エシカル採用とは?注目される背景と具体的な実践法を解説


近年、企業の採用活動において、倫理的で公正な採用活動を行う「エシカル採用」という言葉が注目を集めています。
企業が社会的な責任を果たすことが求められる現代において、エシカル採用は企業価値を高め、優秀な人材を獲得する重要な戦略の一つになりつつあります。

本記事では、エシカル採用が注目される背景や具体的な実践法、導入時の注意点などを解説します。

エシカル採用とは?

エシカル採用とは、企業が社会的責任(CSR)や環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点から、倫理的な基準に基づき、公正で透明性の高い採用活動を行うことを指します。
具体的には、採用プロセスにおける差別や偏見を排除し、多様な人材を積極的に受け入れることや、労働者の権利を尊重し、働きやすい環境を提供することなどが含まれます。

エシカル採用の目的は、企業の利益追求だけでなく、社会全体にとって持続可能な成長を目指すことにあります。特に昨今のSDGsの推進やESG投資の拡大などの背景から、企業の採用活動にも倫理的な行動が注目されるようになりました。

エシカル採用が注目される背景

エシカル採用が注目される背景には、社会的な変化や価値観の多様化が大きく影響しているといわれています。
本章では、エシカル採用が注目される4つの理由について解説します。

SDGsへの貢献と企業の社会的責任(CSR)が増しているから

エシカル採用が注目される理由の一つに、社会のSDGsやCSRに対する注目が高まっていることが挙げられます。
SDGsとは国連が提唱する17の持続可能な開発目標であり、企業にも環境保護や社会貢献などの取り組みが求められています。またCSRとは、利益追求型の事業活動でなく、社会や環境へ配慮した事業活動を指します。
エシカル採用は、企業の社会的責任を果たすための手段の一つとして注目されており、エシカル採用の実施によって、SDGsの達成や社会的責任の遂行に貢献することが期待されています。

さらに企業がエシカル採用に取り組むことで、社会的な信頼を得るとともに、ブランドイメージの向上にもつながります。企業が提供するサービスや商品の消費者はもちろん、求人への応募者も倫理的な価値観を持つ企業を支持する傾向があり、エシカル採用に取り組む企業は、採用活動においても優位な状況を作りやすくなると考えられます。

労働者の働くことへの価値観が変化しているから

転職がキャリアアップの手段として一般化したことで、労働者は以前よりも主体的にキャリアを選択するようになりました。特にZ世代を中心に「働きがい」や「社会的意義」を重視する傾向がみられ、給与や待遇だけでなく、企業のビジョンや社会貢献活動に共感できるかどうかが、求職者の就職先を選ぶ際の重要な要素となりつつあります。

エシカル採用を実施する企業は、こうした価値観の変化に柔軟に対応し、持続可能な社会に貢献する姿勢を示すことで優秀な人材を引きつけることができるでしょう。また、働き方に多様性を持たせることで、さまざまなバックグラウンドを持つ人材が活躍できる環境を整えられる点も大きなメリットです。

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進に注目が集まっているから

エシカル採用が注目される背景には、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進も一因として挙げられます。グローバル化が進む昨今においては、インクルージョンへの注目も高まっており、企業は多様な人材を積極的に受け入れ、個々の違いを尊重しながら働ける環境を提供することが求められるようになりました。

また、多様性を尊重し、誰もが活躍できるインクルーシブな社会を実現することは、SDGsの目標の一つでもあります。企業は、エシカル採用を通じてダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進することで、社会的な課題解決に貢献し、企業価値を高めることができるでしょう。

投資家のESG投資への関心が高まっているから

エシカル採用の重要性が増しているもう一つの要因として、投資家のESG投資への関心が高まっていることが挙げられます。

ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの要素を重視して行われる投資のことを指し、特に欧米では、ESG経営を推進していない企業は投資を受けられないケースもあるといわれています。

企業のエシカル採用は、投資家の評価向上や資金調達の円滑化につながることが期待できます。また、社会的に責任を持つ企業である旨を示すことができ、ステークホルダーとの信頼関係を強固にする効果も得られるでしょう。

企業がエシカル採用に取り組むメリット

ここでは、企業がエシカル採用に取り組むことで得られるメリットについて解説します。

企業イメージ・ブランド力の向上

エシカル採用に取り組む企業は、倫理的な価値観を持つ企業として社会的に評価され、企業イメージやブランド力の向上が期待できます。
特に、SDGsや社会的責任を重視する時代において、企業が環境や社会に対してどのような配慮を行っているかは、消費者や取引先からの評価に直結します。エシカル採用を導入することで「人や社会を大切にする企業」というポジティブなイメージが形成され、信頼や好感度が高まるでしょう。

また、企業のWebサイトや採用パンフレットでエシカルな取り組みを発信することで、社会的責任を果たす企業として認知が広まったり、エシカル採用の実施が競合他社と差別化を図る要因になったりすることもあるでしょう。

優秀な人材の獲得と定着率の向上

エシカル採用に取り組むことで、倫理的な価値観を持つ優秀な人材を惹きつけやすくなる利点があります。
働き方への価値観が多様化する昨今において、多くの求職者は、単に給与や待遇だけでなく、企業の理念や社会貢献に共感するかどうかも、応募や入社を決める際の判断基準にしています。特にZ世代は、環境問題や社会的正義に対する関心が高く、エシカルな取り組みを行う企業に魅力を感じやすい傾向があります。

仕事を通じて社会的な課題解決に貢献する実感を得ることができれば、仕事へのやりがいも高まり、自然と社員のエンゲージメントも向上するでしょう。このようにエシカルな企業文化は、従業員の働きがいや満足度を高め、離職率の低下にも寄与します。

従業員のエンゲージメント向上

エシカル採用は、従業員のエンゲージメントを向上させる効果もあります。企業が倫理的な採用方針を掲げることで、従業員は「この企業で働くことに誇りを持てる」という意識が高まります。特に、企業が従業員のウェルビーイング(心身の健康と幸福)を重視し、公平な労働環境を提供することで、仕事に対する満足度が向上するでしょう。

また、従業員が社会貢献活動に参加する機会を提供することで、企業全体の士気や連帯感も強まります。このような取り組みを通じて従業員のエンゲージメントが高まれば、企業の生産性や業務効率も向上するでしょう。

採用コストの削減

エシカル採用の取り組みは、結果的に採用コストを削減できる可能性も期待できます。たとえば、多様な人材を公平に採用することで、採用の幅が広がり、求人活動にかかる費用や時間を削減できることもあります。また、エシカル採用に共感する応募者は、企業の理念に長期的に共鳴することが多く、従業員の定着率を高めることにもつながるでしょう。

結果的に、従業員の長期定着や採用活動の効率化を促し、採用に費やすコストを削減できます。

エシカル採用の具体的な実践法

本章では、エシカル採用の具体的な実践法を4つ紹介します。

多様な人材を積極的に採用する

エシカル採用の実践においては、差別や偏見を排除し、能力と意欲を重視した公平な採用基準を設定することが求められます。
具体的には、履歴書や面接における評価基準や質問内容を見直し、性別や年齢、国籍、障がいなどに依らない選考の確立が必須となります。なぜなら、多様な人材を受け入れることは、企業のイノベーションを促進し、競争力を高めることにつながるからです。また、多様性を尊重することは、企業の社会的責任を果たすことにもつながります。

多様な人材を活かすには、職場環境の整備も欠かせません。リモートワークやフレックスタイム制の導入、バリアフリー環境の整備など、柔軟な働き方を提供することで、全ての従業員が個性や属性、能力に捉われず、自身の能力を最大限に発揮できるようになるでしょう。

従業員のウェルビーイングを重視した労働環境を整備する

エシカル採用を成功させるには、従業員のウェルビーイング(心身の健康と幸福)を重視した職場環境の整備も必須です。
従業員のウェルビーイングを重視することは、従業員のエンゲージメントを高め、生産性の向上につながるでしょう。また、働きやすい環境は、優秀な人材の定着率向上にも寄与します。

具体的には、フレックスタイム制度やリモートワーク制度の導入、メンタルヘルスケアの充実などの取り組み例が挙げられます。加えて、過重労働やパワーハラスメントを防止するための取り組みを強化し、従業員が安心して働ける環境の提供に努めましょう。

また、定期的なカウンセリングやフィードバック制度を設け、従業員の意見や要望に耳を傾けるのも一つの方法です。

社会貢献活動への積極的な参加

エシカル採用は、採用活動そのものに焦点を当てた施策だけに留まりません。
社会貢献活動への積極的な参加は、企業イメージや従業員のエンゲージメント向上につながります。

具体的には、ボランティア活動や環境保護活動、教育支援プログラムへの協力などが挙げられます。従業員にも社会貢献活動に参加する機会を提供することで、社会的責任を果たす意識を高められ、企業への誇りや愛着を深めるきっかけにもなるでしょう。
一方で、どんなにエシカル採用を掲げていたとしても、自社の利益だけを追求する事業活動では、社会的な信頼を失い、企業イメージの低下を招く恐れがあります。

エシカル採用を実施する際は、目的に立ち返り、事業戦略や社会における企業の立ち位置とブレのない活動を推進することが大切です。

倫理的な企業文化の醸成

エシカル採用を推進するにあたっては、企業全体の文化として倫理的な価値観を醸成することも不可欠です。トップダウンの指示だけでなく、全従業員が企業理念を理解し、共有できるような取り組みを行いましょう。

たとえば、社内の行動規範や倫理ガイドラインを策定し従業員全員に周知する、定期的な社内研修やワークショップを実施し、エシカルな行動を促す教育を提供するなどの方法があります。

企業文化の醸成は、一朝一夕で達成できるものではありませんが、長期的に取り組むことで従業員の意識改革を促せるでしょう。

エシカル採用を導入する際の注意点

ここでは、エシカル採用を導入する際の注意点について解説します。

エシカルウォッシュへの対策を徹底する

エシカルウォッシュとは、企業が実際には倫理的な取り組みを実施していないにもかかわらず、表面的なイメージ戦略によって倫理的な企業であるかのように見せかける行為を指します。エシカルウォッシュは、応募者の信頼を裏切り、企業の評判を大きく損なう恐れがあります。

エシカル採用を導入する際は、単なるイメージ戦略ではなく、実際に倫理的な方針を実行に移すことが重要です。たとえば、「多様性を尊重する」と謳っているにもかかわらず、採用基準が従来のままであれば、エシカル採用を導入しているとはいえません。

エシカルウォッシュを防ぐためには、企業全体で倫理的な取り組みを徹底し、透明性の高い情報開示を行うことを意識しましょう。

採用活動と企業文化の整合性の担保に努める

エシカル採用を導入する際は、採用活動と企業文化の整合性を担保することも重要です。
仮に採用活動で「多様性を尊重する」と掲げていても、企業文化に変化や進展がみられないようでは、新たに採用した人材は定着しないでしょう。

採用活動を見直す際には、企業の理念や方針と一致するよう調整することを意識してみてください。
また、従業員に対する教育や啓発活動も行い、組織全体でエシカル採用の意義を共有することで、エシカル採用の形骸化を防止できます。

まとめ

エシカル採用は、企業が倫理的な価値観に基づき、公正で透明性の高い採用活動を実施することを指します。エシカル採用を実践することで、企業イメージとブランド力の向上や優秀な人材の獲得と定着率の向上、従業員のエンゲージメント向上など、企業は多様なメリットを得られるでしょう。

しかし、エシカル採用を導入する際は、エシカルウォッシュへの対策を徹底し、採用活動と企業文化の整合性を担保することが大切です。形ばかりのエシカル採用になると、定着率の低下を招くばかりか、社会からの信頼喪失を招く恐れがあります。
また、従業員にもエシカル採用を推進する旨を共有し、組織が一丸となって、エシカル採用を推進する土壌を醸成させましょう。

持続可能な企業成長にも寄与するエシカル採用は、企業の倫理的な取り組みが重要視される昨今において更なる注目を集めると予想されます。
従業員の定着率低下や応募者数の伸びに悩む企業は、社会的責任(CSR)や環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点を持ち合わせたエシカル採用にも注目してみてはいかがでしょうか。

コラムを書いたライター紹介

日向妃香

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採用系コンサルタントとして企業の採用サポート・採用戦略構築・採用ノウハウの提供を行いながらライターとしても活動中。
得意分野は新卒採用とダイレクトリクルーティング。

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