望する際に、選考過程の一部を免除する制度のことを指します。
例としては、面接の回数を減らす、書類選考を免除するなどの特典が挙げられ、新卒採用時の内定辞退者が再び自社を選択する可能性を高め、採用機会の損失を防ぐ施策として注目されています。

転職ファストパスに対してメリットを感じている学生も多く、レバレジーズ株式会社が実施した「2025年卒の内定承諾・辞退に関する実態調査」では、新卒で内定辞退した経験がある学生のうち約6割が転職ファストパス利用に意欲を示していることがわかりました。

引用:レバレジーズ株式会社「2025年卒の内定承諾・辞退に関する実態調査」

近年、転職を前提にしたキャリア選択を行う学生は増加傾向にあり、転職ファストパスは、学生にとってキャリアの選択肢となる有効な施策になると期待できるでしょう。

転職ファストパスと導入する企業側のメリット

ここでは、転職ファストパスを導入することで得られる企業のメリットについて解説します。

採用コストの削減と効率化

転職ファストパスを導入するメリットの一つに、採用コストの削減と効率化が挙げられます。通常の選考プロセスは、多数の応募者の書類選考や複数回の面接など、多くの時間と労力を要します。
その点、転職ファストパスの対象となる応募者は、新卒採用時に一定のスクリーニングをクリアしています。初期フェーズの選考プロセスを短縮できるため、人事担当者の負担を軽減し、広告費や選考にかかる人件費などのコストを抑えられるでしょう。

また、迅速な採用活動は、人員不足による業務への影響を最小限に抑え、組織全体の生産性向上にもつながります。

採用機会損失の防止

通常、内定を辞退した人材は自社に再応募するケースはほぼありません。しかし、転職ファストパスの導入により、内定辞退者が再び応募しやすい環境を提供することが可能になり、新卒採用で採用に至らなかった優秀な人材を再び獲得できるチャンスを得られるようになります。

特に、ブランド力に乏しい中小企業や専門性の高い職種では、即戦力となる人材の確保が難しい場合があります。転職ファストパスは、将来的な人材確保の選択肢を広げ、企業の成長を後押ししてくれるでしょう。

ミスマッチの低減と定着率の向上

転職ファストパスは、単に採用までのスピードを速めるだけでなく、ミスマッチの低減と定着率の向上にも寄与します。
転職ファストパスを利用する求職者は、新卒採用時に企業の選考を受けているため、これまで接点がなかった応募者と比較して企業文化や事業内容への理解が深い傾向があります。
そのため、入社後のミスマッチを限りなく低減し、定着率の向上にもつながることが期待できます。

また、企業側も求職者のスキルや適性を把握できている場合が多く、適切な配置を実現しやすくなります。結果として、企業と求職者双方にとってより良いマッチングが叶い、長期的な視点で人材定着を実現できるでしょう。

企業ブランドイメージの向上

転職ファストパスは、求職者に対して柔軟で開かれた企業姿勢を示す際にも有効です。キャリアの多様性や職業選択の自由を尊重し、再挑戦の機会を提供する企業は魅力的な企業として認知され、企業のブランドイメージ向上にもつながるでしょう。

ブランドイメージの向上は、採用活動だけに限らず、事業の成長にも良い影響をもたらす可能性が期待できます。

事例から学ぶ転職ファストパス導入のポイント

ここでは、実際に転職ファストパスを導入している企業の実例を紹介します。

千葉興業銀行

千葉興業銀行は25年卒の新卒採用から、内定辞退者が社会人3年以内を目処に自社への転職を希望する場合、通常複数回行う面接を1回にする制度を導入しました。

同社の人材開発室長は「地元で働きたいと考えた時に転職先の選択肢に入れてほしい」と狙いを述べています。

本事例より、地域に根差した企業が地元出身の優秀な人材をUターン採用する際、転職ファストパスが有効な手段の一つになる可能性が期待できるといえるでしょう。

三井住友海上火災保険

三井住友海上火災保険は21~23年度卒の新卒採用において「MSファストパス制度」と呼ばれる転職ファストパス制度を導入しました。
本制度は、最終面接を通過し一定条件を満たしたものの他社に入社した学生が3年以内にキャリア採用へ応募する場合を条件に、最終面接から選考を受けられる待遇が適応されます。

同社の人事部採用チーム課長は「他社の文化に触れたり、異なる仕事を経験したりした人材は、事業革新につながると期待できる」と語り、多様な経験を持つ人材を積極的に採用する上で、転職ファストパスが効果を発揮する可能性がある旨を示唆しています。

転職ファストパスと導入する際に留意するべきポイント

本章では、転職ファストパスの導入効果を最大化するために留意したいポイントを解説します。

転職ファストパスの目的・要件を具体化する

転職ファストパスを導入する際は、まず目的と要件を具体化しましょう。
目的を定める際は、どのような人材を中途採用で取り込みたいのかを明確にします。これにより、闇雲に転職ファストパスが適応される事態を防ぎ、自社の転職ファストパスの価値を維持できます。

また、転職ファストパスを付与する対象学生の要件を定める際は、選考免除の範囲や利用期間などを具体的に定めましょう。対象者を明確にすることで、制度の意図しない拡大や、本来の目的から逸脱した運用を防ぐことができます。

目的と要件を曖昧にしたまま導入すると、選考の公平性を損なったり、採用基準の低下を招いたりする恐れがあります。また、要件を明確にすることで、社内外からの疑問や不満を解消し、制度の透明性を高められるでしょう。

転職ファストパスを付与した内定辞退者と継続的な関係を構築する

転職ファストパスを効果的に活用するには、内定辞退者との継続的な関係構築が欠かせません。企業側が内定辞退者と適切に連絡を取り続けることで、求職者は企業への関心を維持し、将来的な転職意欲を高めることにつながります。

具体的には、内定辞退後も企業のイベントやセミナーに招待する、メールマガジンで最新の企業情報を提供するなど、定期的なコンタクトを図ることを意識しましょう。
継続的な関係を維持することで、企業は内定辞退者に対して歓迎姿勢を示すことができ、転職ファストパスを利用する際の心理的ハードルを低減できます。

採用ブランディングを強化する

転職ファストパスを導入する際、採用ブランディングの強化も重要です。内定辞退者に対して企業の魅力を再認識させることができれば、転職ファストパスの利用を促進できるでしょう。

SNSや企業ホームページを活用して、ポジティブな企業文化や魅力的な職場環境をアピールするのも一つの方法です。また転職ファストパスに焦点を当てるのであれば、実際にファストパスを通じて入社した社員のインタビューを自社の採用ページに掲示するのも良いでしょう。

転職ファストパスの利用イメージを描きやすくなり、転職する際の候補として選ばれる可能性を高めらます。

転職ファストパス導入におけるよくある失敗例と対策

本章では、導入前に把握しておきたい、転職ファストパス導入におけるよくある失敗例と対策を紹介します。
失敗事例とその対策を事前に把握しておくことで、より効果的な運用が可能となるでしょう。

転職ファストパスは、特定の内定辞退者に対して特別な待遇を提供する制度であるため、適用基準や要件が不明確であったり、一部のルートからの応募者のみが優遇されているように見えたりすると、他の応募者から不公平感を抱かれる懸念があります。
さらに転職ファストパスの目的や意義を適切に説明できない場合、企業の採用方針への信頼が損なわれる恐れがあります。特に、公平性を欠いた運用や選考基準が不明瞭な場合、誤解を招きやすくなり、企業イメージが低下することも起こり得てしまうでしょう。
加えて、既存社員から不満の声が上がる可能性もゼロではありません。特に、中途採用の選考基準が異なる場合や転職ファストパス利用者が優遇されていると感じた場合、既存社員のモチベーション低下や不公平感につながる恐れがあります。

転職ファストパスを導入する際は、適用基準を明確化し、可能な限り透明性を高めましょう。また、企業イメージの低下を防止するには、単なる選考の簡略化ではなく、「優秀な人材を迅速に迎え入れるための戦略的な取り組みである」というメッセージを明確に伝えることが大切です。さらに、転職ファストパスの目的やメリットを社内全体に対して丁寧に説明し、既存社員からの理解を得ることも意識しましょう。

まとめ

「転職ファストパス」は、優秀な人材の採用機会損失を防ぐ有効な戦略の一つです。他にも採用コストの削減や効率化、ミスマッチの低減、企業ブランドイメージの向上など、導入することでさまざまなメリットを得られるでしょう。

しかし、転職ファストパスの導入効果を高めるには、自社の採用戦略や人材ニーズに合わせて、対象者や選考免除の範囲を明確にすることが大切です。また、転職ファストパスを付与した選考辞退者との継続的な関係構築や、採用ブランディングの強化も、導入効果を高める上で欠かせません。

転職ファストパスの導入を検討している企業は、本記事で紹介した導入のポイントや事例を参考に導入効果を高める取り組みを意識してみてください。

コラムを書いたライター紹介

日向妃香

プロフィールはこちら

採用系コンサルタントとして企業の採用サポート・採用戦略構築・採用ノウハウの提供を行いながらライターとしても活動中。
得意分野は新卒採用とダイレクトリクルーティング。

関連コラム

コメントはこちら

一覧へ戻る