なぜ優秀な社員ほどすぐに辞めていくのか


突然、優秀な社員が退職してしまい困った経験をした人事担当者も少なくないのではないでしょうか。辞めていくのは会社の環境に問題があるケースがほとんどなため、要因を把握して事前に対処することが大切です。

この記事では、優秀な社員がすぐに辞めていく理由や前兆、辞めた後の影響について解説します。人材を定着させるための対策も紹介するので、優秀な社員の退職にお悩みの人事担当者の参考になれば幸いです。

優秀な社員ほど早く辞めていく5つの理由

優秀な社員が辞めていくことに悩む企業は少なくありません。優秀である人ほど会社の期待も大きいため、人材流出が組織に与える影響は大きいでしょう。ここでは、優秀な社員が辞めてしまう退職理由を5つ解説します。

1.評価や待遇への不満

優秀な社員ほど、自分の能力や貢献度を十分に把握しています。当然、結果に見合った評価や待遇を期待しているでしょう。ところが、企業では評価制度が適切に機能していないことがあります。例えば、年功序列型の評価制度になっており、若手は頑張っても正当に評価されにくいなどがあります。

また、評価に主観が入り、上司に気に入られている社員は評価が高く、そうでない社員は評価されないといった不公平な評価も原因のひとつです。さらに、優秀な人は、自分の市場価値を理解している人も多く、他社と比較して待遇が劣っていると感じれば、転職を考えるようになります。

2.成長できる機会がない

一般的に、優秀な社員は「自己成長したい」という気持ちが強い傾向にあります。そのため、新しい知識やスキルを身につけ、キャリアアップしたいと思うでしょう。一方で、企業側が十分な成長機会を与えていないケースがあります。具体的には、スキルアップのための研修がない、新しい仕事を任せてもらえないなどの要因が挙げられます。

このような状況だと「今の職場では成長できない」と感じ、会社に居る理由が薄れてしまいます。優秀な人ほど行動力が高い傾向にあるため、他社に目を向ける可能性が高まり、キャリアをより高められる環境を求めて転職するのです。

3.仕事の裁量権が少ない

優秀な社員ほど、自分の意見やアイデアを反映させたいという気持ちも強いでしょう。しかし、社員に与えられる裁量権が限られている企業は少なくありません。これは、モチベーション低下につながる大きな要因となります。

例えば、新しいアイデアを提案する際、上司や役員の承認がないと実行できないなどの環境は、創造性や主体性が削がれる原因です。また、予算や目標設定に関与できないなどの環境も、不満の高まりにつながります。優秀な人は自分の能力を自覚しているため、裁量権のある仕事をしたいと考えている人が多いのです。

4.やりがいを感じられない

仕事ができる人は、仕事に対して意義や価値を見出したいと考えています。それがやりがいにつながるからです。しかし、自分の役割が会社や社会にどう貢献しているのかを実感できなくなると、やりがいを失っていきます。

例えば、企業目標が不明確だったり、目的のわからない仕事が多かったりすると刺激が少なくなり、モチベーションも下がるでしょう。このように、優秀な人は、自分の仕事が意味のあるものだと感じられないと、やりがいを求めて転職を考えるようになるのです。

5.仕事ができる人に業務が集中する

優秀な社員は、能力が高いゆえに多くの業務を任されることがあります。しかし、これが長く続くと不公平感につながるのです。他の社員との業務量のバランスが取れていないと負担が増え続け、精神的・肉体的に疲弊してしまいます。

また、1人に対して依存が強くなると、最後は自分だけが責任を負うような状態に陥るケースも少なくありません。このような環境では、仕事への意欲が減少し、負担の少ない職場を探し始めるきっかけになります。

【新卒者対象】早期退職する人の割合新卒者を対象とした厚生労働省の調査によると、2019年大卒の場合は31.5%が入社3年以内に退職しています。

引用元:厚生労働省|新規学卒就職者の離職状況

また、業種によって大きな違いがあり、宿泊業・飲食サービス業で49.7%、続いて生活関連サービス・娯楽業の47.4%となっています。この調査結果を見ると、比較的長時間労働になりやすく、休みが取りにくい業界ほど早期離職者が多い傾向です。特に、企業規模が小さく5人未満の会社では半数以上が3年以内に辞めているという結果が出ています。

引用元:厚生労働省|新規学卒就職者の離職状況

優秀な社員が辞める前の兆候

優秀な人は突然辞めるわけではなく、多くの場合は辞める前に兆候が現れるのが一般的です。ここでは、辞める前のおもな兆候について解説するので、こうした兆候を早めに察知すれば対処が可能でしょう。

ネガティブな意見が増える

一般的に優秀な社員はポジティブな言動をとることが多いです。しかし、辞める前になると、ネガティブな意見が増加する傾向があります。これは、会社や仕事に対する不満が蓄積されている証拠といえるでしょう。例えば「無理だと思う」や「前にも失敗している」といった否定的な意見が増えます。また、会社の方針や決定に対して、批判的になることもあるでしょう。

ただし、ネガティブな意見が必ずしも退職の兆候とは限りません。中には会社をより良くしたいという思いから、建設的な批判を行う人もいます。そのため、真意を総合的に判断する必要があるでしょう。

有給休暇を消化するようになる

優秀な社員ほど仕事に対する責任感が強く、有給休暇を取らない傾向があります。しかし、辞める前になると、有給休暇を積極的に消化し始める人も少なくありません。有給休暇を使って、次の就職先を探している可能性があります。

有給休暇の取得自体は問題ではありません。しかし、頻度が明らかに変化している場合には、退職の予兆であることも考えられるでしょう。有給休暇の取得頻度が増えた場合は、一度面談を行なって理由を聞いてみるのも方法です。

仕事に対する積極性がなくなる

優秀な人は、仕事に対して高いモチベーションを持ち積極的に取り組みます。しかし、辞める前になると積極性が失われていくでしょう。具体的には、指示された業務だけを淡々とこなすことや、必要最小限の仕事しかしないといった行動も見られるようになります。たとえば、会議の場などが顕著です。優秀な社員ほど積極的に発言する傾向があります。

しかし、会社への帰属意識が薄れれば、極端に発言が少なくなるでしょう。以前は積極的に意見を述べていた社員が急に発言しなくなった場合、職場に対する不満の高まりや、モチベーションの低下が発生しているかもしれません。こうした変化が見られた場合には個別に面談を行い、話を聞いて改善することで離職を防げます。

コミュニケーションを避けるようになる

優秀な社員が辞める前兆として、コミュニケーションを避けるようになるケースもあります。職場での会話が少なることや、相談しなくなったと感じられる場合は、会社との距離を取ろうとしているかもしれません。

例えば、会食に誘っても来なくなったり、ランチを一人で食べたりすることが増えるケースがあります。また、他の社員との関係性が急にぎくしゃくした場合は、既に冷めた感情を抱いている可能性が高いでしょう。周囲が敏感に感じている場合もあるので、他の社員に聞いてみるのも早めに兆候に気づく方法です。

【実例】優秀な社員が辞めることによる影響

優秀な社員が辞めた場合、単に一人の社員が抜けるだけにとどまらず、組織全体に影響を及ぼす可能性があります。ここでは、優秀な社員が辞めた後、組織に起こり得ることを実際の事例をもとに見ていきましょう。

採用コストが増える

優秀な社員が辞めると、欠員補充のため採用活動を実施する必要があります。具体的には、求人掲載や選考対応をはじめ、入社後の教育など多くの時間とコストがかかります。

優秀な社員の代わりになる人材を見つけることは、簡単ではありません。結局、社内では見つからず、高額な給与を提示して外部から募集することになり、結果的に人件費が上昇したケースがあります。

懸念されるのは、優秀な社員の離職が取引先企業に与える影響です。社外から見ると、優秀な人材が辞めることで「何か問題があるのではないか」と感じることも少なくありません。
そのため、ネガティブな噂が立つ可能性もあります。

業務生産性が落ちる

社員が辞めると、業務の引き継ぎなどで一時的に生産性が低下します。特に、辞めた社員が専門的なスキルや知識を持った人物だったため、その穴を埋めるのは簡単ではなかったといった事例があります。

また、新しく採用した人材が戦力になるまでの間はどうしても業務効率が低下します。最も大きな影響としては、辞めた社員が持っていたノウハウと顧客との関係性が失われることです。担当者が変わることで、1から信頼関係を築く必要があり、顧客の好みや要望を深く理解するには時間がかかります。結果として、最適な提案ができず受注量が減り生産性が著しく低下した企業もあります。

他の社員の士気が低下する

優秀な社員が辞めると、残された社員にも影響を与えます。一部の社員の中から「なぜ彼が辞めたのか」や「次は自分が辞めさせられるのではないか」といった不安が周囲に広がったケースもあります。

さらに「この会社に将来性がないから辞めたのだろう」と推測し、仕事へのモチベーションが低下した社員がいたという事例もあります。こうした影響は、組織全体の雰囲気を悪化させる可能性が大きいでしょう。そのため、優秀な社員が辞めた後は、残された従業員のケアや新たなチーム作りに十分な注意を払う必要があります。

残された社員の仕事量が増える

優秀な人が辞めると、そのクオリティをカバーするために残された社員の仕事量が増加します。そのため、特定の社員に業務が集中してしまい、過度な負担がかかってしまった事例もあります。結局、通常の業務時間内で処理しきれない量の仕事が発生し残業が増えたのです。

すでに多忙な社員に追加で負担がかかってしまい、進行の遅れやミスが発生する例もありました。このような状況が続けば、体調にも影響が出る可能性があるため、人員配置や業務分担には十分な配慮が必要です。

連鎖して他の社員も辞めてしまう

「退職ドミノ」と言われる現象のように、優秀な社員が辞めると、連鎖的に他の社員も辞めてしまうケースは少なくありません。残された社員が「目標にする人がいなくなった」や「後任の人と合わない」といった理由で離職が続く事例は多くあります。特にリーダー的な存在で、同僚からも尊敬されている人物だと影響はさらに大きいでしょう。

問題なのは、優秀な社員が辞めることで、職場の雰囲気や企業文化が変わってしまうことです。退職の連鎖を防ぐためには、離職が発生した際に、残された社員が安心できる環境を整える必要があります。

優秀な社員を辞めさせないための5つの対策

優秀な人が会社を辞める原因は、職場環境や待遇に対する不満がほとんどです。こうした問題を解決するためには、積極的に社員の満足度向上に取り組む必要があります。最後に、優秀な社員を辞めさせないための具体的な対策について詳しく見ていきましょう。

1.成長の機会を与える

成長の機会を与えることは離職を防ぐ効果があります。特に、優秀な人は自己成長欲が強いため、常に成長できる環境は長く働き続けるための重要な要素です。具体的には、社内研修や外部セミナーへの参加、資格取得の支援などが挙げられます。

また、積極的にプロジェクトを任せるなど、スキルアップのチャンスを作ることも有効です。会社が社員の成長を支援する姿勢を示すことで、キャリアプランを立てやすくなり、長く働きたいと思うようになります。

2.社員の意見に耳を傾ける

退職理由として多いのが「自分の意見を聞き入れてもらえない」というものです。優秀な社員は積極的に意見を主張する傾向があるため、その意見にしっかりと耳を傾けることが、優秀な社員の流出を防ぐことにつながるのです。アイデアや提案だけでなく、要望や不満も聞きましょう。

不満や改善点については、上司に伝えにくい人もいます。そのため、匿名で書ける「意見箱」を設置すると集まりやすくなるのでおすすめです。自分が伝えた意見が実際に取り上げられたり改善されたりすることで、社員は自分の声が尊重されていると感じ、会社に対する満足度が向上します。

3.適切な評価と待遇を見直す

優秀な人ほど、自分の成果に対して正当な評価を求めています。不公平な評価や待遇が続けば、不満が募り離職につながる可能性が高まるでしょう。そうならないためには、透明性のある評価基準を導入し、成果に応じた昇進や昇給の実施が不可欠です。

また、非生産部門のように業績や成果が見えにくい部門に対しても、努力や成長を評価することが重要です。正当に評価することでモチベーションが高くなり、長く働きたいと思うようになります。

4.ワークライフバランスの改善

近年、ワークライフバランスの重要性はますます高まっています。従って、自社が仕事とプライベートのバランスが取れない環境であれば、社員が転職を考えるきっかけになることも少なくありません。

福利厚生の充実などは、時間とコストもかかり、すぐには実現できないかもしれません。そのため、長時間労働の是正や、休暇の取得促進といった施策から始めましょう。また、フレックスタイム制や勤務時間の見直しなどもコストをかけずに導入できるので検討してみてください。

5.会社のビジョンや方向性を明確にする

会社のビジョンがよくわからないことも、将来を不安にさせます。会社としてどのような目標を持ち、どのように価値を提供するのかが明確でなければ、自分の役割を把握できないからです。優秀な社員ほど、自分に与えられた役割を果たそうとする傾向があります。

また、明確にするだけでなく、定期的に進捗の報告も行うことで自分の成果が確認でき、モチベーションの向上につながります。会社のビジョンに共感し、成長に貢献したいと思えるかが、定着するかどうかのカギを握っているのです。

まとめ

優秀な社員がすぐに辞めることは、企業にとって大きな損失になります。そのため、長く活躍してもらえる環境を整えることが不可欠です。対処法として、適切な評価と報酬、成長の機会を与えることが重要となります。また、社員の意見に耳を傾けることや、会社のビジョンを明確に示すことも定着のポイントです。

また、優秀な社員が辞めた場合、採用コストの増加や生産性の低下だけでなく、離職の連鎖を引き起こす可能性もあります。これを防ぐためには、メンバーが変わることによって、企業風土が変わらないように、残された社員が安心できる環境を整えることが大切です。

コラムを書いたライター紹介

松尾隆弘

プロフィールはこちら

キャリア30年の元人事担当。3業界で採用や社員教育、労務管理に従事。社内FPとして退職後のキャリア支援や人事コンサル事業にも携わる。2022年にライターへ転向し、現在は採用や転職・人材育成などHR分野を中心に執筆活動中。

コメントはこちら

一覧へ戻る